『静香』に注がれた
中島みゆきの力強さが
工藤静香のポテンシャルを
最大限に発揮

『静香』('88)/工藤静香

『静香』('88)/工藤静香

7月20日、工藤静香のソロデビュー35周年記念のセルフカバーアルバム『「感受」Shizuka Kudo 35th Anniversary self-cover album』がリリースされた。今週はその工藤静香のデビュー時を振り返ってみよう。工藤静香と言えば、個人的にも中島みゆきからの楽曲提供のイメージが強いことは本文でも書いた通り。それならば中島が全歌詞を書いた2ndアルバム『静香』を取り上げるのが筋だろうとその音源を含めて調べていったら、その比較対処として1stアルバム『ミステリアス』についても書かなきゃならない…となって、結局いつものコラムの倍近い文字数になってしまった。何卒ご容赦を。

中島みゆきによる楽曲提供

トップアイドル歌手というのは、優秀かつ個性的な作家が彼ら彼女らの楽曲を作ることで、その地位をより盤石として、真のトップアイドルとなるのだと思う。松本 隆、大瀧詠一という元はっぴいえんどのメンバーが携わったアルバム『風立ちぬ』を経て、松任谷由実をコンポーザーに迎えて「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」「小麦色のマーメイド」というヒットシングルを連発した松田聖子。来生えつこ・来生たかおコンビや竹内まりやを作家陣が楽曲を提供した薬師丸ひろ子。角松敏生プロデュースによって本格ブレイクすることになった中山美穂。その前の世代で言えば、阿木燿子・宇崎竜童の布陣による山口百恵もそうであろうか。中森明菜にはコンビと言えるような作家が存在せず、バラエティー豊かな顔ぶれによって作品毎に異なるカラーを打ち出すことで、それが中森明菜のスタイルとなるという稀有な存在ではあるが、逆説的に件の作家とのコンビネーションを証明することになっているように思う。その観点で言うと、工藤静香にとっては中島みゆきという存在が重要かつ欠かせないパートナーであったと言える。Wikipediaにも以下のように少し長いが引用させてもらう。

[1988年にリリースしたシングル、「FU-JI-TSU」を皮切りに中島みゆきより多くの詞の提供を受け、それらからヒット作が多く生まれている。なお、中島はこれまでに40人を超える歌手に104作もの曲や詞を提供しているが、工藤への提供作品は2割強にあたる24作(最新作は2021年12月発売の配信シングルの「島より」)を占めており、最多である(これに次ぐのは研ナオコへの15作と、柏原芳恵への4作。詞・曲共に提供した数では研ナオコへの15作が最多)。ソロデビューした当時、中島みゆきを担当していた渡辺有三ディレクター(ポニーキャニオン所属。当時中島もキャニオン所属だった)が工藤を兼任することになったことと、デビュー前に工藤が渡辺より「中島みゆきと松任谷由実と竹内まりやなら誰が一番好き?」と聞かれ、中島みゆきと答えたことから縁が出来たとされる(それ以前より中島の曲に影響されたともいわれている)]([]はWikipediaからの引用)。

中島みゆきが他者へ提供した楽曲の2割強が工藤静香へのものだというのは、これはもう十分過ぎる工藤静香楽曲の特徴と言っていい。中島みゆきあっての工藤静香…とも完全に言い切れないけれど、中島みゆきの作風が少なくとも初期工藤静香楽曲の歌詞を方向付け、彼女のイメージをある程度、確立したのではないか。今回、当コラムで工藤静香作品を取り上げるにあたり、1stアルバム『ミステリアス』から2ndアルバム『静香』と続けて聴いてみて、それを確信したようなところがある。よって、本稿は『静香』だけでなく、『ミステリアス』収録曲にも大分触れることになると思うが、その点は予めご了承いただきたい。

ソロデビュー前、おニャン子クラブ(以下、おニャン子)時代の工藤静香を少し振り返りたい。彼女は1986年5月に番組内オーディションで合格してグルーブに参加している。会員番号38番。会員番号36番の渡辺満里奈の次の次だ。新田恵利や国生さゆりなど初期メンバーが卒業したあと、後期おニャン子の中心として活躍していたようだ。個人的な話をすると、1987年頃までは間違いなくおニャン子クラブの番組『夕やけニャンニャン』をほぼ毎日観ていたと思うのだが(番組を見終えてバイトへ行くというのが毎日のルーティンだったのです)、この頃の印象がさっぱりない。それは加齢による大幅な記憶の衰退と、その後の工藤静香や渡辺満里奈らの活動の印象が強いため、相対的におニャン子時代の印象が薄まっているのだと思う。

ただ、彼女のデビュー曲「禁断のテレパシー」を初めて聴いた時のことはよく覚えている。かなり衝撃的だった。生稲晃子、斉藤満喜子との3人組ユニット、うしろ髪ひかれ隊で彼女の歌が上手いことは知っていた(そこの記憶もあやふやだけど)。それでも、「禁断の~」のカッコ良さにちょっとピリッとしたことは覚えている。その発売日が『夕やけニャンニャン』の最終回だったことなど今回調べるまでまったく知らなかったけれど、“おニャン子の最後の最後にとんでもない人が現れたなぁ”と感嘆した記憶ははっきりとある。おニャン子は女子高生が中心だったためか、ソロでもどこか牧歌的というか、可愛い感じのナンバーが多かったが、「禁断の~」からはその素振りはまったくと言っていいほど感じられなかった。ひと言で言えばシャープということになろうか。牧歌的とは真逆の鋭さがあった。今になって思えば、工藤静香のソロデビューは、おニャン子がきれいさっぱりと終わったことを示していたのかもしれない──そんなこともちょっと思う。

OKMusic編集部

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