小田和正

小田和正

【小田和正 リコメンド】
2022年、初夏、
小田和正の歌が聴こえる。

真ん中にあるのは
揺るぎない「歌」

 「小さな風景」(テレビ朝日系連続ドラマ『遺留捜査』主題歌)はエレクトリックピアノの柔らかな響きと、包み込むようなストリングスの音色が耳に残るスローバラード。小田和正の真骨頂である、“ありふれた、少ない言葉数の中に、最大限の感情と無限に広がる景色を見せる”曲作りの手法が遺憾なく発揮された曲で、やさしく温かい曲調だが、じっくりと噛みしめて聴くと切なさが込み上げてくる。この曲に寄せた本人の“いなくなってしまった人との思い出を懐かしく辿るだけでなく、自分の知らないその人もきっとどこかにいたのだろうと想う気持ちに触れたかったのです”という言葉は意味深だ。『遺留捜査』という犯罪ミステリーに寄り添いつつ、普遍的な愛の歌へと昇華させる、鮮やかな手腕は見事と言うしかない。

 医療系エンタテインメント作家の第一人者・海堂 尊の原作による、外科医を主人公とするシリアスな人生ドラマだったTBS系日曜劇場『ブラックぺアン』。その主題歌になった「この道を」は、深く強く響くピアノと歌のみの荘厳な出だしにグッと引き込まれるリアルな人生ソングに。《どんなに 険しくても/この道を 信じて行く》というシンプルな言葉に込めた想いが、シンプルな楽曲に限りない深みを与える。リズム楽器をまったく使わず、ピアノとオーケストラとコーラスのみで進むアレンジは、“小田和正の歌”という揺るぎなさが真ん中にあるからこそできる技だろう。

 アルバムの5曲目「so far so good」は、2022年4月から放送開始のNHKドラマ10『正直不動産』主題歌。小田にとって珍しく、コメディー作品への楽曲提供だが、小田の回想によると“コメディーというイメージが湧かず”と、曲作りにはかなり迷ったらしい。確かにドラマ冒頭の設定はコメディー風だが、“嘘をつくこと”“正直であること”という人間の根本的な心の問題にずばりと切り込む作風は、コメディーと呼ぶにはあまりにリアルで身につまされる部分が多い。小田自身もそれを感じたのだろう、出来上がった「so far so good」は軽快なリズム、明るい風景、伸びやかな歌声が聴けるキャッチーな仕上がりだが、誰かを幸せにできることが一番幸せなことだと歌う、ふと考えさせるような言葉の重みを散りばめて、あと味はほんの少しだけビター。小田ならではの、いくつもの感情のレイヤーで織り上げた一曲になっている。

 「ナカマ」(テレビ東京系『ガイアの夜明け』エンディングテーマ)はアルバムの中でもっとも新しく、2022年6月から放送開始されたピカピカの新曲だ。『ガイアの夜明け』は経済ドキュメンタリーとして人気の高い番組で、ドラマやエンタ―テインメント番組とは異なるテイストの楽曲を求められたと想像するが、マエストロは見事にそれに応えてみせた。楽曲そのものは実に小田らしく、歌、ピアノ、クラシックギター、ストリングスのアンサンブルで、初めて聴くのに懐かしいような佇まいに仕上がった。佐藤竹善(SING LIKE TALKING)と松たか子が参加したコーラスも聴きものだ。タイトルの“ナカマ”はもちろん“仲間”のことで、ひとつの目標に向かって進んでいたあの頃の仲間たちを懐かしみ、愛し、そして今も仲間たちとともに前に進む、自身の音楽人生を凝縮したような歌詞も感動的である。

OKMusic編集部

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