大月ひなた役の川栄李奈(左)とアニー・ヒラカワ役の森山良子 (C)NHK

大月ひなた役の川栄李奈(左)とアニー・ヒラカワ役の森山良子 (C)NHK

【コラム】映画で巡る「カムカムエヴ
リバディ」100年の旅 チャップリン
から『ラスト サムライ』まで

 ついに最終回を迎えた朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」を彩った重要なモチーフは、英語とラジオとジャズと野球、そして映画だった。ここでは、劇中に登場したさまざまな映画から、このドラマを振り返ってみたいと思う。
 まずは、上白石萌音が演じた初代ヒロイン安子編から。安子の兄でダンサー志望の算太(濱田岳)が、『黄金狂時代』(25)でチャールズ・チャップリンが見せた至芸「パンのダンス」ならぬ「おはぎのダンス」を安子に見せる印象的なシーンがあった。算太は、晩年に訪れた大月家でもパンのダンスを披露する。彼の終生の憧れはチャップリンだったのだ。
 安子と後に夫となる稔(松村北斗)が、1939(昭和14)年に一緒に見た映画はモモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)主演の時代劇。モモケンは架空の人物だが、この後、ドラマの端々に登場して重要な役割を果たすことになる。
 続いて、大阪に移った安子の娘で2代目ヒロインのるい(深津絵里)が、弁護士の卵の片桐(風間俊介)との初デートで見るのは、黒澤明監督、三船敏郎主演の『椿三十郎』(62)。これで時代が昭和37年だということが分かった。
 るいの額の傷のこともあるから、額に三日月傷のある市川右太衛門の『旗本退屈男』ではしゃれにならないが、『椿三十郎』も名作ではあるが、デートムービーにはいささか不向きな気がする。だから、片桐とるいはうまくいかなかったのか。
 一緒に並ぶ絵看板は『巴里のイギリス人』と『逆襲!宇宙海賊船』と『あさがお』だった。モデルとなった映画は、ミュージカルの『巴里のアメリカ人』(51)、『地球防衛軍』(57)あたりの特撮映画。そして、ウクライナ問題で新たに注目されたソフィア・ローレン主演の悲恋映画『ひまわり』(70)だと思われる。
 これらの絵看板は、映画黄金時代の華やかさを表現したかったということなのだろう。何だか時代考証がバラバラだが、これはこれでいろいろと想像をしながら楽しめた。
 『椿三十郎』に続いて、同じく東宝映画で加山雄三主演の『ハワイの若大将』と特撮映画『マタンゴ』(ともに63)も登場した。実際にこの2作は同時上映だったらしい。どちらもヨットで遠出をする話だが、片や明るい青春物、こなたホラーと内容は全く異なる。
 よくこんな2本立てをやったものだと思うが、どちらも東宝のドル箱映画で、昔は結構こういうパターンがあったようだ。で、時代はいつの間にか昭和38年になったことが分かった。
 同時期、るいが後に夫となる錠一郎(オダギリジョー)と一緒に見たのが、架空の劇中映画『棗黍之丞(なつめ・きびのじょう) 妖術七変化 隠れ里の決闘』だ。市川雷蔵の『眠狂四郎』をパロディーにしたような、この映画のモモケンと伴虚無蔵(松重豊)の対決シーンは圧巻だった。
 それに合わせて、錠一郎とトミー北沢(早乙女太一)のトランペット合戦をカットバックで見せるというなかなか面白い趣向も見られた。確か、ジャズピアニストの山下洋輔が「チャンバラとジャズはよく合う」と言っていたのを思い出した。
 そして、この映画の「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」というモモケンのせりふとポスターが、以後のドラマの展開に重要な役割を果たすことになる。
 時代は移り、父・錠一郎の影響で時代劇好きになった3代目ヒロインひなた(川栄李奈)が就職した条映太秦映画村のモデルは、明らかに東映太秦映画村だが、松重演じる大部屋俳優の虚無蔵のモデルも、東映の大部屋俳優で「5万回斬られた男」の異名を持つ福本清三だろう。
 殺陣は素晴らしい虚無蔵が、せりふが下手で…というのは、福本と同じ。福本の主演作『太秦ライムライト』(14)の役名・香美山(かみやま)は、福本の出身地と、せりふをかむということの、しゃれから命名されたというぐらいだ。
 ドラマの終盤、もう一人印象に残る人物が現れた。ひなたの大叔父・勇の晩年の姿として登場した目黒祐樹である。目黒の父は時代劇スターの近衛十四郎。同じく兄は松方弘樹だ。
 父の近衛は映画で活躍した後、テレビの素浪人シリーズ「素浪人 月影兵庫」(65~68・後に松方主演でリメーク)「素浪人 花山大吉」(69~70)「素浪人 天下太平」(73)で、豪快な殺陣とコミカルな演技を披露して、品川隆二演じる相棒の焼津の半次と共に茶の間の人気者となった。
 目黒は、素浪人シリーズの最終作「いただき勘兵衛 旅を行く」(73~74)で、品川の焼津の半次に代わって、旅の相棒となる旅がらすの仙太(実は監視役の与力・有賀透三=ありが・とうさん)として親子共演を果たしている。
 このあたり、ドラマに登場した時代劇スター桃山剣之介父子の姿と微妙に重なる。脚本の藤本有紀は、1967年生まれだというから、65年生まれという設定のひなたとほぼ同世代。ということは、自身の体験や時代劇に対する思い入れも反映されていることだろう。素浪人シリーズも再放送などで見ていたのではあるまいか。
 しかも、目黒の兄の松方は先年亡くなったが、今回目黒が演じた勇も兄の稔を失くした弟の役なのだ。キャスティングの際に、こうしたことが加味されたのだとしたら、それはそれで、なかなか粋な感じがするのだが、そこまで考えるのはもはや妄想の世界かとも思う。
 その後、ハリウッドのスタッフが、映画製作のオーディションのために映画村を訪れる。その映画のタイトルは『サムライ・ベースボール』。これは多分、トム・クルーズ主演の『ラスト サムライ』(03)と、中日ドラゴンズに入団したアメリカ人選手を描いた『ミスター・ベースボール』(92)の合体だろう。
 特に、『ラスト サムライ』は、虚無蔵のモデルと思われる福本が、沈黙の侍=サイレントサムライ役で出演した映画。だから、虚無蔵が『サムライ・ベースボール』に、2代目モモケンと共に重要な役で出演するのは当然の流れだとも思える。
 最後に、『サムライ・ベースボール』のキャスティングディレクターとして現れたアニー・ヒラカワ(森山良子)が、ラジオで「自分が安子だ」と語るきっかけになるのも映画だった。『風と共に去りぬ』(39)公開の話題が出た時、同年に稔と一緒に見たモモケンの映画の思い出がよみがえったのだ。
 まるでメビウスの輪のように、映画を通して一回りした後、始めに戻ったことになる。それは親子孫3代の100年間を描いたこのドラマのテーマとも通じるものがあると感じた。そして、ひなたはアニー=安子の跡を継いで日米を股に掛けるキャスティングディレクターとなる。
 『サムライ・ベースボール』は、稔が語った「どこの国とも自由に行き来できる、僕らの子どもにゃあ、そんな世界を生きてほしい、ひなたの道を歩いてほしい」という言葉を象徴する映画だったのだ。
(田中雄二)

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