国内外で注目を集めている、つづきが
新宿でライブーーバンドが放つ、優し
さの結晶がステージで輝く

つづき『THEMUSICCIRCLE』2022.5.8(SUN)新宿LIVE FREAK
「つづき」というバンドが生まれたのは、今から10年前。メンバーの1人であるYochi(Dr)とDJのCOOLGが立ち上げた年1回のイベント『DUBPOPNITE』がキッカケだった。「最初はDJのみだったんですけど、2年目からライブも取り入れたいと思いまして。試しにSEKI-NE(Vo)や友くん(Key)とかとライブをやったのが始まりです」とYochi。
いざライブをやってみたら、予想以上に周囲の反応が良かったそうだ。演奏する場所は小さな飲食店から始まり、クラブ、ライブハウスと音響設備が整った環境へ移っていった。次第にバンドメンバーも定着して、現在の5人編成に行き着いた。2017年に初めてリリースした「逡巡歌」は、藤原ヒロシがラジオで紹介するなど、早くも業界内で彼らの才能を見出す者もいた。
しかし、これまでつづきが公の場に出ることはほとんどなかった。というのも、彼らは「社会人として働きつつ音楽をやる」というスタンスで活動を続けてきたからだ。音楽1本ではなく、自分達の生活を大切にした上でバンドをやる。とにかく楽曲を作るわけでも、ライブを積極的にやるわけでもなく、無理のないペースでやってきた。
つづき SEKI-NE(Vo)
前日、SPICEで実施した初インタビューで友が語った。「あんまり力を入れないまま、気づけば10年経っていた感じですね。逆に、力が入っていたらこんなに長続きしてなかったです」。
そんな中、今年3月に転機が訪れた。YouTubeに公開した新曲「(what you’ ve) lost」のMVが日本のみならず、中国でも話題になったのだ。そして……5月8日(日)。新宿三丁目にある新宿LIVE FREAKの『THEMUSICCIRCLE』に、つづきが出演すると聞いて会場に足を運んだ。
新宿駅前とは違って、ライブハウス周辺は通行人もまばらで、閑散としていた。しかし、会場の受付を通過してドアを開けると、予想に反して大勢の観客が。足の踏み場がないほどの大盛況。午後7時になり、つづきがステージに姿を見せた。
つづき スヌ(Gt)
1曲目は、音源化されていない楽曲「時雨」で始まった。6年ほど前にまなぶ(Ba)が作った曲で、しばらくライブで演奏することはなかったが、オーガナイザーのお気に入りということもあり、特別に披露したそうだ。冒頭はスヌ(Gt)のクリアなギターの音色と、SEKI-NEの深みのある歌声が相まって、空気の澄んだ山や森の映像が脳内に浮かぶ。出だしの1節を歌い終えると、今度は一斉にバンドイン。一瞬にして場内のムードを掌握した。大切な人を失った寂しさと、去った後に感じるわずかな残り香を描いた「時雨」。人生はただ前へ進むだけじゃなく、過去の余韻と共に歩んでいく。つづきの音楽を象徴するようなオープニングだった。
つづき まなぶ(Ba)
2曲目は、YouTube向けの短編ドラマ『東京Neighbors』のエンディング曲になった「逡巡歌」。こちらも別れの曲で、離れていく友人に想いを馳せた歌詞になっている。大事な人との別れが悲しいとか、寂しいとかではない。草木が持つ生命力のように、根を張って健気に前へ進んで行こうとエールを歌っている。バンドが放つ、優しさの結晶がステージ上で輝いていた。
演奏が終わり、「ありがとうございます」とこの日初めてSEKI-NEが観客に言葉を発すると、場内から拍手が起きた。少し照れくさそうに笑みを浮かべるSEKI-NE。「こんなに沢山の方が足を運んでくださって、ありがとうございます。有観客のライブはすごく久しぶりで、2年半振りとか? その間に無観客のライブはやったんです。僕はライブがあんまり得意じゃなくて、人前が苦手なんです。なので無観客は無観客で楽しいと思っていたんですけど、さっきOSUSHIさん(※この日、OSUSHI、田井中翔、rakushoo quartet、DJ ま!が出演していた)のライブを観て、すぐそこで人が歌っていて、それを聴けるのがすごく嬉しくて……少し泣きそうになりました。僕らもそうなれるように頑張りましょう」。SEKI-NEの投げかけに、他の4人も照れくさそうに「はい」と答えた。
つづき Yochi(Dr)
「次、新曲をやります」と言って、「絵空事」を披露した。Yochiのカウントから全員が一斉に演奏を開始。並木道をスキップしたくなるような軽快なサウンドでありながら、歌詞は比喩表現が散りばめられていて奥が深い。<薄手のジャケット引っ張り出して 新しい季節に出会う さようなら>。この一節が表すように、心の切り替えと衣替えが掛かっている。フロアに目をやると、50代くらいの男性が目を閉じて聴いていた。直立不動で。心に沁みるというのは、こういうことなんだろうなと思った。
つづき 友(Key)
再びSEKI-NEがマイクを握る。「メンバー全員が「一生懸命バンドをやろう!」というタイプの人ではなくて。ライブに誘っていただいて、やっとスタジオに入るという。そういうスタンスの活動を続けてきたんです。コロナ禍になり、ライブが出来ないとなって。じゃあ、曲を作りましょうかということで、「(what you’ ve) lost」と「絵空事」を作りました。MVもプロデュースもレコーディングも、本当に色んな方に関わっていただいたおかげで、僕らもすごく大好きな曲ができて。じゃあYouTubeに公開しようとなって。ただ、そこから先は想像していなくて。これほど沢山の方に(MV)を見ていただけてビックリでした。本当にありがとうございました」。
つづき SEKI-NE(Vo)
大勢の拍手に包まれながら、最後に演奏したのは「(what you’ ve) lost」。この曲は、プロデュースを務めたJYAGAが作曲し、SEKI-NEが亡くなった両親を想って作詞した。青いスポットライトがステージを照らす。終盤のフレーズ。<きっといつまでもその温もりが僕を生かすよ>。SEKI-NEが瞼の裏にいる両親を想うように、顔を歪めながら歌い上げる。Yochiのドラムが聴く者の心の鼓動を早め、楽曲を抒情的にする。友のキーボードが儚さと優しさを色付けする。スヌのギターが歌詞の繊細さを引き立てる。デモを初めて聴いた時に号泣した、と言っていたまなぶが目を閉じて1音1音を噛み締めるように、演奏していたのが印象的だった。<もうどうしようもないことばかりでも 雨が降り止まなくても>。この曲を完成させるまでに2年がかかったそうだ。当初は、両親を亡くした悲しみに打ちひしがれるままで、前を向いた歌詞を書けなかったという。だけど今、「(what you’ ve) lost」は別れの十字架を背負って、明日を生きる光をまとっている。この日、一番のハイライトだった。
つづき
取材・文=真貝聡 撮影=高田梓

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