「新しい空音を見せにきました」ーー
空音がワンマンライブ『ONE Works』
で仲間と示した次なる道筋

空音ワンマンライブ『ONE Works』2022.6.19(SUN)大阪・梅田クラブクアトロ
6月19日(日)、梅田クラブクアトロで空音のワンマンライブ『ONE Works』が行われた。「客演、OPENING ACT無しの1人で挑む空音ワンマンライブ」と銘打たれた本公演。兵庫県尼崎市出身、2001年生まれのラッパーで高校生で活動を開始すると、弱冠18歳でリリースした初の全国流通盤「Mr.mind」や『高校生ラップ選手権』の出場で話題を集めた。2019年12月にリリースされた1stアルバム「Fantasy club」に収録の「Hug feat. kojikoji」はMVが約4100万回再生(2022年6月現在)を超える大ヒット。メロディアスなフックと胸に迫るリリック、あたたかみのあるフロウを武器にジャンルを超えた活動を精力的に続けてきた。
そんな彼は2022年から事務所をBroth Worksに移籍し、新体制で制作をスタート。ワンマンライブは、昨年12月25日に行われた自身プロデュースのイベント「FRIENDS GIG」以来半年ぶりとなり、梅田クラブクアトロに立つのは「BASI RELEASE TOUR 2019 –切愛の時–.」以来約2年8ヶ月ぶりだ。そんな空音の歩んできた背景を知ると、今回冠された『ONE Works』というタイトルが、いかに重みがあるか分かるような気がした。新たなフェーズに入った彼が、仲間と作った最高の一夜の様子をレポートしよう。
空音
クアトロのステージには、Broth Works内のレーベル「BASIC MUSIC」のロゴがネオンで光り、DJセットとベース、ギター、シンセが設置されていた。オーディエンスは和やかな雰囲気でお酒を飲んだり談笑したり、思い思いに開演までの時を過ごす。
定刻を少し過ぎた頃、ステージが暗転。バックに4人のメンバーが現れ、ノイズが会場に響き渡り、そのままセッションが始まった。スクラッチとビート音、ベースの生音。グルーヴィーなサウンドに会場の空気は高まってゆく。そして「梅田クアトロ調子どうだー!」と空音が颯爽と登場。フロアは沸き立ち、ライブは「all done」から幕を開けた。真っ赤なライトに照らされ、堂々とした振る舞いで体を大きく使い、キレのあるラップを繰り出す空音。やがて「scrap and build」に流れるように滑り込む。華麗な早口ラップが心地が良く、オーディエンスはゆらゆらと体を揺らす。

空音

続けざまに「Mr.Mind」「T.O.P」と初期の楽曲も披露してMCへ。「客演がいないとなると、こだわるのはサウンドなんですよ。ラップは僕に任しとけばいいんで。最高のサウンドクルー紹介します!」と、コンポーザーのニューリー、バックDJのConanとRin、そしてBroth Worksの生みの親、清水英載社長を紹介。「客演はいないですけど、皆から見てステージが寂しいと思うことは1ミリもないです」と言い切った。「ノリ方、遊び方がわからんくなったらまずはステージの人間を見ると、今日の遊び方がしっかりレクチャーできるんで、ステージから目を離さずに!」と叫ぶ。
清水英載
この日は本当に、後ろの4人が空音を見守る温かい眼差しと、純粋に音楽を楽しむ無邪気な遊び心が随所に感じられ、こちらまで笑顔になった。空音も完全に心を許し、どっしりと、かつ軽やかにステージを駆け回る。「このチームだから大丈夫」といった信頼感が全身から溢れているようだった。つまりはステージの空気感が本当に良かったのだ。5人が一緒になることで生まれるケミストリーを、序盤から感じることができた。
DJ Conan &Rin
そしてBASIとのフューチャリングソング「月ひとつ」をニューリーバージョンで披露。「俺とConanからできることを教えよう! クアトロ手挙げろ!」と煽り、全員で盛り上がった「You GARI」、溢れ出る言葉の量が凄まじい「only one」、「ニューリーが新しい一面を見せてくれるんで」と紹介された「planet tree」と立て続けにドロップ。人気曲「Hug」ではニューリーのギターがアンサンブルを奏で、客席を引き込んでゆく。
空音
「揺れろ〜や!」と空音が会場を煽った「Young」では、カラフルな照明の演出で盛り上がりは最高潮に。どんどん一体感を増してゆく。年内にリリース予定だという新作アルバムからの先行シングル「B RAGE」では、ステージが暗転したまま叫ばれ、少しダークな雰囲気に。ステージはうっすらとブルーのライトが灯り、高速ラップと鋭いサウンドでグングンと畳みかけ、その迫力にオーディエンスはのめり込んでゆく。
空音
MCで「楽しいな。マジ良いよ」と、手応えを噛みしめるように話す空音。「面白いでしょう、こんなにステージに人がいるの。でもめっちゃカッコ良くない? 今、Broth Worksというチームにいて。皆が見たことないライブを準備してみたり。リハーサルの回数もそんなに多くはなかったけど、すごく形になっていると思います。今一番やりたいことの形が皆に伝わってると思う。この時点で、空音の感覚も違ってきてるんやろうなって、いつもライブを見てくれてる人なら気づくものがあると思うし、今日はそういうすごく特別な日なんで。空音というアーティストの新しい形を見せにきました。そして空音というアーティストが信じてきたものを、全部音に形に変えてくれる4人と、今はステージにいます」と力強く語った。

ニューリー

ピアノが美しく響いた「HaKaBa」を経て、ニューリーがビートを担当した、大阪の仲間との思い出を綴った「CIRCUS」では天を仰いで歌う。より心を込めていることが伝わり客席も呼応するように手を挙げ、心の中で一緒にシンガロング。日常生活を歌った「不貞寝」ではメロウな空気に。ラッパーとしての矜持を見せつけるように堂々と歌いきり、笑顔を見せた。
空音
「俺は今日ここにいる全員に愛を持って接しようと思います。そんぐらい音楽は最高だから」と語り、丁寧に歌い上げた「拝啓」、会場が手をあげひとつになった「crayon」、そしてBASIをフューチャリングした「相棒」では、Broth Worksへのリスペクトと愛情が爆発する。存在を示すかのように「BASIC MUSIC」のネオンの前に近づいた空音の姿が印象的だった。魂の込められた彼の歌声と、ニューリーの演奏を確かに支える4人のチームワーク。ドラマティックな照明の演出が、さらに楽曲を引き立て、コーナーの最後にはニューリーと肩を組んでピース。とてもあたたかく平和な空間だった。
空音
そして、音楽を一生の生業にする決意と覚悟を歌った未発表曲「Life Work」をドロップ。<大丈夫だから、大丈夫 I'm a rapper>というリリックが胸に響く。彼の想いを受け取るように、オーディエンスはしっかりと聞き入っていた。
「僕らのモットーは自由。自由の中の不自由を乗り越えて、皆ここに辿り着いてくれていると思うんで、だからこそ今日は自由に遊びたいと思います。行こう!」と、ニューリーとのフリースタイルから、ライブは終盤戦へ。軽快かつ熱量を込めてライムしていく。「次のアルバム、マジで俺がジャンルになるから、今年は絶対見逃すことなく追ってください、このチームを」と、次回作とチームのクリエイティブへの自信を滲ませた。
ラストに向け、5人の音で最高潮の盛り上がりを見せた「誰かの正義の歌」、いつか父になる希望を込めた「Daddy」を続けて披露。ステージを大きく使い、胸に手を当てて大切に歌った。
空音
そしていよいよ最後の曲へ。MCでは「僕は、自分がやってみたいと言ったことに対して動く人間が沢山いることをずっと無意識に体感しているんですけど、同時に自己責任感を持ってたんです。ただこのチームと出会って、後ろに4人もいると心強いけど、人数がいて心強いんじゃなくて、ほんまに自分がやりたかったこと、一生かけてやってみたいと思うことを、イチから形にしてくれるから心強い。毎日意見を交換して、色んなことにムカついて、それを共有できるチームがやっと見つかった。僕はうのであれば、このチームで一生仕事したいです。ステージにこのメンバーが立っているところを皆に見てもらえたことはすごく嬉しい。何より皆が「空音にこうあってほしいな」と思う姿を、正面から風切って見せられたと思います」と一気に話した。加えてアルバムのリリースや、来月新曲が出ることもアナウンス。またワンマンで再会することを約束し、ラストの「celebration」を全力でぶつける。<本当にありがとう ただそれだけで>と心からの感謝をリリックに詰め込み、「This is a ONE Works!」と力強く叫んで、興奮と感動の渦に会場を巻き込んでいった。
空音
気持ちの良い空気感と余韻を残して本編を終え、皆それぞれに充実の面持ちで帰り支度をしていたところで、オーディエンスからアンコールを求める拍手が発生。じわじわと会場全体に派生していくと、メンバー登場! フロアはもちろん歓喜に湧く。ステージにカムバックした空音は、「いや、なかったのよ。アンコール決めてなかったから今日。作戦会議しようか」と正直に話し、メンバーと話し合いを始める。するとフロアから思い思いに曲名が叫ばれた。「声デカい少年の意向をくんで」と、一際声が大きかった彼のリクエストを採用して「space shuttle」が披露された。「久しぶりにiphoneのライトつけてくれ!」と空音が叫ぶと、会場は真っ白な星の光に包まれる。「Shit down please」と客席をしゃがませ「3.2.1!」でジャンプ! メンバーも客席もノリノリで、自由な時を楽しんでいた。
空音
空音は「今回ばかりはほんまに考えてなかったっすね。あかんすね、これちゃんと考えとかな」と社長・清水と思わず会話をする。それだけ全力で本編をやり切ったということなのだろう。そして「あと1曲やな」と言うと、すかさず客席から「Brighter!」とリクエストが入る。「名曲やからね。けど、マジで最近やってないね」とニューリーのギターも加わり、この日だけの特別なアンコールが繰り広げられた。これにはオーディエンスも大満足。そして空音は「楽しめた? いい感じやったほんとに。ありがとうございましたー!」と手を振りステージを去っていった。
空音
新旧の作品から満遍なく構成された23曲と、リクエストによるアンコール2曲の計25曲。約1時間半の空音のワンマンライブは、大成功で幕を閉じた。新たなチームで、新たなフェーズに入った空音。何よりも彼がのびのびと、肩の力を抜いてステージを表現の場にしていた姿が、本当に眩しかった。ライブ前日の夜、空音が自身のnoteで「気楽にやりたい音を鳴らすことを肯定してくれたチームと新しいワンマンの在り方に挑む日」と書いていたが、「ONE Works」は確実に彼のターニングポイントになっただろう。そして、Broth Worksから生み出される音楽を楽しみにしていよう。

空音 ワンマンライブ『ONE Works』

取材・文=ERI KUBOTA 撮影=ハヤシマコ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着