過去・現在・未来をクリエイティブに
繋ぐ、時空を超えて出現したTM NETW
ORKという音楽を楽しもう

『How Do You Crash It? two』 2021.12.11
『How Do You Crash It? one』から2か月の間隔をおいて、2021年12月11日21時から『How Do You Crash It? two』の配信がスタートした。『How Do You Crash It? one』の残像がまだ鮮明に残る中での2作目ということになる。次はどんな展開になるのか。胸を躍らせて待つ時間も今回の再起動の楽しみのひとつと言えそうだ。
『How Do You Crash It? two』を観て感じたのは小室哲哉宇都宮隆木根尚登という3人の奏でる現在の音楽の魅力だった。ノスタルジックなムードはまったくない。過去と現在と未来をクリエイティブに繋いでいく姿勢を強く感じた。“3人の今”がそのまま音楽に刻まれていた。
美しくて壮大でロマンティックなオープニングだった。宇都宮の伸びやかな歌声、小室の優美なシンセサイザー、木根の体温のあるアコースティックギター。3人の歌と演奏が宇宙船の船内のように見える近未来的な空間の中でやわらかく融合していく。画面越しではあるのだが、3人の奏でる音に包み込まれていくような感覚を味わった。オーケストレーションの壮大さとパーソナルな息づかいとが共存するサウンドの中でたゆたうのは気持ちいい体験だ。
TM NETWORK 撮影=関口佳代
前半はTM NETWORKの叙情的な魅力を堪能できるナンバーが続く構成だ。印象的な場面がたくさんあった。クラッシックの有名な曲のフレーズが引用されている楽曲では、小室のシンセサイザーと木根の12弦ギターのユニゾンでのイントロから、せつない歌の世界に引きこまれた。宇都宮のボーカルに木根と小室のハーモニーが加わっていく。三角形のLEDが宙に浮く中での演奏。サウンドと照明と演出とが一体となって、純度の高い世界を出現させていく。
冬の名曲が2曲続く展開は感動的だった。時空を超えて出現したTM NETWORKが2021年の冬に確かに存在していることを示していると感じたからだ。1980年代や90年代の冬と2021年の冬とが交錯していく。オリジナルの持っているみずみずしさに長い時間が経過したからの深い味わいが加わっていた。3人が丹念に音を紡いでいく。喪失感と一体感という相反する要素が表裏一体で描かれていると感じた。このライブ映像を夜の時間帯に鑑賞したならば、窓から見える夜空と彼らが演奏している空間とが繋がっていると実感することができるのではないだろうか。
「分断」というテーマが曲間で流された映像で提示される場面もあった。「分断」という言葉は個々の人間関係からグローバルなレベルでの国同士の関係まで、さまざまな局面に当てはまる言葉だろう。コロナ禍の今もまさに目に見えない壁によって人と人とが分断されている状態と言えなくもない。個人的であると同時に、今日的なテーマにアプローチしていくところもTM NETWORKならではだろう。
小室哲哉 撮影=伊藤睦美
中盤の聴きどころとなったのはこれまでのTM NETWORKのライブで展開されてきた「TK solo」だ。毎回、その瞬間にしかない音響芸術が生まれているのだが、今回は強い意志とエモーションが伝わってくるような演奏に胸を揺さぶられた。アルペジオとノイズをコラージュし、つまみをひねり、鍵盤を叩いていく。ギターに例えるならば、ライトハンド奏法に通じるようなフレージングも交えての演奏だ。機械音なのだが、人間的でもある不思議な世界が出現して後半へと突入。
前半が静だとすると、後半は動の魅力が軸となる構成となった。1曲1曲の存在感が際立っていながら、トータリティーを感じさせるのはどの曲も最新のアレンジ、最新の音色で、奏でられているからだろう。1980年代の曲から2010年代の曲までが、共鳴しあっていく。
2010年代に発表されたナンバーでは宇都宮の歌声に小室と木根がコーラスで加わっていたのだが、感情をほとばしらせるような開放感あふれる歌と演奏がダイレクトで届いてきた。ヒューマニティーを感じさせるテイストとクールな質感を備えたサウンドの対比の妙は2021年のTM NETWORKの魅力の一つと言えそうだ。
『How Do You Crash It? 』は3部作となるわけだが、彼らのレパートリーから考えると、選曲されるのはごく一部ということになる。『How Do You Crash It? two』も『How Do You Crash It? one』同様に意外性がありつつも、代表曲も交えつつ、そして物語のキーを握るようなナンバーも加わる練り上げられた選曲になっていた。
終盤では「LOVE TRAIN」も披露された。4つ打ちのデジタルビートに木根のエモーショナルなギターが加わったイントロから、宇都宮のボーカルが入って、一気に歌の世界観が広がっていく。ハウステイストのあるアレンジによって、スペイシーな雰囲気が漂っている。
シンボリックな映像をはさんで、物語をつないでいくキーを握っていると思われる曲が演奏されていく。TM NETWORKの音楽においてはメロディやリズムとともに、歌詞が重要な要素を担っていることを今回の再起動でも再確認した。1980年代、90年代に歌われていた内容が、時空を超えて、今のこの時期にもシンクロしている。TM NETWORKの奏でるメロディが精神に作用し、ビートが肉体を揺さぶり、そして歌詞がリスナーの想像力を刺激していく。
時空を超えて出現したTM NETWORKという音楽の乗り物に乗船して、一緒に音楽の旅を楽しむのはスリリングな体験だ。次はいよいよ完結篇だ。2022年2月、彼らはどんな景色を見せてくれるのか、どんな場所へと誘ってくれるのか。楽しみがさらに広がっていく。

取材・文=長谷川誠
TM NETWORK 撮影=高田真希子

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