舞美りらと千咲えみが見せた、互いへ
の尊敬「OSKは継ぎ足されてきた「秘
伝のソース」みたいな劇団」ーー連載
『OSK Star Keisho』第4回

1922年に誕生し、2022年に創立100周年を迎えたOSK日本歌劇団(以下、OSK)。SPICEでは1月よりスター達に質問の「バトン」を用意してもらい、次のスターへと繋ぐリレー形式のインタビュー連載企画『OSK Star Keisho』を掲載中だ。第4回は、娘役トップスターの舞美りら(まいみりら)と千咲えみ(ちさきえみ)が登場。麗しさと美しさ、そして強さを兼ね備えた歌や踊りで惹きつける二人の、芸へのひたむきな思いがあふれたインタビュー。知られざる稽古場での姿などを語ってもらった。100周年記念イヤー真っただ中のOSK、7月の京都・南座での舞台が早くも待ち遠しい中、大阪松竹座、新橋演舞場での「レビュー 春のおどり」への思いも改めて聞いた。
――まずはお二人の歌劇との出会いや、OSKに入団されたいきさつなどを教えてください。
舞美りら(以下、舞美):私はずっとクラシックバレエを習っていまして、将来プロになりたいなと思っていたのですけれども、ちょっと挫折して。でも舞台に携わるお仕事がしたいと思っていたので、その頃、通っていたミュージカルスクールの先生に「OSKという歌劇団があるんだよ」と勧めていただいて。そして受験して、合格して、それから初めて桜花(昇/おうかのぼる)さんのトップスターお披露目公演を拝見しました。なので、歌劇との出会いはかなり遅かったんです。
千咲えみ(以下、千咲):私は小さい頃から習い事をいっぱいさせてもらっていて、その中の一つがジャズダンスでした。でもプロになる夢はなく。舞台もミュージカルも興味はなく、保育園の先生になりたいと思っていました。ですが、小学校6年生の時、祖父母が宝塚歌劇を初めて観せてくれまして、一目見て舞台と歌劇の華やかさに憧れて。それからずっとずっと「歌劇の世界に入りたい!」と、一ファンとして学生時代を過ごしました。OSKは、祖母が女学校の時に大劇(大阪劇場)で観ていたそうで、その存在を教えてくれ、桜花さんがトップスターの時代に『春のおどり』を拝見しました。日舞のショーをちゃんと観たのはそのときが初めてで、オープニングの「チョンパ」で「何だこれは!」と。大阪松竹座のロビーにOSKの願書が置いてあったので休憩時間にもらいに行き、東京に帰って両親に「受けたい」と伝え、その1週間後くらいに受験しました。そして合格発表の当日「合格です。入りますか、どうしますか?」と言われて(笑)。東京の母と電話で「え? 受かったの? もう返事しなくちゃいけないの?」と話したことを覚えています(笑)。
舞美:一日で全部が行われたんだ。目まぐるしいね(笑)。
舞美りら
――初舞台のことは覚えてらっしゃいますか?
舞美:OSKのいいところは研修生の2年目で舞台に出させてもらえるところなのですが、私のときは大阪松竹座に出させていただきました。なので、初舞台を2回、経験した感覚でしたが、初めて大阪松竹座での公演に出演したときは、すること、すること初めてのことばかりで。授業で日舞はもちろん、どのジャンルの踊りも踊ってはいたのですが、公演でお見せするダンスは全然違ったものでした。もうついていくのに必死で、あまり記憶がありません。クラシックバレエは公演までの準備期間が長くて、半年くらいかけて一つの演目のお稽古をするのですが、OSKは1ヶ月で日本ものと洋舞のショーを覚えるので、毎日、並行してお稽古することにも驚きました。一人一人に実力がないとついていけないところなんだなとショックを受けつつ、でもそのショックを感じている暇がないほど毎日、毎日、お稽古して。あっという間に本番を迎えたという感じでした。
千咲:私は東京の日生劇場が初舞台でしたが、ちょうど劇団創立90周年の終わりの公演で、「鶴」などOSKの歴史ある作品で入らせていただきました。私は研修生のときは『春のおどり』に出ていなかったので、まさに初舞台が『春のおどり』でした。当時は稽古も大変だったと思うのですが、今はすごい楽しかったという記憶しかありません。
舞美りら(右)と千咲えみ
舞美:この期は本当に優秀だったから。
千咲:いやいやいや、本当ですか? いっぱい怒られましたよ(笑)。ただ、桜花さんだ! 高世(麻央/たかせまお)さんだ! 桐生(麻耶/きりゅうあさや)さんだ! と「自分が観ていた舞台のスターさんたちがいる!」、「スターさんの稽古風景も見られる!」みたいな、ファン心理も働いていました(笑)。
舞美:でも、そうなっちゃうよね。
千咲:憧れの上級生方が目の前にいる! と、すごく嬉しかったです。
千咲えみ
――では、入団してこれまで、先輩方にかけてもらって救われた言葉はありますか?
千咲:すぐ思い浮かびました! 一時期、あまり勉強をしないまま、お芝居の作品に結構出させてもらっていて、台詞のある役をいただきました。お芝居のことがわからず、悩んでいたのですが、それを察してくださるのか、そんなときはなぜか上級生が声をかけてくださるのです。そして、いろんな方からいろんなご意見をいただきました。そのときは「ああ、なるほど」と思うのですが、お芝居は受け止め方が人によって違うので、全く違うご意見を聞くこともあって。それで結局、また悩んでしまってというときに「自分が一番自然にできるものが正解だよ」と舞美さんが言ってくださって……。
舞美:あらま! もっと言いなさい!(笑)。
千咲:ハハハ(笑)、舞美さんはいっつも言ってくださいます。
舞美:うそ!?
千咲:言ってくださるじゃないですか!
右から舞美りら、千咲えみ (c)松竹
舞美:無意識かなぁ……。千咲は本当に素直で、いろんな方のご意見を聞いて、真面目に向き合って。ただこの子は、一点集中になっちゃうんですよ。皆さんの意見を取り入れて、自分で解釈しないとと思って、頭がいっぱいになってしまうように思うので、「皆さんのご意見ももちろん大事だけど、その役をできるのは千咲しかいないのだから、本当に自由に」とアドバイスしたことはあります。縛られていたらカチコチになっちゃうし。
千咲:「その役のことを一番考えているのは千咲だから」と舞美さんが言ってくださって。そんなお言葉でいつも救っていただいています。それでちょっと苦手になっていたことに、もう一度、ちゃんと向き合えたり、楽しくなったりしていました。
舞美:確かに、「千咲のやりやすい方法を見つけていけばいいんじゃない?」という話はしましたね。
千咲:はい。お芝居するときも「何でもOK」とおっしゃるんです(笑)。「どんなお芝居をしても、それはその子がやってるのだから」と言ってくださって。
舞美:うん。それが無理なくできることだから。じゃないと、その子がその役をやっている意味がないというか。いろんな見方があると思いますが、演出の方がおっしゃることに対して、その子が考えたことが正解なんじゃないかなと。それを毎日毎日重ねていって、ベストを出して。私もある時期からそういう考えが芽生えまして。それまでは100回やったら100回、同じことをするような、ロボットみたいな人間だったんです。でも、荻田浩一先生の『円卓の騎士』(2018年)あたりからちょっとずつ考え方が変わりました。
舞美りら
――どのように変わったのでしょうか?
舞美:私は役に対して理想が高すぎて。「このときはこういう表情で、こういう目線で」というように、とても細かく、ダンスみたいに考えてしまっていました。でもそれでは相手の方と一緒にお芝居をする意味がないなと。相手の方がどんな表情で、どんな言い方をしていらっしゃるのかを考えられていない自分がいました。そのとき真麻里都(まあさりと)さん(※2018年退団)に「相手の変化を楽しんで、それによって化学反応を起こす自分を楽しむのがお芝居だよ」と教えていただいて。それから相手の方を見て、聞いて、感じて、自分の答えを出すというやり方に変えてからすごく楽になりました。今は、上級生、下級生関係なく、相手の方を信頼するのが一番なのかなと思います。
――なるほど。重複するかもしれませんが、ほかにも救われた先輩方からのお言葉はありますか?
舞美:私は本当に問題児で宇宙人だったので……(笑)。もう様々な方が手を差し伸べてくださって、これだとは挙げられないほどなんですけれども……。桜花さんには、励ましの言葉というよりも背中で見せていただきました。ちょっとだけ桜花さんの少女時代を演じさせていただいたとき、アドバイスをお伺いに行ったら「舞美ちゃん、今日もありがとう。次もよろしくね」と言ってくださって。そのお言葉にはいろいろな意味があったかもしれませんが、その一言で自分から「じゃあ次はこうしていこう」と考えることもできました。「言葉一つでこんなにも勇気をもらえるんだ」と、すごく印象に残っています。
千咲えみ
――そんなふうに、OSKのいろんな先輩方からいろんな教えを受けてこられたと思いますが、お二人はOSKの何を後進に伝えていきたいですか。
千咲:OSKの良さは上級生、下級生の温かさだと思います。たとえば、下級生が大変な役を担ったとき、皆さんが時間を使って1から10まで教えてくださいます。「私はこうして教えてもらったから」と。お芝居も、ダンスも、歌も、普段の居方など全部、先人にお教えいただいたことを惜しみなく教えてくださるのがこの劇団の良さであり、それが伝統だと思います。私もできる限り、教えてもらったことを後輩に教えてあげたいなとも思いますし、逆に、わからないことは上級生に聞こうと思います。最近、とにかく劇団にいらっしゃるうちに吸収しなきゃなとすごく思います。お一人お一人、ご卒業されていくので……。
舞美:本当に。私は、『春のおどり』のプログラムで荻田先生がお料理の話でたとえられていたように、OSKは100年間、継ぎ足されてきた「秘伝のソース」みたいな劇団だなと思います。一人一人の100年分の思いを継ぎ足し、継ぎ足しして、その全部が詰め込まれている。そんな継ぎ足されてきた伝統を表現することによって、深みのある味が出せると思うので、いただいたものをちゃんと体現しなきゃいけないなと思います。OSKには「頼れるシェフ」もたくさんいらっしゃいますし、縦も横もつながりがある。そこがOSKの強みだと思います。OSKは解散の危機も乗り越えていますので、そういった歴史も下級生に伝えられたら。秘伝のソースに新しいものも加えつつ、皆さんに愛してもらえるような劇団になれたらと思います。
『春のおどり』 (c)松竹
――100周年イヤーのスタートを飾った『レビュー 春のおどり』はいかがでしたか。
舞美:大阪松竹座は3日間という限られた日程でしたが、だからこそ、今、自分ができることを全部出し切って舞台に立たなければと思った、奇跡のような3日間でした。
千咲:本当に、そうですね。前半の公演が中止と決まったとき、いろんな方からご連絡をいただき、こんなにも劇団のことを思ってくださっているのだと実感しました。公演中止は残念でしたが、でもその期間を経て開いた初日は、ものすごく感慨深かったです。
舞美りら (c)松竹
舞美:7月の南座でも上演される「INFINITY」は、皆様から愛していただいている「ビバ!OSK」や「虹色の彼方へ」のほかにも、笠置シズ子さんの曲など、今の時代でも楽しんでいただけるキャッチーなメロディがふんだんに含まれています。本当に100周年がギュギュギュッと詰まった作品になっているので、OSKを初めて観る方にも、ずっと応援してくださっている方にも楽しんでもらえると思います。荻田先生が、最後には未来を感じてもらえるような演出もしてくださっています。また、メンバーが変わると雰囲気もガラッと変わると思うので、そこも楽しんでいただけたら。私たちも毎回、新作に取り組む気持ちでやれたらと思います。
下から翼和希、舞美りら、千咲えみ、椿りょう (c)松竹
――では、翼和希さんからのご質問のコーナーです。翼さんからは「下級生の娘役さんたちに継承してもらいたい、お互いの好きなところは何ですか」というご質問をちょうだいしました。
舞美:千咲は、素直でピュアで、人と接するにあたってもすごく気持ちが良い子です。挨拶とか、礼儀も含めて。話していたら私も明るくなります。こういうふうに生きられたらいいなとすごく思います。「素直が一番」とは先生方もよくおっしゃっていて、舞台人にとって本当に必要なこと。その気持ちがないと吸収できないので。私にはちょっと……ない部分ですかね……。
千咲:そんなことないですよ!
舞美:だからこそ尊敬もするし、私はちょっとひねくれている……(笑)。
千咲えみ
千咲:いや、私がひねくれてます(笑)!!
舞美:短所、長所を含め、自分と向き合う時間が一番大切だと思うので、教えてもらったことだけをやるのではなく、それを身に付けて、「じゃあ自分はどう感じたか」という+α、技術的な伝統+自分はどうしたいのかということを常に頭に置いて舞台に立って、与えていただいたものを表現してほしいなと思います。矛盾しますが、自分がやりたいようにやるというよりも、いただいたものを自分がどう表現するかということが一番大事だなと。そこを追求し続けていてほしいなと思います。
千咲:私は舞美さんの追求心がすごいと思うんです。
舞美:なんで!?
千咲:多分自分にすごく厳しくて……。
『春のおどり』 (c)松竹
舞美:確かに楊(琳/やんりん)さんにもいつも「アスリートだ」と言われる(笑)。
千咲:本当にアスリート並で。多分、何がイヤって、自分がイヤなんだと思います。
舞美:そうなの! できない自分が……。
千咲:すごいんですよ。その姿をいつもお稽古場で見ていて……。舞美さんはイヤホンで音を聴きながら一人でお稽古をされているのですが、今、気に入らないんだろうなというところがすごくわかるんです。「あ、違う」と何回もやり直して。戦っていらっしゃると思いながら見ています。
稽古の様子 (c)松竹
舞美:それは不器用だから。
千咲:いやいや。自分を追い込むと言うと変ですけど、こうやりたい、こう踊りたい、こう歌いたいという理想をご自身で持っていっていらっしゃるのが毎回、すごいと思います。
舞美:1分間の踊りでも100個ぐらい思いつくんです。これダメ、あれダメと。
千咲:そこには、もう1人の自分がいるんだろうなと思います。
舞美りら
舞美:めちゃくちゃいます!
千咲:ですよね!? その姿を見て、すごいなーと思います。ここまで一つのことを追求する姿勢を拝見すると、後輩たちに「みんなー! 舞美さんを見てるー!?」と言いたいです(笑)。
舞美:いや、本当に不器用だからです。何も考えずにさーっとできる人が、私はすごいなと思う。楊さんとか「さっき何してたんだろ。覚えてないよ」とおっしゃるのですが、それは身についているからこそ表現できるのであって、私は身についていないから、落とし込まなきゃいけなくて……。
千咲:舞美さんは舞台に立つことと、それ以上のものをずっと追及されています。下級生もみんな自分の夢を持って(OSKに)入ってきているので、頑張っているのですが、そこまでできる人は少ないと思います。理想の自分への近づけ方は本当にすごいと思います。
黒燕尾をまとった舞美りら(左)と椿りょう (c)松竹
――次回は椿りょうさんがご登場します。最後に椿さんへのご質問をお願いします。
舞美:男役さんとしてでも、舞台人としてでも、どちらでもよいのですが、「OSKの男役さんとして後輩に受け渡したいものは何ですか?」です。ちょっと似たような質問になってしまいましたが……。
千咲:椿はすごいダンサーです。歌劇はやっぱり男役さんがいてこそだと思いますし、毎公演、男役さんだけの群舞があって、お客様もそれを楽しみにしていらっしゃると思うので、「伝統ある男役さんの群舞の何を教えていただいて、下級生の男役さんに受け次いでいきたいか」ということを聞いてみたいです。
舞美:椿はこだわりがすごいありそうです。ジャケットの手の添え方からもう、かっこいいので。これ、絶対そう見せたいんだなとわかります。「INFINITY」では私も黒燕尾を着て、椿くんと一緒に踊らせていただいたのですが、さばき方が違うんですよ。「それかっこいい、私もやりたい、けどできひん!!」といっつも思っていました。さらーっとやるのがすごい。尻尾の先まで見せ方を計算しているんだろうなと思います。それは余裕があるからこそできる技なので、素敵だなと思います!
舞美りら(右)と千咲えみ
取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉

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