山下達郎の『RIDE ON TIME』は
巧みなアレンジと、
あふれんばかりのアーティストの熱に
完全に脱帽

アーティストとしての熱を確信

M3「SILENT SCREAMER」。直訳すれば“静かなる叫ぶ人”といったところか。何やら文学的なタイトルだ。そのサウンドは、というと、ポリリズム・ファンクだという。ポリリズム=[拍の一致しないリズムが同時に演奏されることにより、独特のリズム感が生まれる]こと([]はWikipediaからの引用)。この楽曲で言えば、ドラムのビートとベースラインにそれを見出すことができる。音楽理論的な説明は上手くできそうもないので割愛するが、拍を合わせないことで、ノリが出るというか、うねりが出るというか、バンド演奏の醍醐味とも言えるグルーブが出ることはM3を聴けば明らかだ。パーカッション、とりわけクラップが今となっては若干時代がかっている気がしなくもないけれど、リズム隊の推進力がカッコ良いナンバーであることは疑うまでもない。イントロや間奏でのエレキギターがなかなかワイルドだなと思って聴き進めていくと、歌もどんどん熱を帯びていく。後半はほとんど《SILENT SCREAMER》の連呼といった感じで、まさに“SCREAMER”といったヴォーカリゼーションを聴くことができる。アウトロではギター2本がバトルっぽく絡み合う。山下達郎というアーティストに対して、勝手にクールなイメージを抱いていたのだが、M3ではM1で感じた熱が確信に変わった感じで、氏の本性を見る想いだ。

そのM3から、歌とエレピで始まる(しかもエレピが奏でるコードが独特な)M4「RIDE ON TIME」に繋がることで、いい具合に熱がリレーされていくような印象がある。熱過ぎもせず、かと言ってクールダウンもしない。1サビはトゥーマッチとは言わないまでも、コーラス、ブラス、ギターと一気にいろんな音が飛び出すし、何しろ歌がキャッチーであるので、そこだけで見たら味付けが濃いようにも見えるが、冒頭が歌とエレピであることで全体的なバランスが取られているように思える。2番に入ると歌にサックスが絡んだり、ドラムが四つ打ちになったり、アンサンブルはさらに濃くなる。そしてサビ。どう聴いても、この楽曲のサビでのアレンジは完璧ではなかろうか。コーラス、ギターのカッティング、ブラス、ベースのスラップ、ハイハットの刻み。それぞれが歌のメロディーを遮っていないのはもちろんのこと、それぞれがお互いを邪魔し合うことがない。皆、見事なタイミングと間で鳴らされる。後半ではサビが何度か繰り返されるので、うっとりと聴き入ってしまう。これは本当に素晴らしい。アウトロ近くでのシャウトやフェイクも実にいい。ソウルミュージックはこのくらいアツいほうがいい。確信がダメ押しされた。山下達郎、間違いなくアツい男である。

《僕の輝く未来 さあ回りハジメて/虚ろな日々も全て愛に溶け込む/アア何という朝 今すぐ君のもと/届けに行こう 燃える心迷わず》《Ride On Time 時よ走り出せ/愛よ光り出せ 目もくらむ程/Ride On Time 心に火を点けて/飛び立つ魂に送るよ Ride On Time》(M4「RIDE ON TIME」)。

歌詞もアツい。《今すぐ君のもと/届けに行こう 燃える心迷わず》である。想いが漲っているようだ。実際にどう思っていたかは本人に確認するしかないけれど、事前にタイアップも決まっていたというから、そこには音楽シーンのメインストリームを目指す決意めいたものが何かしらあったのかもしれない。個人的にはそんな風にも思う。M4はシングルとは異なり、ア・カペラで終わる。これはアナログ盤ならではの仕様だろう。A面はここで終わり、ア・カペラの余韻を残してレコードを裏返す。そんな風な仕掛けなのではないだろうか。また、このアルバム『RIDE ON TIME』が発売されたのち、『ON THE STREET CORNER』という氏初のア・カペラアルバムが発表されていることとの因果関係は何かあったのだろうか。そこも気になる。

OKMusic編集部

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