音楽があればどこにでも行ける。どこまでも届く音楽5曲

音楽があればどこにでも行ける。どこまでも届く音楽5曲

音楽があればどこにでも行ける。
どこまでも届く音楽5曲

新年あけましておめでとうございます。本年もOKMusicをよろしくお願い申し上げます。ついでに私のこともよろしくお願いいたします。それにしても、このコーナーを斜め読みしてくださっている聖人君子こと読者がどれだけいるかは存じ上げませんが、「ライヴハウスで会いましょう云々」という内容のコラムを更新して1カ月かそこらでこの有様になろうとは。最近はなるべく外出を控えてオンラインでライヴを聴こうと努力はしていますが、この身が何処にあろうと世界がどうなろうと、音楽は絶対に届いてくれて、自分の中で鳴り続けてくれるのはやはり代え難い幸せだと改めて噛み締める毎日です。今日はそんな心のままに執筆します。
「楯」収録アルバム『ただいま』/倉橋ヨエコ
「NEW ME」収録アルバム『Kitrist II』/Kitri
配信シングル「おみやげを持って」/サニーデイ・サービス
配信シングル「さよならクレール」/中村佳穂
「What Goes On」収録アルバム『The Velvet Underground』/The Velvet Underground

「楯」(’06)/倉橋ヨエコ

「楯」収録アルバム『ただいま』/倉橋ヨエコ

「楯」収録アルバム『ただいま』/倉橋ヨエコ

やり場のない哀惜と後悔、言葉や声になる前に涙と共にこぼれ落ちてしまう願いを綴った歌詞に、凛とした光の情動が空と地を貫く凛とメロディー、幾多の鮮やかな思い出を散りばめたかのような構成の編曲。しかし、扇情的で豪奢なストリングスよりも“泣き”の歪みが響くギターよりも、鍵盤の流麗な和音よりも遥かに強く、笑みすら想起させる声の多幸感の正体は何なのだろう。あらゆる別れや仲違いに傷口を塞いでくれる包帯や絆創膏にも似た優しさは、どれほどの歩みを経て手にしたのだろう。自分を律する添木になり、誰かのための継木になろうという意志も芽生えさせてくれる音楽。

「NEW ME」(’21)/Kitri

「NEW ME」収録アルバム『Kitrist II』/Kitri

「NEW ME」収録アルバム『Kitrist II』/Kitri

無機質なリズムとねじ曲がったギターが手拍子の代わりに幕を開け、ウィスパーヴォイスの巧緻なコーラスワークが体とフロアに穴を開けるミラーボールの光芒をイメージさせるダウナーなダンスミュージック。押韻の心地良さとユーモアに耳を澄ませると、「あなたはあなた以外の何者でもないんだから仕方がないでしょう」と頬を叩かれるスリルが待ち受ける歌詞に誘われ、ダイナミックかつ煌びやかながも夜明け前の仄暗さを宿した複雑なピアノの音色が、からからに渇き切った蛹の殻をやぶって仮面を剥ぎ取り、羽化する寸前の丸裸の自分がこれから出会う色彩豊かな世界に続く重苦しい扉を開けてくれる。

「おみやげを持って」(’22)
/サニーデイ・サービス

配信シングル「おみやげを持って」/サニーデイ・サービス

配信シングル「おみやげを持って」/サニーデイ・サービス

日本テレビ『ぶらり途中下車の旅』のテーマ曲でお馴染みの曲。虫の鳴き声、星の瞬きを連想させるバンジョーやマンドリンの繊細で力強い音色の傍らで、曽我部恵一の(Vo&Gu)の歌声は胸の内でほろほろ溢れ落ちる独り言のように柔らかく、コロナ禍で変わり果ててしまった国の中で変わらない愛しいものがそこかしこに転がっていることを気づかせる大らかさがある。新著『ラーメン狂走曲』を最近発表したばかりの田中 貴(Ba)が主演を務めるMVを観ているだけで、「駅前ああ変える必要本当にあったの?」と未だにぶつくさ文句を言ってしまう下北沢が改めて好きになりそうだ。あのレコード屋さんも、あのカフェもなくなってしまったのに。

「さよならクレール」(’22)
/中村佳穂

配信シングル「さよならクレール」/中村佳穂

配信シングル「さよならクレール」/中村佳穂

YouTubeの概要欄を広げれば隙のないクレジットの膨大な情報量に唖然とし、目を閉じると中村佳穂と石若駿の孤独でドラマチックな対話に息を飲む。壮大なシンセサイザーの和音、沈黙、再びの和音と泣き笑いと呼吸音の透明さをそのまま結晶化させた歌声が火蓋を切る切迫感。クライマックスまで煽り続けるベースの波間で、平面的に見える信号の点滅にも陰影と浮き沈みがあることを気づかせるパーカッシブな音の群れ。こんなにも複雑怪奇かつ斬新な構造の音像が、滑らかでカラフルなモザイクを幻視させるポップソングとして速度を落とさず流れていく時代であるということに幸福感を禁じ得ない。

「What goes on」(’69)
/The Velvet Underground

「What Goes On」収録アルバム『The Velvet Underground』/The Velvet Underground

「What Goes On」収録アルバム『The Velvet Underground』/The Velvet Underground

まん延防止等重点措置が実施される前の昨年12月、何の気なしに遠征した札幌ベッシーホールというライヴハウスのイベントのアンコールで披露されたこの曲のカバーが本当に、本当に、本当に、素晴らしく! 内省的な歌詞で静謐さとけたたましい予感に満ちたサイケデリックロックが足元を狂わせる原曲がこうも真夏の太陽が如く眩く輝くとは! まずドンマツオ (ズボンズ)とヤマジカズヒデ (dip)という取り合わせにハズレがあるはずもないのだが、NOT SUNCHILDSという20歳そこそこの若手オルタナバンドが遠慮も照れも畏れもなく、ふたりを相手にキラキラばちばち拮抗する開放感が最高だったことを文章で記しておきたい。だって音声や動画はなく、全てはあの日あの場所にいた人々の心の中にしかないから。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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