L’Arc〜en〜CielのHYDEが、
バンドとは異なるスタンスで
自らのアーティスト性を掘り下げた
ソロ作『ROENTGEN』
HYDEらしいポップセンス
本稿冒頭で収録曲を指して“バンドアレンジが可能である印象を抱いた”と書いたが、筆者がそう感じたのはそのポップセンス、とりわけ歌が大衆的であることに起因しているのだと思う。誤解を恐れずに言うと、やはりそのメロディはロック的に感じる。だからこそ、個人的にはバンドアレンジが最適であるように思えたし、逆に言えば、それを従前のサウンドに仕上げなかったところに、HYDEというアーティストの非凡さがあるとも言える。大衆的でありつつもそこに甘んじることなく、ソロとなってストイックに新たな可能性を模索した作品。『ROENTGEN』とはそういうアルバムであるという見方もできるだろうか。
HYDEの大衆性は歌詞からも伺えることを最後に記しておきたい。のちにオール英語詞でありアジア各国で発売された『ROENTGEN english version』や、その日本盤である『ROENTGEN.english』が発表されたことからすると、それに先駆けて日本語詞の楽曲を収録している本作そのものがユーザーフレンドリーと言えるが、そこで描かれた世界観も決して難解なものではない。
《This scenery is evergreen/可哀想にうつむいている/悲しい瞳を/ぬぐってあげたいのに》《近づく終わりに/言葉ひとつ言い出せない/This scenery is evergreen/愛しい人よ》(M3「EVERGREEN」)。
《浅い眠り淡く揺られ/あの日のように無邪気な君が/両手にあふれる安息を優しく奏で/そばにいる夢を見た》《窓の向こう風に吹かれ/切り取られた見慣れた街へ/駆け出して行く想いは何処かで君に/会えるような予感がして》(M6「SHALLOW SLEEP」)。
《何処まで遠くへ/離れて行こうと/心は奪えない》《遥かな青空/遥かなあなたを/心は忘れない》(M10「SECRET LETTERS」)。
内向的ではあるようだが、丁寧に言葉を紡ぎながら、心情を吐露していたり、気持ちを前向きに転化にさせようとしている様子が伺える。そこには、リスナーに本作の世界観──ひいては、自身の創作物の意図するところをしっかりと受け取ってほしいとする気持ちがあること言うまでもなかろう。その辺で、『ROENTGEN』はHYDEというアーティストのキャラクターが感じられるアルバムでもある。
TEXT:帆苅智之