たなか、ササノマリイ、Ichika Nito
からなる新バンド・Diosが1stワンマ
ンライブ開催 何かとんでもないこと
が始まっている予感が現実に変わった

DAWN

2021.12.23 SHIBUYA WWWX
クリスマス・イブイブの夜に渋谷でDiosを観る。Diosとは、元・ぼくのりりっくのぼうよみとして知られる「たなか」、サウンドクリエイターの「ササノマリイ」、ギタリスト「Ichika Nito」のトリオで、ラップ、ダンスミュージック、ロック、アニメ、ゲームなどそれぞれの属するカルチャーをクロスオーバーする、実験的かつポップな音楽をクリエイトするニューバンド。チケットは完売で、急きょ配信も用意された。Diosとは一体どんなバンドか? 記念すべき1stワンマンライブの幕が開く。
たなか
ササノがキックする骨太なヒップホップビートに、Ichikaが饒舌なフュージョン風のエレクトリックギターを乗せ、たなかがリズミックなポエトリーのように言葉を吐き出す、1曲目は「劇場」。ササノのメランコリックなピアノとIchikaの超絶技巧タッピングが印象的なミドルチューンで、たなかの吐く言葉は彼らしい毒と冷笑を含みつつ、あくまで力強い言葉でDiosという新しい季節の始まりを告げる。実にスリリングなオープニングだ。
「ようこそ、Dios初ワンマンライブ『DAWN』へ。みんなの顔を見れてうれしいし、『DAWN』を楽しんでくれればもっとうれしいです。このステージからもっと遠くの、誰も知らない場所へ、この3人と、みんなと一緒に行ければ最高だなと思ってます」
Ichika Nito
たなかのMCは、予想を超えて率直で真摯なものだった。続く「逃避行」は2021年3月に配信されたDiosの初リリース曲で、陰影の濃いリズム、ササノの流麗なピアノ、Ichikaのロッキッシュな歪みギター、官能的な男女の恋愛物語を鮮やかに描くたなかのワードが混然一体となって押し寄せる。そして未リリース曲「試作機」では、すさまじい重低音のベースラインと、Ichikaのクールでミニマルなリフが絡み合って空間がびりびり震える。Diosの持つ実験性と肉体性が絶妙なバランスを保つ、プログレッシブなダンスミュージックだ。
「Diosをやりたいと思ったきっかけは、一人じゃ届かない部分に、気心知れた仲間の二人と一緒に、長い時間をかけて関係を構築して、音楽を作っていくことで、未知の領域に届きたいという希望があったから。自分たちの作った音楽を人前で披露できて本当に良かったと思ってます」(Ichika)
「バンドでここに立てるとは思ってなかったので、本当にうれしいし、自分で歌うだけでは表せない世界ができるようになってきたなと最近強く思っていて、感謝しかないです。すごく緊張してるけど、楽しくて、この震えはどっちなの?っていう感じです」(ササノ)
ササノマリイ
「ぼくりり、たなかの流れで来てくれた人は、この二人の本当のすごさに気づいてないかもしれないので、それを聴いてもらう時間にしようと思います――」。たなかの紹介で始まった「セッション」コーナーは、Ichikaが華麗な指使いと驚異的なタッピングを駆使してクラシカルな旋律を紡ぎ出すパートに、ササノがビートとピアノを重ね、たなかが英語詞による美しいメロディを歌う、曲は未リリース曲の「The room」。Ichikaとたなかの繊細な感受性が生み出した、讃美歌のようにも聴こえるメロディアスなチルアウトミュージック。
ピアノとギターで紡ぐ広がりある空間の中で、たなかが意味を持たない自由奔放なスキャットを披露するインプロビゼーション音楽に続き、Ichikaの強烈な歪みギターが導く「いのち」へとつなげる、あまりにも濃密でスムーズな流れに、オーディエンスはただ体を揺らして音の海に浸るのみ。ファルセット音域を駆使した演劇的なたなかの歌は、続く「鬼よ」でも強いインパクトを持って迫り来る。激しい身振り手振りを交えたパフォーマンスからも目が離せない。Diosの持つ実験性やアート性が存分に発揮された、極めて緊張度の高い音楽だ。
たなか
「音楽はいろんなものでできているけど、自分にとって一番こだわりが強いのは歌詞。曲を聴いている間は、その言葉は確かにそこにあるし、現実と音楽の境を超えることができる、それが自分にとっては一番楽しい。そして音楽に形はないけれど、居場所になりうると思ってます。Diosの曲がみんなの居場所になれたらすごくうれしいです」
もともとはIchikaの曲にたなかが歌詞を乗せたという「Misery」は、クールなヒップホップトラックとミニマルなギターリフの繰り返しに、激情を抑制したたなかのボーカルがそっと寄り添う。逆に「ダークルーム」は、流れるような指使いのギターから始まり、じわじわとロック的な熱情を帯びてゆく曲で、歌詞に込めた極端に内省的な衝動と、毒々しく真っ赤に染まったライティングがよく似合う。つらいことばかりの現実から逃げ出し、ダークルームに閉じこもった二人の結末は? 怖さと美しさが相半ばする、たなかの世界観が色濃く出た1曲だ。
Ichika Nito
「リリースが5曲しかないのによくワンマンライブをやろうと思ったよね」と、Ichikaが笑う。「今日のライブは短いけど、頑張ってアルバム作ってます」と、たなかが応える。「3人でああだこうだ作っていくと本当にいい形になるよね」と、ササノが言う。バンドは音楽性と人間性とが絡み合い成長していくものだが、この3人は実に“合ってる”。「一人の時より楽しくて、(ステージに)出る前も不安じゃない」とたなかが笑う。3年前、ぼくりりの活動終了直前にこの会場で見た彼の姿をふと思い出す。あの時とはまったく違う、肯定的な空気がステージから流れ出して見える。
MCで来たるべきアルバムへの展望を語ったあと、おそらくアルバムに収録されるだろう新曲「Virtual Castle」は、これまでにない強力な四つ打ちのEDMチューン。ササノのルーツを思わせるエレクトロなボカロ曲風の要素をたっぷりとはらみ、どこか和風もしくはオリエンタルなメロディが魅力的だ。ササノがクラップを求めてフロアを煽り、Ichikaのギターがうなりをあげ、たなかがエモーションいっぱいのボーカルで挑発する。「初めてのDiosを、『DAWN』というライブを目に焼き付けて帰ってもらえればいいなと思います」――この日のラストチューン「紙飛行機」は、トラップ風のビートに、中間部にジャズっぽい展開を含む曲調に、未来への希望と墜落の危険を乗せて飛ぶ紙飛行機の運命を託した1曲。明日はどっちだ?
ササノマリイ
おそらく現時点で演奏可能な楽曲をすべて吐き出し、70分で駆け抜けた1stワンマン。特筆すべきは、カリスマティックなオーラを放つたなかの演劇性の高いパフォーマンスに、真っ向から向かい合うIchika Nitoの饒舌なギターと超絶技巧。ササノマリイのトラックとキーボードは、二人が寄って立つ土台の役割だ。何かとんでもないことが始まっている予感が現実に変わった、12月23日の渋谷の夜。3人の思いを乗せたニューバンドは一体どこまで遠く飛んでゆくのか? Diosの2022年はもう始まっている。

取材・文=宮本英夫 撮影=Yukitaka Amemiya

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