【Machico インタビュー】
「Shall we…?」は10年間頑張った
私へのプレゼント
新作『10th Anniversary Album -Trajectory-』のタイトルの意味は“軌跡”。2012年5月のアーティストデビューから今年10周年を迎えて、これまでを振り返り、これからへと向かうMachicoの新たな旅が始まった。そんな彼女の集大成となる本作では、敬愛してやまないシドの明希より新曲「Shall we…?」の楽曲提供が。裏テーマである“大人Machico”を存分に見せつける新曲を携えて、10周年イヤーを邁進する彼女の想いを訊いた。
与えられたものを、
与えられたまま表現しなくてもいい
そもそものお話ですが、“声優アーティスト”という存在が広く一般化したのも2010年代中盤頃のこと。Machicoさんのように音楽活動10周年、あるいは5周年などの節目を迎え、その中でベストアルバムの発売経験がある方は多くなくて。
なんと、びっくりです! そんなに珍しいことだとは。それでなくとも私は現所属の日本コロムビアさんの前に別のレーベルにもお世話になっていたので。本来ならば収録が難しいはずの当時の楽曲を含めて、10年間を丸ごと振り返ることができる奇跡のようなベストアルバムを発売できることが、本当に不思議で幸せな感覚です。初期の楽曲は歌い方が真っ直ぐすぎて恥ずかしい部分もありますが(笑)。
(笑)。タイトルに掲げた“Trajectory”の意味は英語で“軌跡”ですね。これはMachicoさんが思いついたものですか?
そうです。音楽活動10周年目、この一年間のキーワードなんですよ。今年5月に開催したライヴのタイトルにもしました。
“Trajectory”の前後のハイフンにも何か意味がありそうです。
“第1章 〇〇”のような、作品のサブタイトル調にしたいなと思ってつけました。“Trajectory”を目立たせるための飾り…いや、フレームです!(笑)。
今作には珠玉の18曲を収録していますが、その選曲基準は?
デビュー曲「Magical Happy Show!」(2012年5月発表)やアニメタイアップ楽曲はマストで入れたくて。その他にも私が作詞したアルバム収録曲、活動初期のライヴで心の支えとなった楽曲もいくつか選びました。曲順はほとんどリリース順ですね。本当はもっとたくさんの候補楽曲があったのですが…ちなみに10曲目「紅花火」(2017年5月発表のアルバム『SOL』収録曲)は私の作詞曲でこそないものの、ファンのみなさんからの人気がとても高いので選びました!
3つの選曲軸があったわけですね。お話をうかがう限り、選曲にはあまり迷わなかったように思えます。
7曲目「勇気のつばさ」はTVアニメ『12歳。〜ちっちゃなムネのトキメキ〜』のエンディングテーマですね。このアニメ、大好きだったので個人的にすごく懐かしいなと。
心が“トゥンク”ってなるやつ! 登場キャラクターたちが“いやいや、小学6年生やぞ!”って思うくらいに恋をしていて(笑)。
“トゥンク”って、ひさびさに耳にしましたよ(笑)。ところで発表当時と比較して、歌唱時の心境や受け取り方が変化した楽曲はありますか?
1曲目「Magical Happy Show!」ですかね。今聴くと、ヴォーカルの癖が本当になくて真っ直ぐなものでしたし。そもそも当時はまだレコーディングという仕事自体に慣れておらず、楽曲について想いを巡らす際も“何を考えればいいの? 歌やメロディーを覚えるだけじゃダメなの?”と悩んでいたくらいで。楽曲を説明する場でも本当にもどかしい感情を抱きましたし、当時のインタビューなんて読み返しても本当に何を言っているのか(笑)。よく文章にしていただいたなと思います。
その真っ直ぐさが、逆に今は味として届いてくるのでは?
確かに。もうこんなにストレートには歌えないです。当時は自分のオリジナル楽曲にどのような抑揚をつければいいのかが分からなかったんですよ。それ以前は他の方々の楽曲をカバーしていたので、要はオリジナル音源の抑揚を真似しているだけで。だから、その弱点を改善するためにいろいろな努力をしましたね。
いつ頃に抑揚のコツを掴んだのでしょう?
『アイドルマスター ミリオンライブ!』で先輩方のステージを拝見してからです。みなさんはライヴ経験も豊富でキャラクターと向き合っている年数も桁違いですし、ステージに立っているだけでキャラクターが存在しているような感覚を覚えたんですよね。
おそらく、3曲目「禁断の運命」を発表した2014年頃のお話でしょうか?
その頃だと思います。当時の私は“ピッチ主義”だったんですよ。音程さえ間違わなければ、歌がうまく聴こえると考えていたんです。ただ、先輩方はむしろ語りかけるような歌い方で、それがとても心地良く響いてきたんですよね。その時に、ピッチや音程といった与えられたものを与えられたまま表現しなくてもいいんだと気づかされました。歌に“遊び”を入れたいと思い始めたのはそこからです。
前回の取材でも感じましたが、Machicoさんはヴォーカリストとして本当に技巧派というか、分析熱心な方ですよね。
負けず嫌いなんですよ。例えば、歌を褒めていただくことがあれば心の底から嬉しいし、その言葉をずっと聞いていたいと思う一方で、鵜呑みにしたままでもいけないとも自問自答していて。“おまえは今のままで本当に満足なのか? おまえなんてまだまだだ”って。
なるほど。
それと、最近は先輩だけでなく後輩の子たちのパフォーマンスにも感動することがあって。10年間も活動を重ねると、どうしてもバランス感覚のようなものが身についてしまうんです。だからこそ、お仕事ひとつひとつに対するがむしゃらな熱量や、一生懸命さを持っている後輩たちにあの頃の影を重ねているのかもしれませんし、リスペクトを忘れたくはないですね。
とても大切ですよね。話は変わりますが、Machicoさんが今作で普段からもっとも視聴している収録曲が気になります。
5曲目「花音」かな? かつて悔しい想いを感じていた時期のネガティブな想いがこもった歌詞で。いつでも初心に戻るために再生しています。
先ほどのお話に続くようですが、Machicoさんは“分析型”であると同時に、“初心に戻る”ことが多いアーティストですよね。
私、本当に初心に戻りたすぎるんです(笑)。石橋があったら、叩いて渡るタイプなんですよね。なぜなら、学生時代から誰かの頼りになる、いわゆる“先輩ポジション”を経験してこなかったゆえに、どっしりと身構えることができないから。昔の思い出を蘇らせて、自分で自分の気を引き締めているのかもしれないです。