超絶技巧から繰り出される多彩な音の
世界へ! 髙木竜馬「『ピアノの森』
ピアノコンサート2022」が開幕~初日
公演をレポート

ショパン・コンクールに挑む若者たちの青春群像を描き出した一色まこと氏の名作漫画『ピアノの森』。ストーリー中で展開する一つひとつのシーンをリアルに思い起こさせてくれる「『ピアノの森』ピアノコンサート2022」ツアーが2022年8月5日(金)、東京の浜離宮朝日ホールで幕を開けた。9月25日(日)まで約一か月半をかけて全19公演・18会場をめぐる待望の長期ツアー初日の演奏会の模様をお伝えしよう。

幼い頃から異なった環境で育ちながらも、ピアノの道を志すことによって運命的に出会い、ともに切磋琢磨し成長する少年たち。彼らはやがてショパン・コンクールの舞台を目指してゆく――。そんな若きピアニストたちの青春群像を描き出した一色まこと氏の漫画『ピアノの森』は、文字通りピアノ作品の名曲とともに波乱万丈のストーリーが展開してゆく。
原作漫画のストーリーの中で沸き起こる一つひとつのシーンをリアルに思い起こさせてくれる「『ピアノの森』ピアノコンサート」 。昨年に引き続いてのツアー第二弾が8月5日(金)、東京の浜離宮朝日ホールでキックオフを迎えた。ツアーを牽引するのは、昨年に引き続き、NHKで放映されたTVアニメ版『ピアノの森』で雨宮修平役のピアノ演奏を担当したピアニストの髙木竜馬だ。
連日の猛暑もものともせず、会場には熱心な『ピアノの森』ファンをはじめ、夏休みを楽しむ子どもたちから、お孫さんたちを連れて来場するおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い年代の聴衆たちが集っていた。平日の昼にもかかわらず会場は満員御礼。この日のチケットは早くから完売したという。会場入り口には今年もこのツアーのために原作者の一色まこと氏自らが手掛けたスペシャルな原画が飾られ、開演前から会場全体が熱気を帯びていた。ピアノが置かれたステージには森の情景をイメージした涼しげで幻想的な背景が映し出されており、会場に集った聴衆を『ピアノの森』の世界観へと誘い込む。(編集註:照明演出は浜離宮朝日ホール限定の特別バージョンのため、他会場での演出はなし。9月18日(日)同会場での公演では実施される)
14時の開演とともに、ピアニストの髙木竜馬が颯爽とステージに登場。これから休憩をはさんで約二時間にわたるピアノとトークによる一人舞台が繰り広げられる。プログラム前半は、冒頭で演奏されたベートーヴェン「エリーゼのために」を除いては、すべてショパンの舞踊作品というラインナップ。一曲目の 「エリーゼのために」では、髙木は品格あふれる粛然たる演奏ぶりで聴衆を『ピアノの森』というコンセプトにふさわしい、深い瞑想的世界へと誘う。
一曲弾き終えると、髙木はマイクを持って自己紹介とともに挨拶。自らNHKで放映されたアニメ作品で雨宮修平のピアノを担当したことにも触れつつ、「本日演奏される音楽を通して作品全体が描きだす世界へと想像を膨らませて欲しい」と語った。昨年、実際にポーランドで開催されたショパン国際ピアノコンクールでの盟友 反田恭平の活躍ぶりなど、リアルなショパン・コンクール談義にも話が及び、すでに冒頭のトークからエンジン全開。話し上手でも知られる髙木のウィットの利いたトークが一人舞台に華を添える。
続いてショパンの小品三曲――「別れのワルツ」「小犬のワルツ」そして「華麗なる大円舞曲」を続けて演奏。演奏前に、原作においてこれらの作品がどのようなシチュエーションで奏でられるのかを髙木自身が丁寧に語ってくるのも嬉しい。音楽作品自体が持つ背景やエッセンスも巧みに挿入しながらの解説で、聴衆もよりいっそう興味がそそられたことだろう。今回は会場で配布されているプログラムの曲目解説にも、曲目ごとに原作ストーリーにおいて展開されるシーンの状況説明や、「●巻●話」という具体的な但し書きが記載されているのも嬉しい限りだ。
前半プログラムのラストを飾るのは、続いてもショパンの大作品「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。髙木は多彩な表情を見せながら、丁寧に歌い紡いでゆく。さりげないダイナミズムや鮮烈なまでの精緻さが光る髙木ならではの真摯な演奏ぶりで、前半最後を飾るにふさわしい好演だった。
プログラムの後半は、少しだけ “玄人好み” の作品で始まった。ショパンの「24のプレリュード」から 第13番 と終曲の第24番。まず、第13番では、息の長いダイナミクスでじっくりと旋律を歌い、”ノクターン” や ”舟歌” を思わせるたおやかな旋律が醸しだすふくよかな余韻を会場空間に響き渡らせる。雨のしずくが滴るように細部まで緻密にコントロールされた美しい音の粒も印象的だった。続いて、激しいパッションに満ちた第24曲へと突入。冴えわたる技巧を惜しみなく披露し、みなぎる集中力で激情を力強く表現した。
続いてはリストの「ラ・カンパネラ」。ここでも演奏前の髙木の “シチュエーション解説” が興味深い。加えて演奏では、しばし鮮やかな超絶技巧で客席をヴィルトゥオーゾの世界へと誘う。繊細ながらも華麗なる演奏で会場からは拍手喝采。聴衆も興奮の様子だ。「今回初めてこの作品に挑んだ」という髙木だが、そのみずみずしいまでの超絶技巧から繰り出される多彩な音をぜひ生の客席空間で体感して欲しい。
続いては、お馴染みの「スケルツォ 第二番」。原作では (髙木がNHK放映のアニメ版でピアノを担当した) 雨宮修平がショパン・コンクールの第一次審査で演奏する設定になっており、髙木にとって十八番的な作品だ。会場に集った聴衆も髙木のこの一曲を心待ちにしていたに違いない。昨年のツアーでも拍手喝采を浴びていたが、今回もさすがに堂に入った演奏ぶり。テンポの緩急の鮮やかな駆け引きにショパンらしい洒脱さとギャラント (男性的な華やかさ)なスタイルが表出されており、粒のそろった軽やかな音色が美しい。そして、何と言ってもクライマックスの “持って行き方” がカッコいい。客席の子どもたちにも、そのカッコよさとバランスの整ったショパンらしい洗練された美しさがしっかりと伝わったことだろう。
そして、最後はこれもお馴染みの「ポロネーズ第6番 ≪英雄≫」。髙木は演奏前に「ポーランドの国民的英雄ドンブロフスキ将軍をイメージしている」という自身の本作品への思いと、これからの約一か月半にわたるツアーに向けての意気込みを熱く語り、ピアノに向かう。貴族的なポーランド舞曲らしいノーブルな美しさとともに、目を見張るような力強いオクターブの連打なども惜しみなく披露。ピアノ本来の持つ勇壮なダイナミズムや力強いメカニズム、そして、ピアノ音楽のすばらしさなどの様々な美点が髙木のこの演奏を通して客席にも余すことなく伝わったのではないだろうか。演奏後、惜しみない拍手が続いた。
観客の期待に応えて、この日のアンコールはグリーグ国際ピアノコンクールで優勝した経歴を持つ髙木のもう一つの十八番——グリーグ作品からの一曲。森の情景に包まれた幻想的な演奏会を締めくくるにふさわしい優雅な響きに、会場は最後まで夢見心地の様子だ(ツアーはまだまだ続行するので作品名はあえて伏せておく)。
事前のインタビューで、「長期ツアーでは、一つの作品を演奏し続けることで新たな発見や気づきも数多くあり、ツアー最初の演奏と最後の演奏ではまったく違うものになっていることもある。それが何よりもの喜び」と語っていた髙木。今後、ステージを重ねるごとに期待され “深化” が楽しみでならない。
なお、今年のツアーは関東近県以外の都市での開催もラインナップされており、近畿 (大阪/奈良県大和高田市/三重県四日市市) 、北陸 (金沢市)、中部 (静岡県・三島) などの地域も含む全18会場での開催と、さらに規模もパワーアップされている。「より多くの『ピアノの森』ファンの皆さまに出会えることも楽しみです」と髙木からのメッセージ。一部すでに完売公演もあるようだが、ぜひお子さんやお孫さんと一緒に、涼やかで、熱い 『ピアノの森』 の音の世界を堪能してみてはいかがだろうか。
おまけ
取材・文=朝岡久美子 撮影=荒川潤

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