中村勘九郎、8歳男女の二役に挑戦す
る意気込みとは スペクタクルリーデ
ィング『バイオーム』インタビュー

2022年3月末に宝塚歌劇団を退団した上田久美子が、宝塚以外で初となる脚本を書き下ろした『バイオーム』。NHKで『精霊の守り人』『麒麟がくる』などを手がけた一色隆司が演出を担当、映像等を用いたスペクタクルリーディングとして送る。豪華キャストそれぞれが二役を演じ分けるこの作品で、8歳の男の子と女の子の役に扮する中村勘九郎に意気込みを聞いた。
ーー今回、スペクタクルリーディングの主演を務められます。
朗読劇としてお話をいただき、台本を読ませていただいたのですが、……ホントにこれ、リーディングなの? という感じで。稽古をしてみないと僕にも想像がつかない感じですね。朗読劇自体も以前一度やらせていただいただけで、しかもそのときは無観客で配信のみだったので、想像ができなくて。上田久美子先生がお書きになった、ものすごいものができあがってきて、その段階ではスペクタクルとは聞いていなかったのですが演出の一色隆司さんのお話をうかがっていると、カーテンを使って映像を映し出したりとか、あとは舞台機構も使うということなので、はたして朗読劇の枠に収まるのかどうか、どんなものが生まれるのか、自分としても楽しみですし、期待しています。
ーー歌舞伎作品以外の作品にお出になるとき、ご自分が歌舞伎役者であることをどれくらい意識していらっしゃいますか。また、外部出演の経験を、歌舞伎の舞台にいかにフィードバックしていらっしゃいますか。
歌舞伎の舞台に持ち帰るということはなかなか難しいんです。本当に独特の演出だったり、歌舞伎ならではの手法というのがあるので、難しいんですが、経験と場数と度胸を増やし、中村勘九郎という役者がいろいろなものを吸収して成長する場ととらえていますね。今回にしても本当に才能豊かな方々しかいないのですが、その方々でさえ想像がつかないものを一緒に作り上げていくことが楽しみです。時代劇だったりですと、所作の部分など子供のころから培ってきたものを生かせますが、今回演じるのは8歳の男の子と女の子ですから。これは今まで経験したことのない役なので、すごく不安ですね(笑)。女方の経験ともまた違うでしょうしね。
中村勘九郎
ーー以前経験した際に感じた朗読劇のおもしろさとは?
大竹しのぶさんと、井上ひさしさんの「十二人の手紙」から『泥と雪』を読ませていただきましたが、手紙形式の朗読劇だったので、会話の部分がなかったんです。稽古も一回だけ場当たりでしたくらいだったので、読みながらその場で出てきた感情を大切に、大竹さんが発するものにどう応えていくかという楽しさがありました。今回は本当にどうなるか。もしかしたら朗読劇じゃないかもしれないので(笑)。朗読劇が苦手の方も、お好きな方も楽しめるような、摩訶不思議な舞台になりそうです。ホンを離す瞬間も生まれてくるでしょうが、どこで離すことになるのかは、稽古場での一色さんやキャストの皆さんとの話し合いの中で生まれてくるんじゃないかなと思います。
ーー朗読劇では声の魅力もさらに大きな要素になってきますが、声と身体の関わり合いについてはどうお考えですか。
身体と共に表現する芝居より、情報として声だけで伝えなければいけない難しさというものがあると思うので、その部分はしっかり意識しながらやりたいと思います。身体をどの程度使うのか。だって、このメンバーが揃っていて身体を使わないのももったいないでしょ、と思うし。なので、そこは本当に観てのお楽しみになります。朗読劇だと思って観に行ったら何かすごいものだった、みたいになったらいいなと思いますね。与えられた役柄の肉体から出てくるものが声であって、肉体を通しての声になればいいなと思います。8歳ですが、あえて子供っぽくしなくてもいいというお話もあって。どんな風になるか、いろいろな可能性、引き出しをもって稽古に挑みたいと思います。うちの次男が8歳ですが、やっぱり子供から出て来る言葉とか発見とか行動、言動を見ていると、僕たちも同じ道を通っていたのに、いつのまにかいろいろな欲だったり感情だったりに流れて、純な心が失われていっていると思います。今回演じるルイとケイは、役どころとして、特にそこの純な部分として、欲の塊たちの中にいる存在なので、子供たちをよく研究したいなと思いますね。
ーー今回、勘九郎さんは人間の二役、他のキャストの皆さんは人間と植物の二役を演じられます。
ルイは大きな庭のあるお屋敷の中に生まれ育った一人息子ですが、一族が暴走、爆発している世界の中で、信じられるもの、よりどころが、木であったりふくろうであったり、植物との対話であったり、そこに安らぎを求めている少年です。ギフトを授かっている子供で、独特の世界を常にもっていて、すごく純粋なんですね。縛りとか責任感もなくて、大人になったら何になるの、大臣になるんじゃない、みたいなセリフがあるんですが、本当にそういう感じで。ただ、愛されていないというのはすごく感じているんじゃないかなと思いますね。ケイは、ルイが爆発、暴走しそうなところを、ちょっと冷静な目で止めてあげる存在。家政婦のふきさん(麻実れい)はルイにとって身近な存在で、親に言われても言えないごめんなさいを、彼女に言われるとちゃんと言えたり。お父さん(成河)のことはすごく好きです。お母さん(花總まり)に対しては、愛されてないなということをすごく感じていて。おじいさん(野添義弘)のことも威圧的に感じているかな。逃げ場がないというか、一族の中で、ギフトをもらった子が、愛されず、居所がなく存在しているという感じですかね。ルイのよりどころは木なので。ルイの行動に親たちは悩むし、別の問題でも悩んで崩壊しているし。植物になりたい男の子ですね。本当に暴走している一族なので、これを観ると、お客様もはっとする部分があるんじゃないかなと思います。
ーー植物が大きなテーマとなっている作品ですが、勘九郎さんが自分の好みの庭を作るとしたら?
純和風がいいですね。僕は和のものが好きなので。形から入るタイプということもあって、どこかのお寺の庭を真似て、それで満足するタイプです。凝ったりはしないで(笑)。枯山水タイプ、好きですね。落ち着くというか。ルイくんは植物、自然と一体になる子ですけど、演じる私は真反対の性格で、土とかの上で裸足になるのがいやなので、そういう部分から直していかないと。汚れるから苦手なんですよ(笑)。海とかも普通に入っていけないです。あんまり好きじゃない。ルイくんじゃなくて一族の人間を演じた方がよかったかな(笑)。植物が嫌いなわけじゃないです。そこにある自然は見ますけど、あえて自分から関わっていこうというのがなくて。お花とか妻にプレゼントするのは好きなんですが、その後のコバエの心配をしてしまう。だからコバエが出ないような花を選ぶとかね(笑)。
中村勘九郎
ーー台本上、ルイとケイの会話が多いですね。
多いです。それは大変ですよ。同じ8歳で、男の子と女の子だけど、それくらいの年齢って声もそんなに変わらないでしょうし。これはね、本当に大変。落語という感じかな、いやそうでもないかな、とてつもなく難しいものをいただいていますね。僕が担当するのはほとんど二人の会話なので、それをどう表現するか。朗読劇だからできる部分もあるかもしれないです。これまでいろいろな舞台に出てきましたが、本当に、一番どうなるかわからない作品で、お客様も観たことがないものを観られると思う。いやなニュースが多い中で、感じ取ってもらえる部分はあるんじゃないかなと思いますね。本当に上田さんが今書いた作品という気がする。今しか観られない作品なんじゃないかな。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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