the GazettE “変わらないまま変わ
る”という至難の業を体現してきたバ
ンドの結成20周年ライブを振り返る

the GazettE『20th ANNIVERSARY -HERESY-』

2022.3.10 国立代々木競技場 第一体育館
2022年3月10日。the GazettE結成20周年ライブのアンコールで、ボーカルのRUKIはこう告げた。
「結成してから20年、人生で最後のバンドにしようと思って始めたのが、このthe GazettEです。ちょうど20年前の今日、ガゼットという名前で初めて目黒鹿鳴館のステージに立ってから今まで、みんなが想像できないようなものも見てきました。夢を見続けるというのは簡単なことではなくて、好きなことだけやってるだけじゃ20年守れない。でも、夢の力っていうのは、とてつもなくデカくて、ボロボロになっても守らなきゃいけないって思うんだよ。変わらずにバンドをここに立たせてくれて、この場所を守ってくれているのはthe GazettEを好きだと言ってくれてるみんな、ここにいる一人ひとりだと俺は思います。お前らも含めて今日、このステージを作ってるんだよ。だからさ、俺たちだけじゃなくここにいる全員に、日々必死に生きてる自分に向けて、どうか拍手してあげてください」
the GazettEというバンドのライブを観ていて常々感じるのは、ファンの熱量の高さである。しかし、それはバンド側の愛情の裏返しなのだと、この言葉から改めて感じ取ることができた。結成20周年の記念日当日に行われた公演のタイトルは『20th ANNIVERSARY -HERESY-』。 “HERESY”とはthe GazettEのファンクラブの名称であり、すなわちファンそのものである。また、一方で“HERESY”の和訳が“異端”であることを知れば、“大日本異端芸者”の看板を掲げて活動していた頃から、彼らの心意気は何も変わっていないことがわかるだろう。事実、ヒットシングルからレア曲まで新旧まんべんなく織り交ぜたセットリストといい、メッセージ性の強い選曲や展開といい、この日のライブはアニバーサリーの名に実に相応しいものだった。
RUKI(Vo)
ファンとの絆を再確認し、そして20年間で培ったバンド力を爆発させた一夜の幕は、真紅のステージライトから伸びるレーザー光線で切って落とされた。RUKIの柔らかなウィスパーが一瞬で咆哮に変転し、打ちあがるファイヤーボールと共に始まった1曲目は「UNDYING」。凄まじいブラストビートに唸るような重低音とデスボイスが、広大なアリーナ空間に見えない亀裂を入れていくと、その傷を今度は流麗な旋律が優しく撫でてゆく。その繰り返しに頭を振り、腕を伸ばすオーディエンスの様は、まさに“UNDYING=不滅”。生々しく息づくリアルな“生”を感じさせる。続く「Filth in the beauty」で、みっちり二階席まで詰まった客席が一斉にジャンプする様も壮観。野太いユニゾンで不敵なムードを撒き散らす「DAWN」での盛り上がりはクライマックス級で、序盤3曲にして既に精気まで吸い尽くされそうだ。
「20周年ということなので、俺らがお祝いされるような気分じゃないわけですよ。俺らがお前らに20年分の感謝を届けたい、そんな日にしたいと思います。やり方は何でもいいです。頭振るなり、ぐちゃぐちゃになるなり!」というRUKIの煽り通り、「INSIDE BEAST」ではノリ方がバラバラでもお墨付きの一体感をレーザーが彩ってゆく。続いて、麗と葵がギターを掛け合うイントロが「REGRET」の登板を知らせれば、予想外の選曲に場内にはざわめきが。切なさを誘うカッティングやメロディックなツインリードで感傷を掻き立て、一転「ガンジスに紅い薔薇」を艶めかしく届けたあたり、彼らの“感謝”を感じるに十分だ。さらに、重厚感が鬼気迫る「裏切る舌」、デジタリックな枠組みの中で衝動が暴発する「THE SUICIDE CIRCUS」、クリーンな歌声とシャウトが奇跡的な共存を果たす「Falling」と、研ぎ澄まされた音楽センスをバリエーション豊かに披露する。そんなカロリー消費量が半端ない楽曲を畳みかけたところで、「紅蓮」という啼きのスローナンバーを投下して緊張を緩める……のかと思いきや、その実リリックはどの曲よりも痛いというアンビバレンツぶりにも唸るばかり。こういった多層的/多面的な作品や見せ方も20年たゆまず歩み続けてきた成果に違いなく、初期曲の「飼育れた春、変われぬ春」などは原曲よりエモーションを抑えたぶん硬質な響きを聴かせ、スタイリッシュな進化を遂げていた。対照的に「BABYLON’ S TABOO」や「DOGMA」といった比較的新しい楽曲では、熟しきった漆黒の世界観が爆発。国立代々木競技場というスケール感ある会場で、ここまで儀式めいた佇まいが絵になるアーティストもそうはいまい。コロナ禍ゆえ、こんな景色が2年以上も観られなかったとは口惜しいばかりである。
麗(Gt)
「久しぶりにアリーナ規模のライブをやってるんですけど、意外と不思議なもんで楽しめちゃってます。久しくお前らの声聞いてないわけだから寂しいけど、今日は今までで一番でかい拍手聞かせてよ。俺らもメチャクチャでかい音でお前らに応えるから、最後まで暴れていこうぜ! 今は声なんてなくても関係ないよな!? 俺らは俺ららしく暴れようぜ!」
そうRUKIが焚きつけてからは、「VORTEX」を皮切りにお馴染みのアップチューンを連投し、フロント陣は花道の端まで駆けてオーディエンスを煽り立てる。イントロのドラムに“待ってました!”とばかりに手拍子が湧いた「赤いワンピース」では客席中が振りを繰り出し、「UGLY」ではシャウト、デスボイス、クリーンと目まぐるしく変化するボーカルに合わせてオーディエンスのノリが変わって、ステージ上のメンバーも激しく頭を振る。「お前らに贈るぜ!」と爽快な「TOMORROW NEVER DIES」でトバして、振りきれるテンションのあまりREITA(Ba)がくるくると回転する場面も。狂おしいプレイはそのままラスト曲の「UNFINISHED」へと昇華し、決して終わることのない夢への歩みを振り上げられた拳に誓う。そのはち切れそうな疾走感に覗く青さは、確かに“UNFINISHED=未完成”を思わせる一方、だからこそ“UNDYING=不滅”なのだとも納得させてくれる。20年で取り巻く環境やスキル、パフォーマンス力は変わっても、彼らの最奥にある“the GazettEである意味”は変わらない。それはアンコール頭の戒(Dr)の言葉からも明らかだった。
「変わらず20年間、こういう空間を作り続けていけるのはみんなのおかげです。今までもそうだけど、これから先もずっと俺らとお前らは変わらないってことを、今日は証明してやろうと思います。いくぞ、代々木!」
葵(Gt)
そうしてthe GazettEな王道メロ感を「SHIVER」で存分に味合わせ、RUKIがギターを抱えるなり思わず歓声が漏れた「Cassis」では《どうか僕たちを見つめていて》と歌い替えて、ジッと聴き入るオーディエンスの心を奪う。そこにあったのはファンに対する絶対的な信頼と、そして願いだ。
「こんな世の中だからさ、形を変えてしまったものもあるだろうけど、絶対に変わってほしくないものもあると思います。それが俺にとってはこの空間、ライブであって、the GazettEなんです。the GazettEじゃなきゃダメなんです。あと、もう一つ。20年経ってもヴィジュアル系がメッチャ好きっていう気持ちは変わってない。ヴィジュアル系にしかない良さがあるし、替えの利かないジャンルだから、それを俺は永遠に愛してます。だからさ、俺らはカッコよくあり続けないといけないし、何にも染まらない強さをこれからも大事にしたい。そして、ライブの楽しさを教えてくれた人は、紛れもなくお前らです。ずっとこの気持ちを守っていくので、みんなで同じ夢を人生の中でできるだけ長く見てください。20年間支えてくれたことを心から感謝します」
REITA(Ba)
変わらぬ想いを示すように初期曲「貴女ノ為ノ此ノ命。」が贈られても、そこに当時の泥臭さはなく、残っていたのは余分なものを削ぎ落とした愛情だけだった。再びメンバーが花道に展開する「LINDA~candydive Pinky heaven~」に「未成年」と、長年のライブ定番曲でも進化の跡がクッキリ窺え、タイトなリズムキープと引き締まったサウンドに、REITAも繰り返し拳を突き上げる。
ダブルアンコールではメンバーが一人ずつ想いを述べ、トップバッターの葵は「僕は一番飽き性で、チャランポランで、その度に4人に助けられながら……ちょっと待ってね」と、涙腺が決壊しそうになる場面も。「そんな僕の手を離さずに、一緒に歩いてくれて、どうもありがとうございました!」と続けた彼からマイクを受け取ったREITAも、「20年やっているバンドはそれなりにいますけど、20年ずっと走り続けたバンドはなかなかいないと思ってます。これからも走り続けるつもりなので、皆さん一緒に走りましょう。愛しています」と殺し文句を決めつつ、目を潤ませていた。
戒(Dr)
さらに「変わらないことって難しいんですよ。すごくパワーが必要で、皆が変わらないでいてくれるから貫いていける」と戒が伝えれば、麗もファンへの感謝を語り、「20年やってきて、深い絆を感じてます。これから先も30年40年……70年80年、90年100年と突っ走っていきましょう」と、客席を笑わせてくれた。そして、この季節にピッタリの「春雪の頃」でフロント4人がお立ち台に集い、10周年ライブと同じフィナーレを演出するかと思いきや、ハイハットに続いて麗がアコースティックギターで奏でたイントロは「LAST SONG」。昨年5月にリリースされた最新アルバム『MASS』を締めくくる曲であり、この日がライブ初披露にもかかわらず、同じタイミングで手を叩き、ジャンプする会場の一体感は驚異的だった。また、あの日の様に声を枯らして、求めあおう――その願いは、この場にいる全員が共有しているもの。放たれた銀テープを笑顔で振るオーディエンスの姿に、そう確信することができた。
5人がステージを去ると、『the GazettE LIVE TOUR2022 -MASS- / PHASE 01-COUNT "DECEM"』の開催がスクリーン上で発表。5月13、14日の羽生市産業文化ホールから7月14日の中野サンプラザホールまで、12箇所13公演に上るホールツアーはアルバム『MASS』を掲げたものであり、コロナ禍を経てメンバーが熱望していた全国ツアーとなる。「初めてのライブから20年経った日は今日1日しかないけど、問題はこの先なので」とライブ終盤でRUKIが告げた言葉を噛み砕けば、「LAST SONG」は新たな始まりへと繋げるための“終わりの歌”だったのかもしれない。“変わらないまま変わる”という至難の業を、20年もの間体現してきた5人が今、求める希望の光。それが叶うことを、心から願いたい。

取材・文=清水素子
撮影=Keiko Tanabe, Kyoka Uemizo, Yoshihiro Mori

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