演出家・振付師としても活動 奥山寛
に聞く、役者と演出家それぞれの活動
の根底にある想い /『ミュージカル
・リレイヤーズ』file.12

「人」にフォーカスし、ミュージカル界の名バイプレイヤーや未来のスター(Star-To-Be)たち、一人ひとりの素顔の魅力に迫るSPICEの連載企画『ミュージカル・リレイヤーズ』(Musical Relayers)。「ミュージカルを継ぎ、繋ぐ者たち」という意を冠する本シリーズでは、各回、最後に「注目の人」を紹介いただきバトンを繋いでいきます。連載第十二回は、前回高木裕和さんが、「いろんな視点から舞台を観ることができる人」と紹介してくれた奥山寛(おくやま・ひろし)さんにご登場いただきます。俳優のみならず演出家・振付家としてもコンスタントに活動を続ける奥山さん。7月上演の演出作、ミュージカル『春のめざめ』についてもたっぷりと伺いました。(編集部)
「メッセージを届け続けていきたいんです」
役者として舞台に立ち続ける傍ら、演出家としても作品作りに励む奥山寛。幼少期にミュージカルに魅入られたその日から、彼の舞台人生は始まった。
2022年10月には『エリザベート』の出演が控えているが、今は演出家としてミュージカル『春のめざめ』の稽古真っ只中だ。
かつてない猛暑が続く7月某日、浅草九劇の真下に位置する9COFEE /LOUNGEにてインタビューを行った。
役者と演出家。この二つは作品作りにおいて全く異なる立場だが、彼の根底にあるのは一つの揺るぎない想いだった。
役者と演出家、それぞれのルーツ
――役者と演出家という二つの顔を持つ奥山さんですが、それぞれのルーツを教えていただけますか?
まず僕がミュージカルの世界に目覚めたきっかけは、小学3年生のときに観た映画の『ウエスト・サイド・ストーリー』。母がダンスをやっていたこともあって、たまたま家に映像資料があったんです。初めて観たときに「あ、これやりたい!」と直感で思いました。踊ったり歌ったりする姿がとにかく楽しそうだったんでしょうね。それから児童劇団に所属したのが始まりです。
――奥山さんは子役としてもご活躍されてきましたが、その間もミュージカルをやりたいという想いは変わらず?
そうですね。周りに『アニー』や『ピーター・パン』などミュージカルの世界で活躍している子が多かったので、僕もミュージカルをやりたいという想いは変わりませんでした。中学に入るまでは子役としてミュージカルに出演していましたが、声変わりがあってミュージカルに出演しない時期も。その頃はモデルや映像の場で活動を続けていました。
――子役としての活動の中で、演出家の仕事に興味を持つようになったのでしょうか?
はい。演出家をやりたいと初めて思ったのは、小学校6年生のときなんです。
――なかなか早い段階で目覚めましたね!
そう、早かったんですよ(笑)。帝国劇場で『回転木馬』(1995年、東宝版初演)というミュージカルに出演したときです。当時、演出補を務めていたのがマシュー・ホワイトさん。最近だと2018年に『TOP HAT』の演出をされている方です。彼の教え方がとにかく楽しくて! 僕ら子役相手にワークショップをしてくれたのですが、遊びながらそれが自然とお芝居へと繋がっていくんです。彼との出会いで「演出家という道もあるのだな」と初めて意識しました。
――実際に初めて演出を手掛けたのはいつでしたか?
僕自身は所属していなかったのですが、大学にミュージカルサークルがありました。そこでたまたま『tick, tick...BOOM!』を演出をする機会をいただいたんです。初めてなのでわからないことだらけではあったのですが、「やっぱりこれがやりたかったんだな」というものが掴めた瞬間でもありました。
>(NEXT)奥山寛の演出スタイルは?
「僕の演出スタイルは“とにかく細かい”と言われています(笑)」
――子役時代を経て、いざ大人として舞台のお仕事を始めたのはいつ頃ですか?
商業的な作品で言うと、ジャニーズ事務所主催で少年隊が出演していらっしゃった『WEST SIDE STORY』ですね。大人として改めてデビューしたといえる作品です。確か19、20歳くらいだったと思います。
――奥山さんの直近の出演作を振り返ってみると、特に東宝版『エリザベート』に長く出演されていますね。
『エリザベート』に出演し始めてから、今年で12年目になります。東宝版の初演時から観続けていて、ずっと出たかった作品でもあるんです。初めてオーディションで受かったときは「なんて幸せなんだろう」と思いましたし、長らく出演させていただいて感謝しています。新演出になった2015年からはダンスキャプテンも務めているのですが、「常に一定のレベルをキープして作品のクオリティを下げないように」ということを念頭に取り組んでいます。作品に対する責任感がさらに増していますね。
――役者として作品に関わるときと演出家として作品に関わるとき、思考は全く違うものになるかと思うのですが、実際のところどうですか?
全くの別物ですね! 子どもの頃から役者として活動をしてきているので、演じるということは生きる上で欠かせないものになっています。役者=生活の一部という感じです。
演出のモードになるとありとあらゆるものを客観的に見なくてはいけません。客席にお客様が入ったらどう見えるのかという視点も持たなければいけないので、まるで頭の中に別の人間がいるような感覚になります。ただ、役者と演出家のどちらの立場でも、作品を通して毎回いろんな学びがありますね。
――ご自身が出演されているときに、演出家目線で客観的に作品を観ることはありますか?
いや、それは絶対にしないですね。僕が役者として一番大切にしていることがあります。それは、演出家と振付家の言ったことが100%絶対だということ。だから、役者のときは自分が演出家目線になることはないですし、常にアンテナを張り巡らせて稽古に挑んでいます。
――なるほど。では演出家として大切にされていることは?
……いっぱいあります(笑)。その中でも特に大切にしていることは“言葉を届けること”ですかね。台詞そのものというよりは、言葉のニュアンスや裏の意味であったり、時には一つの言葉にいろんな意味が詰め込まれていたり。それらをお客様にどう感じ取っていただくか、かなり細かいところまで意識しています。なので稽古場ではいつも「言葉! 言葉! 言葉!」と口うるさく言っています(笑)。
――台本を読む際に意識されていることはありますか?
当たり前かもしれませんが、一言一句ちゃんと読むことですね。例えば「〜だよ」と「〜です」では、それだけで意味が違ってきます。台詞の語尾や句読点でさえキャラクターの性格が表れていると思うんです。台本に書かれている一言一句から、このキャラクターはどういう感情でどういう性格でこの台詞になっているのか、ということを読み解くのが一番大切だと考えています。
――そんな奥山さんの演出スタイルはどのようなものなのでしょうか?
僕の演出スタイルは“とにかく細かい”と言われています(笑)。何が細かいかというと、台詞一つひとつに動きをつけるんですよ。例えば「この台詞で三歩歩いて、台詞を喋ってから次の台詞で右を向いて」とか。そういう細かい台詞と動きを役者さんに提示して渡すんです。そのあとに、どういう意味を持つ動きなのかを僕と役者さんで答え合わせしていきます。このキャラクターはこういう性格だからここで歩いて、その瞬間にこう思っているから右を向いたんだよ、と。演劇のワークショップみたいな感じですね。
――その細かい指示を役者さん一人ひとりに対して行うんですよね? 頭の中は一体どうなっているんですか?(笑)
いや〜本当に大変ですよ、生みの苦しみっていうんでしょうか。毎回大変なんです(笑)。まず本読みの段階で役者さんの声を聞いて「この人はこうやって演じたいんだろうな」というイメージをもらって、そこから動きをつけていきます。立ち稽古の段階で、僕の頭の中にはイメージができあがっていますね。
――奥山さんは演出のみならず振付もされていますよね。
はい。ダンスもステージングも、視界に見える全ての動きをつけているのは僕です。歌詞を聞いてからその役の感情を読み取り、曲のニュアンスも意識しつつ、それらをヒントに振り付けしていきます。
――これまで、『蜘蛛女のキス』(2011年)や『KID VICTORY』(2019年、2021年)を演出されていますが、演出する作品を選ぶときに意識されてきたことはありますか?
これまで演出してきた作品は実に様々です。でも、基本的には「今の日本の世の中と似ているな」と思える題材を選んでいます。例えば社会性や政治について。作品の時代・国・文化は全然違ったとしても、今僕たちが生きている世の中に共通するものがあると思える作品を選んでいますね。
――ちなみに役者でもなく演出家でもなく、観客として観るならどんな作品が好きですか?
全部取っ払って言うと、こう見えてめちゃくちゃ明るいミュージカルが好きです(笑)。重い作品が好きそうと思われがちなのですが(笑)、『ムーラン・ルージュ』『キャッツ』といったショー要素のある作品が好きですね。重い題材を扱う作品ももちろん好きで観に行くんですけれど、どうしても観ながら裏を考えちゃうんですよね。だからその反動で何も考えずに楽しめる作品が好きなのかもしれません(笑)。
>(NEXT)『春のめざめ』は今の日本と重なって見えた
『春のめざめ』と重なって見えた、今の日本の姿
――奥山さんは今、ドイツ戯曲を原作としたミュージカル『春のめざめ』の演出をされています。先日のトニー賞でオリジナルキャストによるパフォーマンスもありましたが、いかがでしたか?
初演のメンバーによるパフォーマンスということにものすごく感動しました! しかも選曲が「Touch Me」というナンバー。この作品の中でおそらく一番メッセージ性のある曲だと思うので、その選曲にもすごく感動しましたね。
――2022年7月に浅草九劇での『春のめざめ』上演に至ったきっかけは?
これまでにも『春のめざめ』をやらないか、という話をいろんなところからいただいていたんです。なので、最初は「みんな『春のめざめ』やりたいんだなあ」くらいに思っていたんですよ(笑)。ただ、僕はこの作品がすごく好きでした。劇団四季さんで上演された際(2009年〜2010年)に観劇したんです。当時はロック・ミュージカルとしてもセンセーショナルな作品だったので、かなり鮮明に記憶に残っています。
――今この作品を上演する意味をどう捉えていらっしゃいますか?
この物語は1891年のドイツの少年・少女たちの悲劇。それは彼ら自身の性への無知や大人の無理解から始まっています。保守的な大人たちの姿が、今僕たちが生きる世の中とほとんど変わっていないなと思うんです。政治は一部の人たちによって流れていて、僕たちはそれについていかなければならない。戯曲を読んだときに、そんな日本の姿がこの作品の大人と子どもの関係性に重なって見えたんです。今はコロナ禍だったり、こんなに暑い日が続いているのに節電が叫ばれていたり、理不尽なことが多いですよね。理不尽なことだらけな世界というのも、この作品に繋がっていると思います。だからこそ、今やる作品はこれなんじゃないかなと。
――上演に向けてオーディションも開催されました。配役にあたってどういうところを重視されましたか?
実技はもちろんのこと、“キャラクターに合うか”というところを重視しました。オーディションって基本的に一発で合否が決まってしまうんです。例えば1回しか歌えない、1回しか踊れない。そのたった1回に懸けるしかないんですね。そういう一発勝負では実力が出せない子もいるかもしれないと思ったので、今回はワークショップ形式でオーディションを開催しました。約5日間のワークショップで、みなさん精一杯力を出してくれましたよ。ただ、自分が受ける側のときは未だに慣れないし緊張しちゃうんですけどね(笑)。緊張のせいで、オーディションのときのことはあまり記憶に残っていないんです(笑)。
――キャストは「WEST」と「EAST」という2チームに分かれていますが、それぞれどんな違いや魅力がありますか?
もちろんどちらのチームもいいんですけど、色味が全然違いますね。全体のバランスを見て2チームに分けたのですが、WESTの方が年齢層が少し上で、EASTの方が少し若いんです。WESTはしっかりと腰が座っていて、ドシっと落ち着いた感じのエネルギーがありますね。EASTはパワーとガッツがあって、溌剌としたエネルギーを感じます。
――お稽古は佳境かと思われますが(※インタビューは7月頭に行われた)、今はどんな様子ですか?
動きとしてはカーテンコールまでつけ終わっていて、これから劇場入りして舞台稽古が始まるところです。それにしてもみんな自主練がすごく好きで(笑)。稽古の前にも後にも残って、みんなであーだこーだ言いながら作品作りに臨んでいます。
ミュージカル『春のめざめ』2022年7月15日(金)開幕
――この連載では毎回、注目の役者さんを教えていただきます。奥山さんの注目の方は?
塚本直さん。ゴスペルグループ THE SOULMATICSのシンガーだった方です。ミュージカルは元々はやっていなかったそうなのですが、僕が『BKLYN』というミュージカルを演出したときにオーディションを受けに来てくれたんです。その後は『ビューティフル』をはじめいろんなミュージカルで引っ張りだこ! 彼女はものすごく強烈な歌声を持っているんですよ。ただ上手いだけじゃなくて、深みがあって、心を鷲掴みにされるんです。
――作品をお客様に届けることにおいて、役者と演出家の立場どちらにも共通する想いを教えてください。
全ての喜怒哀楽を含めて、何かしらの思い出や感動が心に残ってほしいなということですね。作品によっては帰り道に頭の中で曲が鳴り響いたり、素敵なシーンを思い浮かべたり、家に帰ってからも思い出や記憶がふわーっと残るようなものを届けられたら。
そして、これからもいろんな作品を通して今の社会へのメッセージを届けていきたいです。今回上演する『春のめざめ』では、「Song of Purple Summer」というナンバーを通して僕からのメッセージを組み込んでいます。受け取り方はお客様の数だけあると思いますが、たとえそうだとしても、何かしらのメッセージを届け続けていきたいなと思います。
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢

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