TRUMP流「人間愛奇劇」開幕!ミュー
ジカル『ヴェラキッカ』ゲネプロレポ
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末満健一が手掛ける<TRUMPシリーズ>の最新作、ミュージカル『ヴェラキッカ』が2022年1月15日(土)、東京・東京建物 Brillia HALLで開幕。同劇場で1月23日(日)まで上演され、2月2日(水)から6日(日)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホールにて上演される。開幕に先駆け、マスコミ向けの公開ゲネプロが行われた。

<TRUMPシリーズ>とは、劇作家・末満健一が2009年より展開する演劇オリジナルシリーズ作。吸血種と人間種が共存する社会で、不死を失った吸血種《ヴァンプ》たちが、永遠の命を持つとされる吸血種《トランプ》の不死伝説に翻弄されていく様を描く。
その最新作となるミュージカル『ヴェラキッカ』は、作・演出を末満健一が、音楽を和田俊輔が手掛け、美弥るりか、松下優也、古屋敬多、愛加あゆ、大久保祥太郎、斎藤瑠希、西野誠、宮川浩、平野綾らが出演する。シリーズにこれまで登場していないキャラクターたちの物語を描いており、初めて観る人も楽しみやすい作品となっている。
上演時間は【1幕80分/休憩20分/2幕75分(計 175 分)】。
※以下、内容についてのネタバレがあります。ご注意ください。
今作の物語の舞台となるのは、名門貴族ヴェラキッカ家の屋敷。ヴェラキッカ家はひとつの街を所有しており、その荘園は血盟議会(吸血種の最高統治機関)の支配から距離を置いた、いわば独立国家として存在している。
そのヴェラキッカ家の当主はノラ(美弥るりか)。遠縁の親戚であるシオン(松下優也)、異母弟のカイ(古屋敬多)、シオンの妹ジョー(愛加あゆ)、家庭教師のロビン(宮川浩)、執事のウィンター(西野誠)、クレイ(大久保祥太郎)、マギー(斎藤瑠希)をはじめとする養子たちに囲まれて暮らしている。そこに新しい養子としてキャンディ(平野綾)が迎えられるところから、この物語は始まる。
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ヴェラキッカ家にあるたったひとつの家訓は「ノラを愛すること」。屋敷で暮らす吸血種たちは誰もがノラを愛し、ノラはその愛を一身に受ける。ノラが言葉を発すると皆がうっとりと耳を傾け、ノラに褒められたくて勉学や職務に励み、ノラを崇める。それは異様でありながら、どこかしあわせな光景にも映った。
そんなノラに反発しているのは異母弟のカイ。次々と養子を迎えることや、ノラを愛するという家訓に異論を唱えながらも、なおかつ弟という立場にあることを理解しながらも、ノラに心惹かれてしまい苛立つカイを、古谷が真っ直ぐに演じる。
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ミュージカル『ヴェラキッカ』
幼い頃に両親を亡くし、遠縁のヴェラキッカ家に引き取られて以来、幼馴染としてノラを愛するジョーを演じるのは、このTRUMPシリーズではお馴染みの愛加。誰よりもフラットで、だからこそ重要な存在となるジョーを生き生きと演じ、そして複雑な和田の音楽をのびのびと歌いこなす姿は見ていて気持ちがいい。
ノラが子供の頃から屋敷に務めており、今は養子になりヴェラキッカ家の一員として繭期の養子たちに勉強を教える家庭教師ロビンを演じるのは宮川。ロビンがこの屋敷で見てきたもの、心の奥に抱えるものを宮川はその歌唱力、表現力でそっと滲ませる。
ロビン同様、昔からこの屋敷に務め今は養子でもある執事のウィンターを演じるのは西野。ウィンターは「繭期よりもヤバい大人」と言われるキャラクターだが、どこかコミカルで、ひぃ……と引きながらも目で追わずにはいられない強烈さだ。ちなみに西野は本作で歌唱指導も担っている。
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ミュージカル『ヴェラキッカ』
繭期(人間でいう思春期。症状は人間より強い)の養子たちクレイとマギーを演じるのは、大久保と斎藤。大久保はTRUMPシリーズ最多出演だが、同じ世界線で毎回違うキャラクターを演じる、ということをやってのけている。今回も繭期という不安定な精神状態の中でノラを愛するクレイをしっかりと演じている。その大久保と共にマギーを演じる斎藤は、昨年公開のディズニーの最新作『ミラベルと魔法だらけの家』でヒロイン・ミラベルの日本語吹替声優に抜擢された新星。大久保と共にニコイチのように演じるマギーの愛らしさと、その歌唱力にもぜひ注目してほしい。
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ミュージカル『ヴェラキッカ』
そんな彼らをいつも一歩引いたところから見つめているのが、松下演じるシオン。シオンが抱えているものはなかなか表には出ないが、歌声に、ふるまいに、静かに込められ、心に流れ込んでくるようだった。だからこそふと漏れる言葉がグッと刺さる。“TRUMP流「人間愛奇劇」”を謳った本作のキーはここにあるのではないかと思われる役柄を松下が好演している。
長く守られてきたこの屋敷の秘密がとけるきっかけとなる存在・キャンディを演じるのは平野。なにもわからないままヴェラキッカ家にやってきて、なにもわからないままノラに惹かれるキャンディ。そこにある違和感のようなものを纏いながら、けれどこの大きな物語に巻き込まれていく様、そしてそこにある真実も繊細にみせてくれる。
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ミュージカル『ヴェラキッカ』
その中心にいるのは当然、美弥演じるノラだ。圧倒的なオーラを纏う、一言でいえばスター。頭の先から爪の先まで輝きが溢れている。語る言葉も、歌唱も、登場する度に変わる衣裳も、きっと客席にいる我々と、舞台上にいる養子たちの気持ちは同じなのだろうと思わせるほど強烈に惹きつける。そういうノラを、けれどどこか引っかかるものを残しながら演じていく美弥。その理由はもちろん物語の中で明らかになるのだが、その答え合わせが終えてもなお、それで終わらせないような芝居が印象的だった。
ミュージカル『ヴェラキッカ』
ミュージカル『ヴェラキッカ』
TRUMP解体新書のインタビューで末満が「題材はコンゲームではないけれど、作品と観客の間にはコンゲームのような関係性が発生するような作品」と話したが、たしかに、掴めたと思ったら掴めていなかったと気付かされる、その繰り返しのような展開で、末満作品ならではの楽しさが味わえる。けれどカーテンコールを終えた頃に心にあるのは、その楽しさとはまた違うものになるのではないかと思う。
また音楽は、TRUMPシリーズの多くの音楽を手がけている和田が今回も担当。シリーズでミュージカルを上演するのは『マリーゴールド』(’ 18年)以来2作目となるが、今作でも、和田節ともいえる独特で魅力的な音楽が次々と奏でられ、それを実力の備わった俳優たちがしっかりとそれぞれの想いとして聴かせてくれる。
舞台美術も、衣裳も、照明も、とにかくすべてが美しく、見どころは多い。ストーリーの面でも、一度観ると、もう一度観たくなることは請け合いなので、気になっている人はぜひ早めに観劇してほしい。
取材・文=中川實穗 撮影=遠山高広(オフィシャル提供)

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