KERA CROSS第四弾『SLAPSTICKS』テレ
ビ初放送記念、主人公を演じた木村達
成にインタビュー

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の傑作戯曲を気鋭の演出家たちが新たな演出で創り上げるKERA CROSSシリーズ第四弾『SLAPSTICKS』が、2022年6月26日(日) 午後6:00よりCS衛星劇場にてテレビ初放送となる。サイレント映画からトーキーへと転換期を迎えるハリウッドを舞台に、史実を交えながら映画製作に情熱を燃やす人々を描いたこの作品で主人公・ビリーを演じたのは木村達成。コメディ初挑戦となった本作で感じた思いをたっぷりと聞いた。
KERA CROSSシリーズ第四弾『SLAPSTICKS』出演者たち

■作品を作ることへの情熱の強さには、現代に通ずるものを感じました
ー-公演を終えてみて、『SLAPSTICKS』はどのような作品だったと感じていますか?
喜劇映画を愛する映画人たちの物語で、皆さんの強い思いを感じながらも、同時に、彼らがいなくなっていく過程を看取るような切ない作品でした。コメディと銘打ってはいるものの、あくまで扱っている題材がコメディ映画というだけで、その中で描かれているのは重い人間模様でしたし、決して気持ち的にラクな舞台ではなかったですね。
ー-映画を愛するあまり常軌を逸した行動にでる奇人たちが多くいる中で、木村さんが演じたビリーは純粋すぎるほどの青年だったように感じます。
確かに舞台ではすごくスマートな役でしたね(笑)。ただ、僕が最初に抱いたイメージは、あんなにもかっこいい人物ではなかったんです。情けなくて不器用で、それでいてちょっとダサい映画好きの青年。そんな彼が映画を作る側の世界に入り、映画を愛し抜いた偉人たちと一緒にいるという印象を持っていました。とはいえ、まわりの個性的なキャラクターたちを際立せるために、ビリ―を真っ白なキャンパスのような存在にしようとは一切思っていなくて。彼らと同じように、映画が好きで好きでたまらないという“奇人感”を出していけたらなと思ってました。
 (撮影:宮田浩史)
ー-稽古前には脚本を書かれたKERAさんから、ほかの共演者と一緒にこの時代のお話や喜劇映画の面白さについてのレクチャーを受けたそうですね。
ええ。でも、KERAさんの脚本を通して、いかにあの時代の人たちが喜劇映画を撮ることに命を削っていたのかとか、今作にも登場するロスコー・アーバックルの事件についても少しは理解していたので、当時作られた実際の喜劇映画を見ても、純粋な気持ちでは笑えなかったです。思わず笑ってしまうことはあっても、すぐにつらさや切なさを感じてしまって。それに、この舞台の初演が1993年で、約30年前に書かれたものなんですね。なのでKERAさん自身も、『あの頃どんな気持ちで書いたのか、実はあんまり覚えていないんだよね』とおっしゃっていて。『だからこそ、僕も今回の舞台を観るのが楽しみなんだ』とお話しされていたのも印象的でした。
 (撮影:宮田浩史)
ー-では、“笑い”以外で共感する部分はありましたか?
当時も今も、ものを作ることへの熱意は変わらないんだなと感じました。僕らは今、コロナの影響で、簡単に舞台が作れなかったり、いつ中止になってもおかしくない状況にあります。それでも舞台を作り続けているし、ステージに立ち続けている。そこは通ずるものがあるなと思いました。ただ、ビリーに関していえば、彼は心が優しすぎたんですよね。だからいつまでもあの世界にいることに苦しさを感じ、最後には離れる道を選んでしまったんだろうなと思います。
ー-演出についてもお聞きしたいのですが、三浦さんとはこれまで朗読劇で何度か一緒に舞台を作られていました。ストレートプレイの演出を受けるのは初めてでしたが、違いを感じるところはありましたか?
基本的には同じでした。三浦さんはいつも、最初は役者に委ねてくださるんです。そこから、どうしても譲れない部分だけは細かく指示してくる。今回の作品でいえば、前半の電話のシーンのような、ズレた会話から生まれる笑いなどですね。それと、コカインの粉が舞うシーンで、舞い方にもなぜかすごくこだわっていました(笑)。しかも、これが大変で。稽古で何度も練習すると、当然稽古着に粉が付着するんです。で、そのまま車に乗って帰ると、翌日、車の中が龍角散の臭いで充満していたりして(笑)。本番中も、一度モロに粉が顔にかかったことがありました(笑)。
 (撮影:宮田浩史)
ー-では、今回の放送に向けて、楽しみにされているシーンを教えてください。
第2幕の冒頭にあるラジオのシーンですね。ステージの上段ではアーバックルを批判するラジオ番組のシーンが描かれ、ステージ左側ではそれを聞いている僕らがいて、反対側には刑務所に入れられているアーバックルがいる。それぞれ別の場所にいる3組をお客さんはどのように感じながら見ていたのか、すごく気になりますね。
ー-舞台を拝見しましたが、第1幕は笑いの要素が多く、反対に第2幕からは映画人たちそれぞれの思いが描かれ、物語自体も混沌としていったので、見ていてとても切なかったです。
僕も第2幕は演じていてつらかったです。途中休憩が終わる頃に舞台袖に向かうと、どんどん心が苦しくなっていって。第1幕はまだよかったんです。ほぼ出ずっぱりだったので、物語の流れに沿って役の感情を作っていけたんですけど、第2幕は要所要所で登場し、どんどんと辛くなっていく状況に毎回直面しなければいけなかったので、本当に苦しかったですね。
 (撮影:宮田浩史)
取材・文:倉田モトキ
撮影(木村達成写真):宮田浩史
ヘアメイク:齊藤沙織
スタイリスト:部坂尚吾(江東衣裳)
衣裳協力:
シャツ¥27,500、トラウザーズ¥30,800(以上すべて:colon / M co.,ltd 03-6427-2261)
【木村達成プロフィール】Tatsunari Kimura。1993年12月8日生まれ、東京都出身。2012年、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン(海堂薫役)でデビュー。帝国劇場での『エリザベート』など数々の話題作に出演したのち、2020年に『銀河鉄道の夜2020』でストレートプレイ初挑戦、初主演をはたす。最近の作品にミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』『四月は君の嘘』、NHK『卒業タイムリミット』、FOD『オールドファッションカップケーキ』など。

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