『不死身のタイマーズ』は
邦ロック史の焚書か? 死海文書か?
これは聴いてはいけないアルバム。
聴くな! 絶対に聴くなよ!
キャッチーさとリフレインの妙味
加えて…だ。楽器はもちろんのこと、歌でのリフレインの使い方が実に巧みで上手い。M3での《ゴミ》や、M6の《ブッシャー ブッシャー》、あるいは(厳密に言えばリフレインではないけれど)M5での《キム》の連呼などがそれに当たる。白眉はM7の《トロン トロン》だろう。ライヴで初めて聴いた人でも思わず口にできる親しみやすさがありながら、その効果(?)も分かる。こんなに短くてこんなに分かりやすいフレーズはそうない。公序良俗に反した内容でなければ天晴れと絶賛したいところだが、ここは“呆れてものも言えない”と言っておこう。あと、「雨あがりの夜空に」や「SKY PILOT / スカイ・パイロット」から比喩表現をきれいさっぱり抜き去ったようなM8でも、THE TIMERSならでは…と言えるリフレインを聴くことができる。こちらも最悪なワードの連呼に完全に苦笑いするばかりである。いい大人がやることではない。もっと突っ込むならば、これらのリフレインを使ってオーディエンスとコール&レスポンスを行なおうとした節もある。いくら観客を盛り上げるのがライヴと言っても、やっていいことと悪いことがある。音源を聴く限り、そのコール&レスポンスに応えていたかどうかははっきりしなかったけれど、笑い声や歓声も結構聴こえるので、会場にいたオーディエンスもZERRYに乗せられていたことは間違いない。盛り上がって観客もTHE TIMERSと同罪である。彼ら彼女らもまた大人ではないと言ってよかろう。
賢明な読者の方であれば、ここまでお読みいただいてお分かりになったと思うが、本作は実に醜悪なアルバムなのである。THE TIMERS を指して“さすが清志郎!”とか“これぞロックだ!”といった意見もネット内にはあるようだ。“いや、そもそもあれはZERRYだし…”というお約束の指摘はいったん脇に置いておくが、こうした諸手をあげての絶賛傾向もどうかと思う。成人した、いい大人はこうしたものを喜んではいけないのだ。そう言えば、M11の演奏前、ZERRYは“だまってらんねーのか、お前ら”と騒ぐ観客を一喝したあとで、“ち×こ、ま×こ、し×こ、う×こ”と言っている。こんなことを言って喜んでいるのは子供だけだ。大人が聴いて楽しめるものでないことは、そこだけを取ってみて、明々白々である。本作はすでに廃盤になっているようで、中古市場では結構な高値がついているらしい。幸いにも…と言うべきか、サブスクにもないし、子供が簡単に手に入れられるものではない。ひとまず良かったと言うべきだろう。そうは言っても、子供は抑えが効かないもので、何とかして探そうとする輩は出てくるかもしれない。よって、最後にもう一度釘を刺していく。『不死身のタイマーズ』は聴くな。絶対に聴くなよ。
TEXT:帆苅智之