片岡愛之助インタビュー 十月花形歌
舞伎『GOEMON 石川五右衛門』赤毛の
五右衛門が大阪松竹座に再び!

天下の大泥棒の石川五右衛門が、実はスペイン人宣教師の血を引いていた……!? 
奇想天外な設定と「和」と「洋」のコラボにより好評を博した『GOEMON 石川五右衛門』が、2021年10月5日(火)より27日(水)にかけて、大阪松竹座の「十月花形歌舞伎」としてふたたび上演される。赤毛の石川五右衛門を勤めるのは、2011年の初演以来、5度目となる片岡愛之助だ。
共演は、五右衛門の父・神父カルデロンと霧隠才蔵の2役を勤める今井翼、出雲の阿国に中村壱太郎、加藤虎之助に中村種之助、石田局と名古屋山三の2役を上村吉弥、そして豊臣秀吉に中村鴈治郎。『GOEMON』の五右衛門について、フラメンコと歌舞伎の相性について、愛之助に聞いた。
■五右衛門らしく、GOEMONらしく
石川五右衛門といえば、月代(さかやき)が長くのびた百日鬘(ひゃくにちかつら)のイメージだ。本作の五右衛門も百日鬘ではあるが、髪色は赤。スペイン人と日本人の間に生まれた設定のキャラクターだ。
「初演の時、作・演出の水口一夫先生と相談しながら作らせていただきました。“歌舞伎で五右衛門をやるなら、この髪”というのは、決まり事です。ただ、この作品の五右衛門は、スペイン人の血が入っているという設定です。それならば、いつもの髪でありながら、黒い髪より金や赤の方が、より『らしく』見えるのではないか。スペインならば赤毛の方が、より『らしい』のではと考えました」
劇中では、五右衛門と名古屋山三が一触即発、出雲の阿国が割って止めに入る『鞘当』になぞらえた場面も。
「この鬘で赤毛は、今までになかったそうです。歌舞伎にそんな鬘はない、と言われたのですが、その常識の枠を外して作りましょうよ、とお願いして作っていただきました。床山さんも驚かれていました(笑)」
このアイデアで、五右衛門「らしさ」と同時に、スペインと日本のミックス「らしさ」を表した。「らしさ」には、歌舞伎だからこそのこだわりがある。
「歌舞伎において、『らしさ』はとても重要です。たとえば女方も、女性『らしさ』を強調して演じますね。お客様から『女方は、女性よりも女性らしい』とおっしゃっていただくことがありますが、その通りだと思います。女性の方は普通に振舞っていても女性に見えますが、私たち歌舞伎俳優の場合、女性の格好をするだけでは、ただ女装したおじさんになってしまいます(笑)。ですから、手を差し出す仕草も指を揃えて、袖は本来よりも丈を長くしていただき……今でいう“萌え袖”のような感じですね(笑)。すると手が細く、女性らしく見えます。歌舞伎では、『らしさ』を誇張することで、その役が舞台に出てきた瞬間、偉い人なのか悪い人なのか。町人なのか侍なのか。お客様に一目でお分かりいただけるようにするんです」
そして誕生したのが、赤毛の石川五右衛門なのだそう。一目でわかる五右衛門でありながら、今までの五右衛門にない個性で、愛之助による愛之助のための五右衛門となった。
「『らしさ』をお見せしつつ、いかに意識せず自然体でスペイン人の血が流れる五右衛門を演じられるか、ですね」
■同じ五右衛門、変わっていくお芝居
愛之助にとって、これほどくり返し勤めた役は、まだ他にないという。2019年には、通し狂言『金門五山桐』という別の作品でも石川五右衛門を勤めた。初演と今で、五右衛門というキャラクターのイメージに変化はあるのだろうか。
「基本的には同じです。ただ、前回から今回までの間に、舞台でも映像作品でも色々な経験をさせていただきました。そこで培ったもの一つ一つを自分の引き出しに入れ、それを踏まえて再び同じお役を勤めます。すると自分では同じように演じていても、お客様には違いを感じていただけるものだと思っています。いかに多くを引き出しに詰め込んだか、それをここで発揮できるかが、問われるのでしょうね」
これは、自分一人に限ったことではないと愛之助。
「翼君をはじめ、皆がそれぞれの引き出しに、新しい経験を詰めて、再び舞台に集まります。同じ心で演じていても、お客様にはきっと違って見えてくるものがあると思います。そうでないといけないとも思います」
今回3度目の出演となる今井とは、会見中から仲の良さを伺わせていた。
「翼君とは相思相愛です(笑)。初めてご一緒した時から今も変わらず、ストイックで真面目な方ですね。表現者として細やかな部分も、大胆な部分もお持ちです。役者として魅力的な方です」
■フラメンコと歌舞伎の相性は?
劇中ではフラメンコをライフワークとする今井だけでなく、歌舞伎俳優たちもフラメンコを披露する。フラメンコのシーンの振付は、フラメンコ舞踊家の佐藤浩希が担当し、出演もする。
「最初と比べ、フラメンコの振りは格段にむずかしくなっています! ですがお稽古は、厳しい指導のもとで特訓を……という雰囲気ではありません。私が、Olé! (オレ!)と上手く形を決められた時は、佐藤先生も笑顔で、Ole~!! って手をたたいて、すごく喜んでくださるんです。楽しんで挑戦させていただいています」
「フラメンコは、スペインの伝統的な舞踊です。魂の叫びからくる歌、大地を踏みしめる足踏みからくる踊りで、感情を爆発的に開放するものだそうです。やってみると、意外とフラメンコの歌と義太夫、フラメンコギターと三味線の相性がよく、義太夫狂言と相通じるところがある。それぞれに刻むリズムは違いますが、そこが面白いんです。歯車が合わなそうで合い、シンクロするところもあればしないところもある。はじめての時は『どうなるかな。やってみてダメならやめればいい』と挑戦したフラメンコギターと大薩摩の掛け合いも、思いのほか上手くいきました」
■アイデア出しは楽しいです
8月24日には製作発表会見が行われ、水口が「今回は上方歌舞伎の『GOEMON』をお見せしたい」と語っていた。これについて愛之助に思いを聞くと、「僕もあそこで初めて聞いたのですが」と笑いつつ次のように語った。
「上方歌舞伎は、人間の情を大切にします。親子の愛情、恋人同士の愛情、幼馴染同士の情。そのような情を、より押し出したものになるのではないでしょうか。台本が楽しみです」
その上で、宙づりのつづらから五右衛門が登場する『つづら抜け』や、「絶景かな、絶景かな」で知られる『山門』の場面は欠かせないと語る。
「『つづら抜け』と『山門』は、歌舞伎で五右衛門を勤めるときの決まり事です。そこはきっちりお見せしたいです」
感染症対策のため、通路での立廻りや客席の頭上を行く宙乗りなどの演出は変更を予定している。
「いつも通りの演出ができないことをマイナスと捉えてはいません。宙乗りは、舞台上でやるのでしょうね。それを、よりお楽しみいただける形にするには、どうしたらいいか。あらためて考える機会になっています。水口先生との打ち合わせから出たアイデアが、舞台で実現できるか。まだこれからですが、新たな場面も加わり、新しい『GOEMON』をお見せできると思います」
この時期特有の制約をものともせず、声を弾ませる愛之助。
「良い案が練り上がっていますよ。歌舞伎らしい演出といえるのではないでしょうか。どんな案かといいますと……それは劇場で観てのお楽しみです!」
■役の性根を掴み、日々挑戦する
今年5月、養父の片岡秀太郎が亡くなった。愛之助は会見で次のように語った。
「父は他界しましたが、いつも心の中にいます。毎日、仏壇で手を合わせる時にお話をさせていただくのですが、写真が何かを語りかけてくれてるような気分になります。その時々で、表情も変わってみえる気がするんです」
そんな秀太郎から教わり、歌舞伎俳優として大切にしていることの一つが「役の性根」だ。
「お役の性根を掴んだ上で、同じお芝居も、毎日どん欲に変えていく。私たちは台本を読んでいますから、相手の台詞を聞かなくても、次の台詞を言うことはできます。けれど『え!? そうなのか』という台詞の時に、相手の言葉を受けて『え!?』で、一度心を動かして驚き『そうなのか』で納得する。この単純な作業を怠ると、つまらない芝居になってしまいます。」
5回目の五右衛門となる愛之助。赤毛の五右衛門の性根は、どう捉えているのだろうか。
「大きさ、そして寛容さですね。強い権力に刃向かい、強きをくじき弱気を助ける。もちろん五右衛門ですから盗賊。その意味で悪人ではありますが、庶民の味方であることが魅力です。日々生きたお芝居をするためにも、お役の性根を掴み、『この人なら、この時にこうするかもしれない』と日々チャレンジして勤めてまいります」
十月花形歌舞伎『GOEMON 石川五右衛門』は、10月5日(火)より27日(水)まで大阪松竹座での公演。

<アイテム/プライス/ブランド/問い合わせ先>
ジャケット/¥31,900、パンツ/¥14,300(ともにクラウデッドクローゼット)、問い合わせ先/越谷レイクタウン店。その他スタイリスト私物。
Stylist:九(Yolken)
Hair:青木満寿子
Make:山崎潤子
取材・文・撮影=塚田史香

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