尾崎豊の瑞々しくも真摯な
10代のライヴ風景を閉じ込めた
ライヴアルバムの傑作
『LAST TEENAGE APPEARANCE』
ライヴ音源ならでは楽しみ方
M2「彼」は3rdアルバム『壊れた扉から』の収録曲。この『LAST TEENAGE~』は1985年11月15日の代々木オリンピックプール公演の模様を収録したもので、『壊れた扉から』は同年11月28日発売だったので、ほとんどの観客は初めて耳にするものだった。そう思うと何となく拍手のボリュームも少し抑えめな感じがして、若干オーディエンスが面食らっているような気がしなくもないが、それはまったく勝手な想像にすぎないだろう。ただ、M2はAOR風味が強くて大人っぽい印象はあることは確か。当日そこにいた人たちがどう感じたかは気になるところだ。個人的には、「彼」はそののちに5th『誕生』に収められ、9thシングルにもなった「黄昏ゆく街で」に近い雰囲気もあって、そのプロトタイプとは言わないまでも、“こういうナンバーを20代以降の方向性のひとつと考えていたのかもしれないなぁ”と、栓無きことだと知りつつも想いを馳せてしまう楽曲である。10代の尾崎を象徴するM1「卒業」に続いて、アーティストとしてのその後を想像させるM2「彼」とは示唆に富んだ選曲だったと言えるだろう。
M1、M2はロックコンサートとしての開放感にやや欠けると言えばそうかもしれないが、そのあとにM3「Driving All Night」、M4「Bow!」と持ってきている辺り、“さすがに心得ていらっしゃるなぁ”と、そのセットリストの巧みさには今さらながらに感銘を受けたところだ。M3もまた『壊れた扉から』収録曲であるが、5thシングルとして同年10月21日にリリースされていたことに加えて、その前年からすでにライヴの定番曲であったというから、盛り上がりは必然であった。本作収録のテイクは、Bメロから歌に絡むサックスがスタジオ収録版とよりも明らかに前に出ていて、ライヴの荒々しさを如何なく感じさせるものである。荒々しさと言えば、M4もいい。ブルージーでルーズなギターリフから始まり、そこにサックスが絡む様子は、ブルースハープで始まり、どことなく爽やかな印象もある2nd『回帰線』収録版とは印象が異なる。また、『回帰線』版ではオルガンが鳴っているのに対して、このライヴテイクではピアノが踊っていて、やはりライヴならでの躍動感を感じるところである。