11月24日@東京・Zepp DiverCity

11月24日@東京・Zepp DiverCity

THE PINBALLS、
活休前ラストライブの
レポートが到着

THE PINBALLSが、活動休止前のラストライブ『THE PINBALLS 15th Anniversary Oneman“Go Back to Zero”』を11月24日(水)に東京・Zepp DiverCityで開催した。

バンド結成15周年を迎えた今年7月、年内での活動休止を発表したTHE PINBALLS。2006年に地元・埼玉の幼なじみ同士で組んで以来、一度のメンバーチェンジもないまま切磋琢磨してきた4人だが、節目のタイミングで各々を見つめ直す期間が必要と考え、このたびの決断に至った。Zepp DiverCityでのメモリアルライブはまさに15年間の集大成となる。なお、チケットが即日ソールドアウトしたことを受け、同公演の模様は有観客開催に加えてオンラインでの生配信も実施。会場に来られなかった方を含め、多くのファンがさまざまな想いを胸に彼らの勇姿を見届けた。

開演時刻になり、場内が暗転。ステージ前方にかかった紗幕にオープニングムービーが映し出され、おなじみのSEであるThe Sonicsの「Have Love, Will Travel」ではなく「オブリビオン」のインストバージョンが流れる。そして、本日の“2021.11.24”まで数字が積み上がっていく中、オフィシャルのアーティスト写真、結成からの公演のデータなどによってこれまでの軌跡を約1分半で辿り終えると、すでに板付いた4人の姿が大きなシルエットでそびえ立つ。まぶしい陽が差し込むような「片目のウィリー」のイントロで外れる紗幕、スーツを纏い凛と構えるメンバー、バックドロップには“THE PINBALLS 15TH ANNIVERSARY ONEMAN GO BACK TO ZERO”の文字。もう後がないやつらのショウが始まった。

鋭さとやさしさを持ち合わせた声で歌う古川貴之(Vo&Gt)、それに呼応してサビの歌詞を口ずさんではフェンダージャガーを激しく掻き鳴らす中屋智裕(Gt)、ステージ前方にせり出し気持ちを解放してプレイする森下拓貴(Ba)、フロント3人が自由に躍動できるよう全体をクールに支える石原天(Dr)。始まってみれば、いつもと変わらない最高のロックンロールを奏でてくれる彼らがそこにいた。「ママに捧ぐ」「ヤードセールの元老」など、この日はインディーズ時代の楽曲もふんだんに披露。のっけから息もつかせぬテンションで、“ついてこいよ?”とばかりに爆音を撒き散らしながら突っ走る。これがTHE PINBALLSだ。1Fフロアは椅子が並べられた座席ありの仕様だったが、オーディエンスはもはや総立ちでZepp DiverCityを揺らす。

「今のための今を! 最高にかっこよく生きようぜ」と森下が呼びかけた「アダムの肋骨」までを駆け抜けた強烈なスタートダッシュに加え、石原がとてもいい表情でドラムを叩いているのが遠目でもよくわかり、序盤にして早くも伝説になりそうなライブの空気を感じる。古川も確かな手ごたえを覗かせつつ、「いつでも最後のステージのつもりでやってきました。だから、今日も最高のライブをします!」と宣誓。中屋の突き刺すようなストロークで始まった「ICE AGE」など、過去の名曲を再レコーディングした15周年メモリアルアルバム『ZERO TAKES』の収録曲もセットリストに組み込まれ、アッパーな展開はさらに続く。

古川の歌もバンドのグルーヴもマグマの如く灼熱で濃厚な「ニードルノット」、古川と森下のシャウトがスリリングかつ息ぴったりに交差する英詞曲「CRACK」、“戦うために生きよう”“焼き尽くしたいだけ”の歌詞が閃光のように生きるTHE PINBALLSの存在意義を指し示す「マーダーピールズ」。どの楽曲もイントロのギターリフから瞬く間に心を鷲掴みにされるものばかりで、この4人が音を出せば最高のアンサンブルが生まれるということをあらためて思い知る。モータウンビートに乗せて明るいメロディを放つ「SLOW TRAIN」でようやく少しホッとできた。

「活動休止前最後ということで、完全にハッピーな感じにできないのがゴメンなんだけど、今こうして歌っているときに心の底から幸せだなと思えてます。昔の俺は“やってやるぞ!”って気持ちばかりが先行してて、なかなかこうはなれなかったんですよね。気持ちよく歌を歌える、こんなに幸せな場所をくれたのは、メンバー3人とみなさんなので、本当にありがとうございます」と、古川は想いを整理するような感じで少しずつファンに伝えていく。

次のブロックは、夕陽をイメージさせるオレンジの光のもと届けた「DUSK」をはじめ、ミディアムテンポでじっくりと聴かせられる強みが際立つ展開に。「sugar sweet」あたりになると、ステージにほんのり焚かれたスモークの効果もあって、なんだか夢の中にいるみたいに心地よい。疾走感のあるロックンロールだけがTHE PINBALLSの魅力では決してなく、こうして温もりたっぷりのメロディを味わい深く響かせることもできる。また、ピンスポット的なライトを美しくクロスさせて塔の灯りを表現した「沈んだ塔」、巨大ミラーボールで星屑のような景色を生み出すとともにZepp DiverCityをダンスホールに変えた「ダンスパーティーの夜」など、バンドの演奏や楽曲をより豊かなものにする照明の演出も素晴らしかった。

バンドの15年の軌跡もナチュラルに感じられた中盤。「まぬけなドンキー」に続いて「いつでも好きな場所に行こうぜ!」という古川の粋な曲フリから披露された「way of 春風」は、これまでのすべてを肯定してくれる魔法のように鳴り響く。切なくやるせないタッチがありながら温かくも爽やかにも感じられるという、いつ聴いても不思議な楽曲だ。中屋も時折お立ち台に座りながら、とても気持ちよさそうにギターを弾いていた。そんな素直なナンバーを演奏したあと、古川の感情があふれ出す。

「ありがとうございます! 活動休止と付かなければ15周年のライブをもっとみんなに喜んでもらえたと思うんだけど、それでも今やっぱりすごく楽しいです。あと、この3人ががんばっているところは15年間ずっと見てきて……。決してサボるような人たちじゃないんですよ。「もうやめた」とかじゃない。諦めた気持ちでバンドをやめるわけではない。未来へ進むためにみんなで出した答えなので。それは言っておきたいです。本当によくやってたと思う。自分みたいなめちゃめちゃなヴォーカルについて来てくれてさ」。

涙をこらえ切れない様子で思いの丈を打ち明けた古川。「この最高な気持ちのステージで朝までずっと歌い続けたいという曲です」と紹介して始まったのは、「蜂の巣のバラード」だった。こんなにも素敵にドラマティックに、今の感情を楽曲へと、しかも清らかに乗せられるアーティストは果たしてどのくらいいるのだろう。「樫の木島の夜の唄」を含めてこのあたりのバラードはとりわけ叙情的で、古川の描くファンタジックな物語性やバンドのブリティッシュかつビンテージ感のあるロックサウンドなど、唯一無二の世界観が美しく極まっていた。

やはり切なさと希望を併せ持った「20世紀のメロディ」を聴いていても、まるでバンドの生きざまをそのまま歌っているかのようで、要は最後までこれでもかというくらいにTHE PINBALLSはTHE PINBALLSらしかった。古川が思わず涙声になってしまうMCも、感情表現がさほど上手くはないメンバーの性格なんかもそうで、逆にTHE PINBALLSらしくないところなどひとつたりともなく、そこに筋が一本しっかり通っていたことがたまらなく嬉しかったのだと。先述した古川の言葉にレスポンスをするならば、聴き手の立場からはそう書いておきたい。

そう考えたら、“未来へ進むため”という彼らの決断も信じたくなってくる。「今日はおもいっきり楽しもうね!」と古川が念を押すように笑って呼びかけた「重さのない虹」以降は、前半とは違ってまっさらな気持ちでライブを楽しめたファンも多かったのではないだろうか。石原の軽快なビートと中屋のゴキゲンなフレーズはミッシェル・ガン・エレファントの「ジェニー」を彷彿とさせる痛快さだし、「よっしゃ、ジャンプするぞ! 俺とどっちが高く飛べるか勝負じゃ!!」という古川のアジテートが興奮をまた加速させる。ステージ中央に集まってはしゃぐメンバーも楽しそう。

ライブ後半は再びアグレッシブに挑む。「最高のゼロに向かって突き進むぞー!」という森下の合図から切り込んだ「蝙蝠と聖レオンハルト」、ミラーボールが乱反射してよりソリッドに攻めた「ブロードウェイ」など、キャッチーで勢いのあるメロディを活かしたキラーチューンを連発! 「毒蛇のロックンロール」も痺れた。“おまえのゼンシンゼンレイが蛇”と妖しく不敵にブッ放せるくらい、THE PINBALLSはロックンロールに生きてきたということ。「劇場支配人のテーマ」では、超ド級の燦爛たる照明とともに過去イチのシャウト“アアイエエエエ!!”が豪快に轟く。

命を燃やすようなパフォーマンスの中、「バンドが終わってひとりで家に帰ってもさ、何も終わりじゃないからね。ありがとう。最初っからひとりじゃないってことを言いたかったんだよ」と届けられたのは、PINS随一の包容力を誇るナンバー「ひとりぼっちのジョージ」。a flood of circleもカバーした本当に素晴らしい楽曲が、太陽の光のように深いやさしさでオーディエンスを照らす。胸いっぱいな感じで「今日のことを忘れねえよ!」と叫ぶ古川。美しい記憶を回想しながら忘れたくないという想いで「ミリオンダラーベイビー」が演奏され、いよいよ終わりのときが近づいてきた。

「15年間どうもありがとうございました。俺はロックンロールをやれたかな? 好きでいてくれたみんなに、こいつらロックンロールだったと思ってもらえるような、心を込めた曲を歌いたいと思います」と古川。ステージ全体が眩い光に包まれ、重厚なアンサンブルが辺りに染みわたっていく。そんな渾身の「ニューイングランドの王たち」で本編は幕を閉じ、割れんばかりの拍手に送られて4人はステージを去っていった。

大きなアンコールに応えて、再登場したTHE PINBALLS。「重大事件が発覚したんですけど、石ちゃんが泣いてた」と観客に伝えた古川はどことなく嬉しそうで、「2ndアルバム(インディーズ時代の2ndミニアルバム『100 years on spaceship』)を録ったときに石ちゃんが泣いてくれたことを思い出したな」とも付け加え、「活動休止の日に言うのもおかしいんだけど、俺はぜんぜん諦めてないんですよ。みんなにもそうあってほしい。落ち込むときもあっていい。でも、明日はやろうぜっていうのを歌いたいんです」と「ワンダーソング」に繋げた。さらに、デビュー曲の「アンテナ」を今なお瑞々しくピュアに掻き鳴らし、獰猛なテンションで“振り返るな荒野をゆけ”と歌う「十匹の熊」を熱演。

そして、ダブルアンコールでは、いい思いで帰れるようにと「あなたが眠る惑星」。自分にもメンバーにも向けたのであろう「悔い残すなよ!!」という叫びから、最後の最後はロックバンドの刹那が詰まったような「真夏のシューメイカー」で締めた。終わりの瞬間までひたすらまっすぐにパワフルに、オーディエンスをグイグイ惹き込んで自分たちらしく楽しみ切ったTHE PINBALLS。ファンの気持ちに寄り添って希望もしっかり残した、活動休止前ラストながらも実に清々しいライブだったと思う。ここに来てベストライブを更新してしまうのだから恐れ入る。最高のロックンロールをありがとう。またいつか。
photo by 白石達也
text by 田山雄士

【終演後インタビュー】

Q.ライブを終えた今の率直な心境を一言お願いします。

古川貴之(Vo&Gt):ホッとしている感じですね。すごくたくさんの曲をやったし、いつもと違う感じのライブだったので。でも、がんばったおかげでとてもいいライブになったのかなと思ってます。今はいい気分です。

森下拓貴(Ba):いつもどおりの心境とは違うけれど、この4人と最高のチームで今まででいちばん楽しいライブができました。それがすごく嬉しいです。活動休止の実感はまだぜんぜんなくて、たぶん明日以降にじわじわと来るのかな。

石原天(Dr):15年間いっしょにやってきて、今日は3人の後ろ姿を見てたらね。すごく感極まって泣いちゃいました。いつかどこかでまた会えたらいいなと思います。僕もがんばりますので、みんなもがんばっていきましょう!

中屋智裕(Gt):こうして15周年のライブができたことがシンプルに嬉しいです。活動休止のことは公演中はあまり考えずにやれたし、こういう状況下でライブができて、すごい多くの人に支えられているんだなとあらためて実感しましたね。本当にありがとうございました。
■現在PIA LIVE STREAMINGでは本公演のアーカイブ映像が公開中。
チケット料金:アーカイブ¥2,500
※チケット購入者は12月1日23:59まで視聴可能。
【セットリスト】
01.片目のウィリー
02.ママに捧ぐ
03.ヤードセールの元老
04.アダムの肋骨
05.ICE AGE
06.ニードルノット
07.CRACK
08.マーダーピールズ
09.SLOW TRAIN
10.DUSK
11.sugar sweet
12.沈んだ塔
13.ダンスパーティーの夜
14.まぬけなドンキー
15.way of 春風
16.蜂の巣のバラード
17.樫の木島の夜の唄
18.20世紀のメロディ
19.重さのない虹
20.蝙蝠と聖レオンハルト
21.七転八倒のブルース
22.ブロードウェイ
23.毒蛇のロックンロール
24.carnival come
25.劇場支配人のテーマ
26.ひとりぼっちのジョージ
27.ミリオンダラーベイビー
28.ニューイングランドの王たち
<ENCORE 1>
01.ワンダーソング
02.アンテナ
03.十匹の熊
<ENCORE 2>
01.あなたが眠る惑星
02.真夏のシューメイカー
11月24日@東京・Zepp DiverCity
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OKMusic編集部

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