【レポート】Yae&ナターシャ・グジ
ーの音楽会、日本とウクライナの歌姫
の競演

2022年4月19日、東京・六本木クラップスにて<Yae&ナターシャ・グジー音楽会〜いのちを歌う〜>が開催された。

加藤登紀子の次女でシンガーソングライターのYaeと、ウクライナ出身の歌手でバンドゥーラ(ウクライナの民族楽器)演奏家のナターシャ・グジーの初ジョイントライブとなったこの日。前編は来日23年目のナターシャが、故郷の思い出や日本での活動の話を交え、バンドゥーラと歌を披露。後編はYaeが、シンガーソングライターでサウンドプロデューサーのYANCYのピアノ演奏で歌うという二部構成。YANCYは加藤のコンサートでもお馴染みの実力派である。

まず、口火を切ったのはナターシャ。バンドゥーラの弾き語りで、ジブリアニメ映画『千と千尋の神隠し』 の主題歌「いつも何度でも」を日本語で披露した。バンドゥーラの優しく温かな音色に、澄んだ歌声、深い意味を感じさせる歌詞が調和し、一気に歌の世界へと引き込む。

歌い終えると、「皆さん、こんばんは。ナターシャ・グジーです。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、私は生まれも育ちも、葛飾柴又、ではなくウクライナです(笑)」と挨拶し、会場は和やかな雰囲気に包まれる。「今日は皆さんの心に響く歌と演奏をお贈りしたいと思います」とナターシャ。2曲目にウクライナの曲「木の根」を紹介。「人間も自然もしっかりと根が張っていないと生きられない、そうやって遥か昔から命は繋がっていく、という意味の曲です」という説明から、もの哀しい演奏に郷愁を誘う歌声、ウクライナ語の美しい響きで観客を魅了した。

「加藤登紀子さんには日本に来る前から大変お世話になっていて、日本に来ることができたのも加藤さんのおかげです。私にとって、日本のお母さんのような存在です。加藤登紀子さんといえば、こんなイメージがあります」と言い、加藤がギターを弾く時のようにバンドゥーラを高い位置で抱えると拍手が起こった。そのまま「♪知床の岬にはまなすの咲くころ」と、「知床旅情」の1番をバンドゥーラを弾きながら日本語で歌うと、さらに大きな拍手が贈られた。

続いて、「小椋佳さんは知っていますか? 小椋さんにも7年ほど前から大変お世話になっています」とナターシャ。小椋佳のコンサートにゲスト出演することもあるそうで、「小椋さんは煙草が大変お好きで、コンサートの途中も『吸ってくる』とステージを降りていきます。そこで私が歌うコーナーがありました(笑)」と裏話も明かす。小椋がナターシャに「この曲を歌ってほしい」と書き下ろしたという渾身の「命はいつも生きようとしてる」を日本語で披露した。

「私は日本に来てから22年が経ちました。最初はこんなに長くいると思っていませんでしたが、いつのまにか時間が経っていました。そして今、私は日本が大好きです。もう一つの自分のふるさとだと思っています。良い思い出もあればそうでもない思い出もありますが(笑)、でもとても素敵な思い出のほうがたくさんあります。私はウクライナと日本の文化の懸け橋になりたいと願って活動してきました。その中でたくさんの素晴らしい日本の曲と出会うことができました。そんな素敵な日本の曲、自分の思いを込めて作った曲、ウクライナの曲、様々な曲を集めて今までたくさんのアルバムを発表することができました。私にとってとても大切な曲をお届したいです」というトークから、さだまさしのヒット曲「防人の詩」を日本語でカバー。同曲は、山本直純監督の映画『二百三高地』の主題歌として1980年に発表された。ナターシャの来日10周年記念アルバム『Nataliya2(ナタリア2)』と、来日20周年記念DVD『FILM旅歌人(フィルムコブザーリ)Vol.1』にも収録されている。

前編の最後は「平和への祈りを込めてお届けしたいと思います」という言葉から、スペインの民謡「鳥の歌」を紹介。同曲は、スペインのチェロ奏者で作曲家のパブロ・ガザルスが平和を希求して、1971年10月24日の世界国際平和デーに国際連合本部で演奏したスペイン・カタルーニャ(カタロニア)の民謡である。

ナターシャの弾き語りに途中からYaeも参加し、二人の声のハーモニーで観客達を魅了。Yaeが日本語で歌うパートもあり、貴重なコラボとなった。歌唱の後、見つめ合って微笑む二人。ここからはしばらく二人のトークタイムとなる。
Yaeは「このコンサートのお話をいただいた時、ナターシャさんは心が苦しく大変な時だと思って今はやめておきましょうよ、と提案したんです。ですが、ナターシャさんがお電話をくださって、『だからこそ歌うんだ、歌は止めません』と仰って、その言葉を聞いて、やっぱりやろうと決めました」と明かした。ナターシャは「Yaeさんとはとても長いお付き合いなのですが、一緒にステージに立って歌うのは今日初めてなんです。自分たちの想いを共有できらたらいいなと思ってYaeさんの森にお邪魔したりして(笑)」と、Yaeが住む千葉県鴨川自然王国の農場に訪れたことを振り返る。森や田んぼを一緒に歩いたり、Yaeがさばいたお肉を持ち帰ったこともあったのだとか。Yaeは「今だからこそ音楽や歌い続けることが必要で、私の住む所は食べるものもいっぱいあるし、お水は湧き出ているし、何かあったらここに来てください、ここはシェルターだ、という話をしました。人が命を繋ぐ、そんな場所に私はしていきたいなと思って。ぜひ森の中でまたジョイントしましょう」と語った。

ここでYaeのソロコーナーとなり、「ウクライナ語で『ありがとう』を『デャークユ』と言います。もっとウクライナのことを知ってほしいです。私たちはもっともっと学んで考えて未来を創造することが必要です。この戦争を一刻も早く終わらせたい。人はなぜ繰り返してしまうのか。ジョン・ニュートンという、かつて奴隷船の船長だった牧師がこの詞をつけたそうです」と、賛美歌・ゴスペルの名曲「アメイジング・グレイス」を紹介。Yaeの歌とYANCYのピアノ演奏による同曲に、途中で日本語の語りが入り、Yaeの想いの強さが伝わってきた。次は、加藤登紀子のアルバム『回帰船』にも収録されている「土に帰る」を披露。「私が母のお腹の中にいる時に作られた曲」と言い、「勝手にカバーしてレコーディングした」というYaeの思い入れの強い一曲である。

鴨川自然王国で農業を実践しながら生活するYae。17年目となる鴨川での生活について触れ、「全部はがれ落ちたらそこに自分がいて、それを土が洗い落としてくれたようです。農業は草刈りが本当に大変で……。草は刈っても刈っても生えてくる。命っていうものはすごい、というのを私たちは忘れてはいけないと思います。だからこそ、種を撒くというのは私の中で揺るぎのないことです。心の中のわだかまりが無くなるような、勇気を持ってもらえるような歌を届けたいです」と語った。

続けて、Yaeが大好きだという、ジャズピアニスト・板橋文夫の名曲「For you」、Yaeのオリジナル曲「Smile」(アルバム『On The Border』に収録/2020年)を続けて歌唱。「“境界線の上に”という意味で、コロナ禍で生まれた曲です。お互いが認め合える、一つになれる場所を境界線の上に作ればいいじゃないか、とそう思いました」という話からは、Yaeのデビュー20周年記念アルバムの主題曲でもある「On the border」を熱唱した。

終盤を迎え、「ここにいる時間がなんと私にとって癒しの時間でしょうか!」とYae。「帰らないと3人の子供と夫と苗に水田、鹿、猪も私のことを待っているんですよ(笑)。忙しい忙しい、もう。でも、心を亡くす忙しいではなくて、生きるために手間のかかる暮らしなんです。たくさん手を使ってたくさん身体を使って、『生きてるな!』って思える農業は素晴らしいです。父が残したフィールドで、ここから出発すればいいんだね、っていつも包んでくれるような、そんな場所です。お待ちしています」と客席に語りかけた。

色々な土地で歌ってきたというYae。多くの人にエールを贈りたいという思いで作った曲の一つ、福島県飯舘(いいたて)村のメッセージソング「ともに歩こう」を披露。真っすぐに前を見つめて歌い、歌い切ると、両手を広げて上を見上げて喜びに満ちた笑顔を見せた。
アンコールとなり、もう一度ステージに並ぶYaeとナターシャ。ここでしばし撮影タイムとなり、ナターシャが「美しく撮ってくださいね」と、Yaeが「美しく撮れた写真のみSNSにあげてもOKです」と言うと、どっと笑いが起こった。

最後の曲として、ナターシャが「私が一番最初に覚えた、美しい日本の歌です」と、日本唱歌の名曲「ふるさと」を紹介。1番はナターシャがウクライナ語で、2番はYaeが日本語で、3番と4番は2人が日本語で歌唱。それぞれの言葉の魅力とハーモニーの美しさが際立つ名歌唱に会場が湧いた。「♪水は清きふるさと」の部分を繰り返し、歌い終えると深々と会釈する二人。しばらく大きな拍手が響き、温かい空気の中での終演となった。

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