高嶋政宏 撮影:大塚正明

高嶋政宏 撮影:大塚正明

『オワリカラ・タカハシヒョウリのサ
ブカル風来坊!!』風来坊 伝説の男
に出会う 髙嶋政宏『ガンヘッド』を
語りつくす

ロックバンド『オワリカラ』のタカハシヒョウリによる連載企画『オワリカラ・タカハシヒョウリのサブカル風来坊!!』。毎回タカハシ氏が風来坊のごとく、カルチャーにまつわる様々な場所へ行き、人に会っていきます。
29回目はあの伝説の特撮映画『ガンヘッド』の初Blu-ray化を記念して、主人公ブルックリン役を演じられた髙嶋政宏さんにお話を伺ってきました。

1989年、『ゴジラ』シリーズなどの実写特撮作品でも長い歴史を持つ東宝映画と、『機動戦士ガンダム』シリーズをはじめとするロボットアニメで支持を集めるサンライズの共同企画で、「史上初の実写巨大ロボットムービー」(ポスターより)が生まれた。
その名は、『ガンヘッド』!!!!
公開当時、決して大ヒットを記録したわけではなかった『ガンヘッド』だが、その邦画のスケールを逸脱したメカ描写と世界観、英語と日本語が同居する独特すぎる演出、そして主人公ブルックリンを演じる髙嶋政宏さんの存在感が今も熱いファンを増やし続けている。
そして2022年、『ガンヘッド』の初Blu-ray化が発表され、幻となっていたTV吹き替え版の収録も合わせて、ガンへッダーたちの大きな反響を呼んだ。
今回は、Blu-ray発売を記念して、髙嶋政宏さんに熱いガンヘッド愛を語ってもらった。
ぜひ、心はスタンディングモードでお楽しみください!

高嶋政宏 撮影:大塚正明
髙嶋:今日は、いいもの持ってきましたよ!
ーー当時物の文房具!
髙嶋:これ、しばらく使ってたんですよ。消しゴムは、一個は使い切っちゃいました(笑)。
ーー愛用されていたんですね!髙嶋さんが、これをずっと大事にお持ちであったこともファン的には感動ですね。
髙嶋:あとで、ゆっくり見てください。
ーーいきなり貴重なモノが……。
■東宝の現場では、ゴジラが神、特撮が神だった
ーー本日は、6月15日に『ガンへッド』がついにBlu-ray化するということで、あらためて本作で主人公のブルックリンを演じた髙嶋さんに、『ガンヘッド』を振り返ってお話をお聞きしたいと思います。
髙嶋:よろしくお願いします。今日はね、全部話しますよ!
ーーよろしくお願いします! 『ガンヘッド』のBlu-ray発売が発表された時、爆発的な反応があったんですよ。公開から33年経つわけですが、今もこれだけ熱狂的なファンがいるというのは驚きました。
髙嶋:いまだに『ガンヘッド』のパンフレット持ってきて、「サインしてください!」って人がいるんですよね。僕が出演した作品の中で、いまだにパンフレットを持ってきてくれるっていうのは、『ガンヘッド』だけなんですよ。
それに、『ガンヘッド』を小学生の頃に見てた年代の人が、現場のスタッフにいるんです。撮影の合間に、「『ガンヘッド』観てました!感動しました」ってね。そういう時に、『ガンヘッド』って特別な作品なんだなって思いますね。例えば、『キングダム』(2019)の撮影の間に……。
ーー藤原カクセイさん(特殊メイクアーティスト)ですか?
髙嶋:そう、カクセイさん。他のスタッフにも、そういう人がいるんですよ。
ーーそれこそ今日は、僕はミュージシャンですし、デザイナー、編集長と、全員が『ガンヘッド』に思い入れを持ってるんです。そういう意味で、本当にすごい影響力の作品ですよね。
ーーでは、撮影時の話をお聞きしたいのですが、『ガンヘッド』はそれまでの髙嶋さんの出演作品とは異色の世界観の作品だと思いますが、ご出演に至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか? 髙嶋さんのデビューは、本作の2年前で大学在学中のことですよね。
髙嶋:大林(宣彦)監督が、『漂流教室』(1987)のトロイ・ドナヒューさんを迎えて、知り合いの家でやっていたホームパーティーに偶然誘われたんです。そこで、大林監督に「君も入りたまえ」って言われて、一緒に写真を撮ったんですけど、それを東宝の人が見て「やる気あるんだったら、うちからオーディション受けてみない?」っていうことで。
最初は『光る女』(1987)を受けたんですけど、その次に(デビュー作になる)『トットチャンネル』(1987)を受けて。その時、アメフトの試合があったんで、ジャージみたいなのを着て行ったら「他の奴はジャケットでかしこまって来るのに、おもろいやないけ」って大森一樹監督に言われて(笑)。
そういう経緯で東宝に入ったんですけど、当時の東宝の現場では、特撮が神なんです。とにかく、ゴジラが神。ゴジラとクロサワ映画が同じなんです。本多猪四郎監督が、黒澤監督の監督補をされていたのもあって、文芸作品や、いろんな賞を撮る作品よりも、ゴジラが神、特撮映画が神。
それで今度ゴジラの次の特撮映画を作りたいということで、『ガンヘッド』っていうのをやるから、君が主役だと。だから経緯もへったくれもなくて(笑)、「次はこれやる」っていうので「わかりました」と。
ーーじゃあオーディションの類はなく、もう指名で。
髙嶋:そうそうそう。
ーーその当時の東宝では「特撮が神」ということは、特撮作品の主役に起用されるっていうのは、ある意味では大抜擢という感じですかね。
髙嶋:そうですね。でもね、まだゴジラには出られないよ、と(笑)。
ーーその前段階的な感じで。
髙嶋:だったと思うんです。とにかく、ゴジラじゃないやつを作りたいって。
■英語のように日本語を喋る、『ガンヘッド』イズム
ーー『ガンヘッド』に参加されることになって、原田眞人監督の演出の印象というのはどうでしたか?
髙嶋:とにかく日本語を、英語みたいに喋ってくれってことです。「髙嶋くん、『サハラ戦車隊』(1943)とか、『スター・ウォーズ』とか、もう一回見直してくれる? スタッフ全員にも言ってあるんだけど、ジョン・フォード作品みたいな感じでやりたいんだ」「もっと『アルタード・ステーツ』(1980)のウィリアム・ハートみたいに」って。『スター・ウォーズ』だと、ハリソン・フォードのハン・ソロ。あれなんだと。
ーーハン・ソロなんですか!
髙嶋:英語のニュアンスが、監督からするとかっこいいって言うんですよ。
ーーガンヘッドがチューバッカですかね。ブルックリンのキャラクターは『コマンドー』(1985)とかもイメージあるのかなと。
髙嶋:原田監督は、映画評論家でしたし、インテリな感じなんで、意外とそういう普通のアクション映画っていうのは、演技の参考例としてはあんまり出ませんでしたね。
ーーSFよりも戦車映画とか、現実に近いものから学べということですか。
髙嶋:そうですね。ジョン・フォードの『駅馬車』(1939)も、すごい言ってました。
あとは、俳優と監督の関係性で、三船敏郎さんと黒澤監督の関係性とか、『レインマン』(1988)のトム・クルーズとダスティン・ホフマンとか。トム・クルーズがダスティン・ホフマンに、あそこはどうなんだ、あれでよかったのかっていうのを毎日連絡したっていう、そういうやり取りが大切なんだと。
ハリウッドスタイルっていうか、まず主演と監督が、わかり合わないとダメだと。それで連絡先を渡されて、毎日連絡してましたね。あそこの言い回しなんですけど、とか。
現場に入ったら、とにかく強調したらダメなんです。自分でも、「こんなにスラスラペラペラ話していいのかな」っていうぐらいの感じが、オッケーになるんですよ。
ーー今回のBlu-rayには、初めてテレビ吹き替え版が収録されるんですが、ここでは髙嶋さんの演技もかなり変わっていますね。
髙嶋:そうそう。TV版の吹き替えでは、発声とかもちゃんとして、クッキリハッキリ喋るということだったので。原田監督は気に入ってなかったみたいですけど……(笑)。
ーーある意味、真逆の演出方針っていうことですもんね。
髙嶋:そうですね。でも東宝撮影所で別の映画を撮っていた時に、トイレの横にスタッフが来て、「『ガンヘッド』のテレビ観ました。髙嶋さんが上手くなってた」って言われて(笑)。
ーーそれは上手くなったというよりも、狙いの違いということですよね。
髙嶋:でも、原田監督の「英語のように日本語を喋る」っていう、あれこそが『ガンヘッド』なんじゃないかなって今は思っているので、普通の作品になったという感じですね(笑)。
ーーそもそもが、原田監督の演出っていうのは、それまで東宝の養成所で習っていたものとは全然違うものだったんですね。
髙嶋:もっと楽でしたね。自然に、声張らなくても良いんだと。
ただ、コックピットのシーンは一週間くらい撮っていたんですけど、あそこだけはめちゃくちゃ厳しくて。「そうじゃない、違う」って。あの「ジェローニモ!」とかも、ニュアンスが違うって言われて、何度もやりましたね。
ーーそれは、具体的にこういう風にしてくれって指示があるんですか?こういうニュアンスで、みたいな。
髙嶋:原田監督は自分で「こんな感じ」っていうのは、やらないんですね。そのコックピットの中だけは、「あの映画の誰々」みたいな言い方も一切しないんですよ。他のシーンでは言うんですけど。やっぱり、「今までに無いもの」をやるわけですから、この時は大変だと思いましたね。今となっては、そういうのが一番得意なんですけど(笑)。
ーーガンヘッドとの会話では、ガンヘッドのセリフも高島さんのセリフも脚本から変わってるんです。見比べてみると、脚本とセリフが変わってるところが結構ありますね。監督とのやり取りの中で変わっていったと思うのですが、本読みの段階でどんどん変えていくんですか? それとも現場で?
髙嶋:現場でしたね。ただセヴン役の(原田)遊人との会話は、原田家にお邪魔したときのプライベートな読み合わせで「あ、そっちのほうが感じがいいね」なんて言って、変わっていきましたね。完全に親子の和やかな感じで(笑)。
ーー原田監督の家でプライベートな読み合わせすることは多かったんですか?
髙嶋:そうです。なぜか知らないんですけど、当時、原田監督は引越しがすごく多くて、「ここは仮の家なんだ」って言ってましたね。奥さんが晩ご飯の支度してる後ろのテーブルで、「遊人と読み合わせ、このシーンやろう」とか。
ーー生活の一部みたいな。本当に密な関係性だったんですね。じゃあ、言い回しに関しては、変えてもオッケーという空気だったと。それは、やっぱりキメキメの芝居じゃなくて、自然体で演じるために、言いやすい言葉に変えていったみたいなことですかね。
髙嶋:そうだったんだろうと思いますよね。あの時は、ブレンダ・バーキや、ジェームズ・B・トンプソンがいて、英語と日本語でお互い理解してるという設定になってたので。
ーーこの設定は、めちゃくちゃ斬新ですよね。
髙嶋:だからその英語のトーンなんだっていう。
ーー名セリフとして知られる「パーティーやろうか、ガンヘッド」は、台本だと「パーティーやろうぜ、ガンヘッド」で、もう少し強い感じだったのが、柔らかく自然な感じに直されてますね。
髙嶋:そうですね。もうちょっとさりげなくみたいな。『ガンヘッド』のイズムで、英語みたいに喋るんだ、強調しちゃいけないんだっていうのがあったので、ハッキリクッキリ喋る方は苦労してた印象があります。
■ミッキー・カーチス、ブレンダ・バーキ、ジェームズ・B・トンプソン、そして肉体
ーー共演者さんとの思い出などお聞きしたいのですが、チームのリーダー・バンチョーを演じたミッキー・カーチスさんはミュージシャンじゃないですか。高島さん、ロックがお好きですが、そういう音楽の話をしたりというのは?
髙嶋:した覚えもありますね。ミッキーさんが、とにかくどこ行くんでも自分の車なんですね。運転手さんがいたのかな……?たまたまパッと見たら、ミッキーさんが車で来て、「いやぁー、政宏、俺は常に都会がないとダメなんだよ」って言うんですよ。それで、車の中で音楽をかけて。とにかく車とか、その車のシートとか、都会がないとダメ。
ーー独特だなー(笑)。最高ですね。車に乗せて、都会を持ってきてるんですね。なんか、バンチョーのまんまですね。
髙嶋:その後いろんなドラマとか時代劇でも共演してね、ばったり会ったりもしてますけど、すごい面白いですよね。とにかく渋いですよ。だんだんチェット・ベイカーに見えてきて。『ガンヘッド』のときは原田監督が、ミッキーの芝居は最高だからって言ってたのが印象深いですね。これなんだ、という。
ーーあー、なるほど。それは、象徴的ですね。
ーーたとえば、ヒロイン・ニム役のブレンダ・バーキさんの演技スタイルっていうのはどういうものだったんですか?
髙嶋:ブレンダ・バーキは、入り込んでましたね。最後のキスシーンとかも、「ちょっと待って」ってジーっと見つめる感じで。自分の気持ちがそうなるまで待つ。
ーー見つめたままですか?
髙嶋:見つめたまま。悪い意味じゃないんですけど、ハリウッドのメソッドアクターという感じでしたね。終わった後に、ベラベラ世間話するってタイプじゃなかったです。

ジェームズ・B・トンプソンは、本当に可愛らしい人で。彼は大道芸もやってるし、俳優で歌手でダンサーでもある。パフォーマーとしての部分が、大きく占めてるんですね。ハリウッドの俳優という感じはあまりなかった。すごいいい奴でしたね。一緒にトレーニングジムとか行ったりしました。
ーーやはり、かなり撮影前に鍛えて臨んだんですか。肉体作り的なところは。
髙嶋:監督から、「とにかく肉体だ」と。今なら筋トレの知識もあるんですけど、当時はスポーツクラブでずっと鍛えるだけでしたね。
ーー今みたいに効率的に二の腕だけを鍛えるとか、そういうんじゃなくて。
髙嶋:正しいやり方をしてなかったんでね、効率が悪かったですよ。筋トレの話をしだしたら、30分くらいかかるんですけど(笑)。撮影の前は、腕立て伏せ。あとは、撮影終わってジムに行くとかですね。それで、腕立て伏せしていたら、当時製作でついてた島谷(能成)さんに「高倉健さんは、毎カット腕立て伏せしてたよ」って言われましたね。
当時は、朝までの撮影が多かったんで、ガンガン(焚き火)があるんですよ。今は無くなっちゃいましたが、それで豚汁作ったりね。照明がとにかく凝るんで、待ち時間に寒空の下でガンガンの火に島谷さんと当たって、「高倉健さんもね、ガンガンの炎を見つめてたね」って(笑)。
ーーいろんな健さんエピソードを(笑)。
髙嶋:火を見ると集中できるんだっておっしゃってましたよ。
ーー撮影は、お正月挟んでるんですよね、かなり寒かったと思いますが。
髙嶋:そうですね。でも、当時は寒さも全然平気で、逆に楽しい感じでした。
ーー特撮部の撮影も、お正月をまたいでやっていたらしいので。
髙嶋:やってたんじゃないですかね。特撮部を見に行くと、川北(紘一)さんがすごい喜んでくれるんです。
東宝撮影所って、各セクションにすごい方がいらっしゃるんですけど、特に照明部さんに名物の人が多くて。二見(弘行)さんっていう方がいらっしゃるんですけど、「若大将」とか黒澤映画の時の加山雄三さんに、「加山!これ運べ!」って照明器具を運ばせたっていう(笑)。
二見さんが、「髙嶋ちゃん!ちょっと来いよ!川北ちゃんがいま撮ってるから、一緒に見に行こう!」って。行くと、「みんな!髙嶋ちゃん来てくれたぞ!」って。
それで「髙嶋ちゃんいまちょっと時間あるか?」って聞かれて、「ちょっとさ、あそこ行って今川焼き30個買ってきてくれ!」って(笑)。
ーーパシリじゃないですか(笑)!
髙嶋:二回、三回やりましたよね。
■今明かされる撮影秘話、カイロン5セットの水の色は〇〇〇〇〇
ーー本編は東宝スタジオの第8ステージで撮っていたんですかね。カイロン5のセットが本当にすごくて。今の日本映画からは考えられないような豪華さですね。
髙嶋:もう、このセットに入ったときの感動はすごかったですね。東宝の美術さんの技術っていうのが。
ーー相当作りこんだセットだから、セット待ちみたいなことも、かなりあるわけですよね。
髙嶋:セット待ちっていうよりも、照明ですね。あれは、すごかったですね。最初は、なんでこんな時間がかかるんだろうと思ったんですけど、ちょっとした陰影で、安っぽくもできれば、誰も見たことのないものにもできる。照明のすごさっていうのを知った映画でした。
ーー誰も見たことのないディストピア世界を作るためには、やっぱり照明やスモークが。
髙嶋:そうそう、あの時は、僕が日本人で黄色人種、さらに白人と黒人もいるわけじゃないですか。肌の色で、照明がまったく違うんですよ。ジェームズの照明が、難しいって言ってましたね。だから、それを踏まえて『硫黄島からの手紙』(2006)を観たときに、日本人の人たちのライティングがおかしかったなと。
髙嶋:あ。これ、バスクリンなんですよ。すげえ香りが良いんですよ。
ーーセット中甘い香りで(笑)。
髙嶋:まあ、男臭い現場なんで、汗臭いわけですよ。あとほら、外国と違って日本の映画スタッフは飯食ったら、口臭とかまったく気にしないでそのままみんなセットに来るじゃないですか。撮影所出たところに、みんなが「赤提灯」って呼んでた食堂があって、そこで、ニンニクたっぷりの煮込みとか食べてくるんで。それが、バスクリンですごい良い香りに(笑)。
ーーあの水、何で色つけてるのかって思ってました。
髙嶋:たしか、このセットをアーヴィン・カーシュナーが見学に来たんですよね。
ーー『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1980)の監督ですね。
髙嶋:ジェームズ・キャメロンも来たっていうのも聞きましたけど。原田監督は、英語がネイティブなんで。後に『ラスト サムライ』(2003)に出たあとで会ったときに、「英語けっこう自信あったんだけど、毎日発音を直されて落ち込んだよ」って言ってるのを聞いてびっくりしました。原田監督の英語でもハリウッドはダメなのかと。
ーー今回、ブルーレイのジャケットに、こちらのスチールを選ばせて頂いたのですが、この実物大ガンヘッドとの撮影時のことは覚えていらっしゃいますか?
髙嶋:とにかく人力なんで、梯子をかけて、上に登るのが大変なんですよ。「そこは乗っちゃダメ!」とか「立って良いのは、そこだけ!」とか。ここは乗らないでください、ここ後ろ何もありません、とか。
ーー髙嶋さんは普通に立っていますが、危なくないのかなと。
髙嶋:それは全然。なんとも思わなかった。
ーー実際に、巨大なロボットの上に立って見る景色というのは、いかがでしたか?
髙嶋:いやなんかもう下のスタッフが、夢見る小学生のような目をしてるんですよ。いま俺たち、日本初のものを作ってるんだ、と。すごかったですよ。
ーーいいですね……!パイロットを見る少年たちみたいな眼差しを受けて、髙嶋さんが立っていらっしゃるという。
髙嶋:そうです。とにかく、みんな「すごいものを作ってるんだ」っていう。
ーーその巨大なガンヘッドの前で、出演者皆さんで撮ってる写真がありましたよね。それは撮影よりも前に、スチールを撮ったんですかね?
髙嶋:いや、撮影始まってしばらくしてからガンヘッドを見に行ったから、たぶん撮影の後かな。
これ、汚しのメイクがすごいじゃないですか。このとき黒澤監督が、『夢』(1990)撮ってたんですよ。だから毎回終わって、風呂場行くと、『夢』の人たちと一緒になるんです。「撮影ですか?」って聞いたら、「いや、リハーサルです」って。本番通りなんですよね、黒澤組。
ーーあぁ、黒澤組は、衣装もメイクも全部本番通りにリハーサルをするわけですね。
髙嶋:すごいなぁと思いましたね。
ーーガンヘッドとの初対面の印象はいかがでしたか?
髙嶋:いやぁ、なんかもう、自分が昔から見てきた巨大ロボットが目の前にあるんで、そういう感動です。監督とかも、感無量な感じでしたね。あとは、僕は動くと思ってたんで、「動かないんだ……」っていうのが強かったですね。プロデューサーが「えー、皆さん。ガンヘッドは動きません!」って、みんな大笑いして。
このモード(タンクモード)は、現場では変えられないんで、そんなに印象ないんですよね。このモードのガンヘッドとは、腕だけ足だけしか一緒のシーンがないんじゃないかな。
ーータンクモードや坑道モードの時は、髙嶋さんは中に乗ってますもんね。タンクモードになるときのコックピットのシーンもかっこいいですね。当然、セットを手動で動かしてるわけですよね。
髙嶋:そうそう。あれも1週間くらいやっていて、終わった後は肩とか痛くてね。
ーーそもそもかなり狭いですもんね。
髙嶋:狭いです。狭くて暑いんだけど、汗が必要だったんで、心置きなく。
ーーあぁ、リアルな汗だったんですね。
髙嶋:そうです。でも、メイクさんが大変でしたね。上から入ってきて、汚しを足すっていう。
ーー汗で流れちゃうわけですね。
髙嶋:監督が「もっとあそこ黒くしろ」って。それでコックピットの中に入ってくるのは大変でしたね。コックピットの撮影はもう最後の方だったんですけど、飲み物とちょっとしたタオルみたいなの置いてやってました。
ーーじゃあ、タンクモードとかは完成した映画で見たくらいですか。
髙嶋:そうですね。いやぁ、見た時に、うわーっていう。いまだに、あれを海外の作品だと思ってる人がいるくらいですからね。
ーーほんとそうですよ。邦画の感覚じゃないですね。
髙嶋:東宝の映画なんだけど、そういうのも吹っ飛んじゃって。
『ガンヘッド』には、「誰も見たことのないものを作ろう」という活動屋魂が生きている
ーー完成作品を初めて見たときの印象は、いかがでしたか。
髙嶋:なんかもう気分は、大げさに言うと、『スターウォーズ』とかの世界に入ったっていうことですよね。「すごいなぁ」と。
ーー今見ても、ほんとにすごい世界観ですね。
髙嶋:そう。それでその年の東宝の売り上げベストテンの一番だったのが『花の降る午後』で、最下位が『ガンヘッド』だった(笑)。
パーティーで、えらい人に「すごいね、最高売上と最低売上の両方に出てるじゃない」って(笑)。
ーーパーティーといえば、スチールを色々見たんですけど、その中にブレンダ・バーキさんたちの送迎会みたいな写真があって、それがすっごい楽しそうで。
髙嶋:東宝の食堂ですね。今とは違う、小汚い定食屋みたいな感じでしたけど、おいしかったですね。そこで送迎パーティーをやろうと。ジェームズが、腹話術やったりとか。
ーージェームズさんが腹話術を披露している写真もありましたね。撮影後の打ち上げみたいな。
髙嶋:打ち上げというか、2人が帰っちゃうからってことですね。
あー、そうだ思い出しました。ブレンダ・バーキとジェームズの契約書がすごくて、ホテルの部屋のドアを出てから、ホテルの部屋に帰るまで何時間って全部決まってるんです。食事は、全部ホットミールじゃなきゃダメだとか。
ーーええー。ハリウッド的ですね。
髙嶋:でも、みんな日本のロケ弁見て、すごい感動してました。これ食べたいって言って食べてましたよね(笑)。
ジェームズが、前に木の破片が喉に刺さったことがあるらしくて、ずっと割り箸をしごくんですよ。そんなにやらなくてもいいだろってくらい。
ーー当時、『ガンヘッド』が公開されて、そのリアルタイムのリアクションで印象的だったことはあったりしますか。
髙嶋:なんか、当時の俳優は今ほど、街にカジュアルに出ていかなかったんで。SNSも無かったし、生の声っていうのは聞けませんでしたね。映画関係の人からは、「変なもん作りやがって」ってボヤかれるし(笑)。そういう印象が強い。
ーー(笑)。
髙嶋:なんだあれはって。なんかニュアンスとしては、金ばっかり使いやがってっていう感じかな。あとは、エレベーターで登っていく階がよくわからないとか、ついていけないっていう……(笑)。
ーーどっちに転んでも無視できない作品だったわけですね。
髙嶋:ただ、さっきも言いましたが今になって生の声を聞くと、いや、すごい作品だったんだなって。映画関係のえらい人とか、そういう人は全然ダメでしたけど。遠い例えですけど、『ボヘミアン・ラプソディ』で、「5分超える曲?売れるわけねぇだろ!」って言ったジョン・リードみたいな。本質をわかってないんですよ。
ーー観客は、伝わってる、わかってるってことですね。
髙嶋:わかってる。
ーー『ガンヘッド』の後も、髙嶋さんは東宝の特撮作品に色々と出演していくわけですが、印象深いものというのはありますか?
髙嶋:『ゴジラvsメカゴジラ』(1993)に抜擢された時は、「今度ゴジラ映画出るんだって?」っていう周りの反応は大きかったですね。僕が、ゴジラ映画にハマったきっかけが、小学生の時に見た最初の『ゴジラ対メカゴジラ』(1974)。こんなカッコイイものがあるのかと思った、そのシリーズに出たわけですから、やっぱり『ゴジラvsメカゴジラ』は忘れられない作品ですよね。
『ヤマトタケル』(1994)も『ゴジラvsデストロイア』(1995)も、どれも思い入れがありすぎて、なかなか一つっていうのは選べないんですけど。あの頃、本当に特撮映画が賑わっててましたよね。
ーーちなみに、ゴジラ作品も、ずっと続いているわけですけど、『ゴジラvsコング』(2021)はご覧になってます?
髙嶋:いや、観てないんです。小栗(旬)さんが出てるね。
ーー小栗さんが、メカゴジラを操縦するんですが、髙嶋さんの『ゴジラvsメカゴジラ』をご覧になって撮影に挑んだそうで。
髙嶋:そうなんですか!何を観てんだよ(笑)。でも操縦だったら『ゴジラvsデストロイア』のほうが参考になるのに。
ーー次の機会があったらぜひ『ゴジラvsデストロイア』を観て挑めと。
髙嶋:小栗さんは、どういう役なんですか。
ーーメカゴジラを開発する研究者で、遠隔操作でメカゴジラを操作する。まあ、割と悪役のポジションですね。髙嶋さんがメンテしたメカゴジラと、お父様が共演したキングコングが一緒に出てるので、ぜひ機会があれば見ていただきたいと思います。
では、改めて髙嶋さんの中で『ガンヘッド』という作品は、どういう存在でしょうか?
髙嶋:意識してなかったんですけど。自分のキャリアの中での金字塔なのかなと。
こんなに言われ続ける作品は、ないですよね。どこ行っても『ガンヘッド』の話になったりとか。筆箱があるって言ったら、大騒ぎになったり(笑)。それほどの作品なんだなと。あとは当時の、「まったく誰も見たことのないものを作ろう」という情熱は、他にない作品ですよね。それがやっぱり響いてるのかなと。
本当に、東宝の活動屋の人たちは、すごい目がキラキラしてました。新しいもの作ってやるっていう熱意がね。だから自分も、経験や知識、技術、すべてつぎ込んで、新しいものを作ってみんなを驚かせてやるぞっていう情熱は、いまだに思い出しますね。
だから残るんでしょうね。今回はこんな感じで行こうね、なんていうんじゃなくて、未知の自分の力でなんとかすごいものにしてやるっていう、活動屋魂がいまだに生きてるんでしょうね。
ーーそれをブルックリンからお聞きできただけでも、感動です。
髙嶋:ブルックリンといえば、千代田(圭介)さんていう名物の衣装部さんがいて、何度も一緒になってるんですけど、撮影が半分過ぎたときに「すみません。ブルックリンってなんですか?」って聞かれたのが面白かったですね。あんた、脚本読んでないのかいと(笑)。
ドジャースが昔ブルックリン・ドジャースだったんで、その「B」っていうのを被らせたかったんだと。監督がロサンゼルスに住んでたことがあったので、ドジャースがすごい好きなんですよ。ドジャースの話と、あとクランベリージュースがすごい美味いのに、なんで日本に売ってないんだってよく言ってました(笑)。今ではスーパーでも見かけるようになりました。時の流れを感じますね。
取材・文:タカハシヒョウリ/小沢涼子 撮影:大塚正明 協力:コトブキヤ

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