前田美波里「待ちに待っていた」ブロ
ードウェイミュージカル『ピピン』イ
ンタビュー

2019年に初演されたブロードウェイミュージカル『ピピン』日本版が、主演ピピン役に新たに森崎ウィンを迎え、8月から9月にかけて東京・大阪にて再演される。
ボブ・フォッシー(ミュージカル『シカゴ』、映画版『キャバレー』)による演出と振付で1972年に初演された本作は、紀元8世紀後半のローマ帝国を舞台に、若き王子ピピンが「特別な何か」を探し求めて旅に出る物語。
2013年には、日本版でも演出を手掛けるダイアン・パウルスによって、ボブ・フォッシーのスタイルを踏襲したダンスと、シルク・ドゥ・ソレイユ出身のアーティストが手掛けたサーカスアクロバットが加わった斬新な新演出で上演。同年、トニー賞でミュージカル部門最優秀リバイバル賞ほか4部門を受賞した。
本作で、初演に続きピピンの祖母・バーサを演じる前田美波里(中尾ミエとWキャスト)に話を聞いた。
この作品を観て、自分の人生を切り拓いていってほしい
――『ピピン』再演にあたって、今はどんなお気持ちですか?
待ちに待っていました。「もっと早く」「もっと早く」という気持ちで。なぜかというとやっぱり人間は年齢を重ねると、そのぶん身体が言うことをきかなくなったりしますので。そうならないように、自分を鍛えて鍛えて今日まできましたけどね。それでもどうなるかは未知です。年齢を重ねるということは未知との遭遇ですよ。どうなるかは自分自身もわからないし、だからこそ面白い。だからこそやってみよう、っていう。
――待ちに待っていた、というのはどうしてですか?
この作品を観ると、みんなが幸せになるんですよね。人生待っていてもしょうがない、自分で切り拓いていくべきだ。「自分で自分を見つけましょう」というのがテーマですから。最近はマスク生活にも飽きてきたし、考えることがどんどん暗くなる。落ち込む時代に明るくなれる、こんないい作品はないんじゃないかなと思います。ピピンは戦争も嫌だって言っていますしね。この『ピピン』を観て、自分の人生を切り拓いていってほしいと思います。
――前田さんが演じるピピンの祖母・バーサという役にはどう思われていますか?
バーサはピピンに、「人間としてどう生きていくかは、自分で考えないと」「待っているだけでは来ないんだよ」ということを言いますよね。そういう意味でも、素敵な作品、素敵な役をいただいたと思っています。初演のときは、最後の3~4公演で、パフォーマンスで相手に委ねることができたんです。それがとても気持ち良かった。だから今回はそれを最初からできるように努力したいと思っています。
前田美波里
それとバーサは空中ブランコのスターだった役ですから。それを思わせるような瞬間は出さないといけないなと思います。そう言いながらも、年齢がきているから怖い気持ちもありますけど。でもがんばります。このくらいしかできなかった、となっても、それも私だし。「がんばります」って言っておくしかないですね(笑)。ただ私は小さい頃から身体を動かすのがすごく好きで。身体を動かしてないと自分じゃない、みたいなところがあるので、ピッタリな役なのかもしれません。「なんでそこまでやるの?」って聞かれるんですよ。女優の友達は「再演はもう出ないでしょ? えー! 出るの!?」と言ってます(笑)。
――一言で言えることではないと思いますが、舞台のどんなところに惹かれるのですか?
『ピピン』でいえば、相手なしにはパフォーマンスができないことです。さきほど「委ねることができた」という話をしましたが、相手の手を握って、自分がいろんな動きをしていると、やはり身体が硬くなってしまうんですよ。でも、そこで委ねることができたとき、こんなに気持ちがいいことはない。「私、サーカスの一員になれるかな」って気分になったんです。それはイコール、「この作品に委ねられた」ということだと思うの。その素晴らしさっていったらないですよね。いろんな役をいただいた中でも、このバーサという役は素晴らしいと思います。見せ場はたった一か所しかないですけど、その一か所がどれほど大切か。(バーサが歌う)「No Time at All」もいい歌ですしね。本当にいいお仕事をさせていただいて幸せです。
――今回は主演が新たに森崎ウィンさんになりました。
期待しています。彼だからこそできる動きがあると思うので。その話を彼にしたら「え、(初演より)もっとやるんですか!?」って驚いていたから、「それができちゃうものなのよ、私ができたように」って(笑)。
――前田さんも、空中ブランコは最初はできないと思われましたか?
『ピピン』のワールドツアーが日本で上演したときに観劇したんですよ。それでマネージャーと「すごいね」「やるって言ったらバーサしかないよ」「リーディングプレイヤーの役をやりたいけど無理だしね」「日本じゃできないわね」なんて話をしていたんですね。そしたら1年も経たないうちにバーサの役でオファーが来て、「え! あの役ですか!?」って。でもせっかくお声をかけてくださったので。この年齢になると、スケジュール的に無理じゃない限りはやるって決めているんです。だってもうあと何年生きられる? そう思えば、大切なことだから。
前田美波里
――初演の「委ねる」にいたるまでは長い道のりでしたか?
そうですね。「楽しむ」なんてところまではいかないですよね。危ないことですから。一人でできることでもないし。でも今回は、怖さも知っているけど楽しさが随分勝ってます。
――演出のダイアン・パウルスさんの印象をお聞かせください。
じっとしていらっしゃらない方ですね(笑)。彼女は、「『ピピン』をやりたいけどお金がない、じゃあ集める!」って資金を集めてこの作品をやっていらっしゃるので。まさに(ピピンのように)自分で切り拓いている方です。演出という意味では、『ピピン』は日本でもいろんなカタチで上演されていますが、特にテーマがわかりやすいようにつくられているんじゃないかなと感じています。それはダイアン・パウルスさんのパワーですよ。
初代ピピン役の城田優と森崎ウィンは『SHOWTIME』(2021年)で共演。劇中歌「コーナー・オブ・ザ・スカイ」をふたりで披露した。
努力すれば、なにかは返ってくる
――前田さんは、ご自身が愛するミュージカルや舞台を一心に追ってこられて、まさにピピンが目指している人生を送っているように思います。
そうですね。2年前、緊急事態宣言が出て劇場がクローズしてしまったとき、私が出演していた『Endless SHOCK 20th Anniversary』も公演中止になりました。そのときに「私って、舞台がなくなっちゃったら人生終わりじゃない!?」って気持ちになったんですよね。「舞台に立っているからこそ自分は輝けるし、生きていけるし、幸せなんだ」ってことを、こんなに感じたことはなかった。当時は「あと10日経ったらできるかもしれない、いや、もう10日経ったらできるかもしれない」という気持ちでいました。それで私が「早くやりたい!」「このステージに立ちたい!」ってしつこく言うものだから、(座長である堂本)光一さんが「美波里さんって本当に舞台がないとダメなんですね」って(笑)。やっぱり、舞台がないとなんのために生きているかわからないです。それほど好きです。“演じる”という意味では映像も舞台も同じなんだけれども、私にとっては舞台が最高です。
前田美波里
――ピピンは自分探しの旅に出ますが、前田さんご自身も悩んだり考える時期はありましたか?
名前ばっかり有名になっちゃって、気が進まないまま映画に出演したこともありました。自分の顔が大写しになるのが嫌でね。でも舞台では、観客がアップにして観たり、引いて観たりするでしょう。監督の世界じゃなくて、観客自身の世界で。いいパフォーマンスをしていればアップになっちゃう。それがいいんですよ。それが好きなんです。まな板の上に立って、演出家に料理されて、それをお客様がおいしそうに食べて下さるのがなにより幸せです。
――ずっと舞台に立ち続けて新鮮でいられますか?
一か月の公演でも毎日違いますしね。昨日よかったと思ったら今日は違ったりするし。観客の皆さんと同じ空気を吸いながら、「今日のこの人たちの中で何を表現したらみんな満足してくれるかな、驚いてくれるかな」というのがあります。舞台は生もので、「ちょっと待ってください、もう一回やります」はできない。なにかあったときに対処するのは自分ですから、「どうするか」ってことを毎日毎日考えないと。
――毎日毎日考えることは、すごく大変なことのように感じます。
だから面白いんですよ! 人生ってその繰り返しなので、そこでくよくよしていたってしょうがないじゃないですか。やり遂げちゃわないと。スルーするのは簡単だけど、なんの肉にも骨にもならない。努力すればなにかは返ってくるし。だから面白いんじゃないかなと思います。
――最後に、読者の方に一言お願いします。
お子さんからお年を召した方まで、年齢問わず観ていただきたい作品です。観て損はないですよ!
前田美波里
ヘア&メイク=矢野トシコ〈SASHU〉
スタイリング=松田綾子〈オフィス・ドゥーエ〉
衣装クレジット=赤ワンピース:DUEdeux/ピアス、リング:ともにウノアエレ(ウノアエレ ジャパン)
取材・文=中川實穗 撮影=池上夢貢

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