『不死身のタイマーズ』は
邦ロック史の焚書か? 死海文書か?
 これは聴いてはいけないアルバム。
聴くな! 絶対に聴くなよ!

1990年代のニュースを閉じ込めた歌詞

そんなふうに忌野清志郎やRCサクセションが風化しないことは筆者としても大歓迎である。しかし、忌野清志郎によく似ている人物、ZERRYが1980年代後半に結成したTHE TIMERSはいただけない。あれは封印したほうがいい。いや、現密に言うなら、デビューアルバム『TIMERS』はまだいい。『TIMERS』はメジャーレーベルからリリースされただけあって、危ないとか何だとか言われてはいるが、冷静に聴けばそうでもないことはよく分かる。「カプリオーレ」辺りに危険な匂いがしなくもないものの、今となっては昭和の終わりを市民目線で描いたものとして見ることもできる。最近の人たちにはサラッと聴けるものになっているのではないかと思う。セブン-イレブンのCM曲としてすっかり有名になった「デイ・ドリーム・ビリーバー 〜DAY DREAM BELIEVER〜」が収録されているアルバムでもある。サブスクにもあるし、若い世代にも聴いてもらっていいと思う。『復活!! The Timers』もまだいい。こちらもメジャー流通だけあって、比較的まともだ。「宗教ロック」や「覚醒剤音頭」なんて楽曲もあって、「宗教ロック」はやや物議を醸しそうな内容だけれど、「覚醒剤音頭」は《覚醒剤を追放しましょう》と歌っている。真っ当と言えば真っ当だ。

だが、その『復活!! The Timers』から数日後に発売された『不死身のタイマーズ』だけはいただけない。これだけは聴いてはいけない。絶対に聴いてはいけない。まぁ、百歩譲って、いや千歩譲ってM1「ヘリコプター」と、万歩譲ってM2「夢のかけ橋」はよしとしよう。M1は本作で唯一のスタジオ録音による、オルガンも入ったファンキーなナンバー。ギターのカッティングがシャープでカッコ良い。歌詞は阪神・淡路大震災の際、被災地上空を飛ぶ報道用ヘリコプターの騒音によって、助けを呼ぶ被災者の声が聞こえなかったという事象を批判した内容である。なかなか気骨がある。ちなみに本作(のM2以下)がライヴ録音されたのは1994年12月13日。阪神・淡路大震災が1995年1月17日なので、ライヴの時点では少なくとも歌詞はなかったことは確実で、それゆえの唯一のスタジオ録音なのだろう。M2はカリプソ、もしくはソカと言っていい躍動感あるリズムに乗せて、日本の名立たる橋を建設したこと、引いては世界中に建物を作りたいとする、まさに夢を綴ったものだ。《皇居の中にホテルを建てるだぁ》は“ん?”と思わせるものの、全体の割合からすればほんのわずかであるし、“夢”と言ってるのだから聴き捨てられよう。何より鳶職的な出で立ちでライヴをしていたTHE TIMERSだけに、それに相応しい内容と言える。ここまではいい。

問題はこのあとである。…と、いつもの当コラムであれば、ここでその当該部分を指摘し、歌詞を列挙して、文字数、ライン数を稼ぐところだが、『不死身のタイマーズ』収録曲はそれすらも憚られる内容ばかりだ。どんな内容か。この本文が終わったところの下部に収録曲が記されているので、そこを開いてご覧になってもらえれば大体想像がつくのではないかと思う。検索すればほぼ調べられるので、物好きな方が調べられることを止めはしないけれど、人によってはその想像のかなり上を行っていると思しきものがあるかもしれないので、そう思う方は悪戯にググらないほうがいい。ググるなよ。絶対にググるな。十万歩、百万歩譲って、あえてあえて、その歌詞に何か意義を見出すとするならば、M9「イツミさん」、M10「トカレフ(精神異常者)」辺りに、ジャーナリスティックなスタンスを感じることができるかもしれない。M9は1993年に癌再発を記者会見で告知したのち、亡くなられたフリーアナウンサーのことを綴ったもの。M10は1994年に起こった品川医師射殺事件をモチーフにした歌詞だと言われている。歌詞の内容への賛否、真偽はともかくとして、おおよそ30年前の出来事であるがゆえに、ともに今はほとんど語られることはない。筆者は、M9はともかく、M10は完全に忘却していた。

ちなみに、話は戻るが、M1に関しても、さすがに大震災は忘れてはいないけれど、報道ヘリのことは本作を聴き直すまで気にすることはなかった。ZERRYがどこまで意図したのかは定かではないが、氏がその時に感じたことを楽曲にし、録音して形に残したことで、それらはまさにレコード(=記録)となっている。歌詞の内容の良し悪しとは別に、そこはTHE TIMERSの存在意義として認めてもいいところではあろう。もちろんM1、M9、M10以外にも、そうした側面の楽曲がこのバンドにはある。

OKMusic編集部

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