ハンバート ハンバート、デビュー20
周年記念盤『FOLK3』で誠に沁みるふ
たりならではの煮詰まらない軽やかさ

ハンバート ハンバートのルーツであるフォークソングなどのカバーやセルフカバー、そして新曲までをふたりきりの演奏で聴ける『FOLK』シリーズ。その第3弾であり、デビュー20周年記念盤でもある『FOLK3』が9月8日(水)にリリースされた。去年10月にオリジナルアルバム『愛のひみつ』もリリースされているが、改めて、ふたりきりという事に焦点を当てて、この約1年半に亘るコロナ禍での過ごし方について話を訊いている。自宅庭から自身で撮影するYouTubeライブ配信企画『庭Tube』や、閉園間近のとしまえんからの撮影スタッフによる本格的なライブ配信など、ソロやバンドにはないふたりだからこその強さを感じていた。何よりも我々の元にふたりの表現が届く時は、全てが軽やかに見えるのも素敵だった。煮詰まってもおかしくないこの御時世に、何故ここまで煮詰まらないのか、そんな話にもなっている。じっくりゆっくり話を訊いていく中で、創作の原点についても明かしてくれたインタビューを是非とも読んで頂きたい。
ーー先日、ハンバート ハンバートのライブを半年ぶりに観れたのですが、まずはライブが中々出来ない状況についてから教えて下さい。
佐野遊穂(以下、佐野):何か、もう本当に、こんなにやらないとさぁ、価値や重みが変わってくるよね。
佐藤良成(以下、佐藤):ライブ一回一回の重みが大きくなるよね。この一回で(観客に)何か持って帰ってもらおうという気持ちになる。良い事でもあるよね。お互い凄く大事になっている。
佐野:あと、この前も思ったけど、出る瞬間にマスクを外しても良いのかなと思っちゃう。
佐藤:あまり俺は気にしてなかったかな。
ハンバート ハンバート
ーー確かに普段は、ずっとマスクをしていますから、家以外で外しても良い時間は不思議ですよね。それと先日思ったのは、普段から演奏するまでのふたりのお喋りの時間が好きなんですけど、先日は長かったなと思ったんです。
佐藤:長かったね! 手の内を明かすと、色々考慮して平日なのに18時スタートになってるけど、やはり来づらいし、来てからもお酒もないし、だからMAXで喋って繋げたらなと。その間に来れる人もいるしね。でも、気が付いたら15分も経ってたけど(笑)。
ーー僕は御本人たちのライブの前説を御本人たちがしてくれる感じが普段からあるので、長めの前説を聞けて嬉しかったです(笑)。
佐野:自分たちもリラックスできるしね。
佐藤:いきなり曲から始められなくて。暗い状態で(ステージに)スタンバイして、いきなりジャーンと始まるというのを何回かしたけど失敗して。
佐野:あれやりたいんだけどね。
佐藤:色々と始まり方を探している内に、まさか歌から始まらないという(笑)。でも、他の人はやっていなしね。
佐野:喋っていると声出しにもなるしね。
佐藤:俺は最初に仕掛けてハッとさせたくて。でも、そのハッとさせ方が出来ない。ジャーンと鳴らしたくても、バイーンとなる(笑)。
佐野:向いてないよね(笑)。最初に喋りから始めたのは、フェスの時とかだったかな。
佐藤:俺が考えたのか、当時の社長が考えたのか覚えてないけど、ちょこちょこ改良を加えていってできた感じだよね。1回、俺だけ最初に出て行って喋っていたら、遊穂が「いい加減にしなさいよ!」と言いながら出てくるのも試したよね。
佐野:ちょっと違ったよね。出ていくタイミングを計るのが難しくて。
佐藤:俺もひとりで喋っているのは疲れるし。
佐野:プレッシャーがあるやり方だったよね。
ハンバート ハンバート
ーー今や、そんなふたりで喋りながら歌っていくやり方はYouTubeでも観れますよね。去年のコロナ禍によるステイホームの時期からされていますが、お家の庭でやっているというのが凄く良くて。
佐藤:あれは偶然上手くいったよね。
佐野:人によっては部屋の白壁をバックに歌っていた時期ですけど、それは閉塞感があって。
佐藤:本当のステイホームの時で部屋からは中々出られなかったしね。
佐野:外でも良さそうな場所を探してみたけど、外だと音も入るし。
佐藤:そしたら、マネージャーから「家の庭だったら?」と言われて。家の中でも階段の前とか和室とかも色々やってみた上で、庭で色々な画角で撮ってみて、マネージャーに送って観てもらったんですよ。
佐野:庭だから近所の人にも聴こえてるとは思うけど。
佐藤:特に何の許可も取ってないけど、今のところ、誰にも何も言われてなくて。隣の人には、「佐藤さん、僕も加川良が大好きなんですよ。頑張って!」と言われた(笑)。後は、向かいの小学生が「何やってんの~!?」と!
佐野:その時は撮り直したよね(笑)。ウチの子供が「ただいまー!」と帰ってくる事もあるし、近所のおばさんの立ち話もあるよね!
佐藤:母親には御近所に菓子折りを持っていきなさいと言われた(笑)。
ーー今はマンション暮らしが多くて、隣近所との付き合いも無くなってきている中、昭和の時みたいな良い御近所付き合いですよね。
佐野:本当に御近所の人にマヨネーズ借りた時とかあるもんね。隣の人が「雨降ってきましたよー!」とか教えてくれる事もあるし。庭でやってるのも、たまに御近所の人に会うと言われるくらい。
佐藤:ライブが出来ない時期だったから、あれはリハビリになりました。ライブをやっている感じに近かったし。スマホをピッと押して、ピッと押し終わるまで、基本ノーカットだから鍛えられましたよ。レコーディングも緊張するけど、何回もやれますから。
佐野:コメントも付けてくれるしね。
佐藤:まぁ、みんなひとりでしか出来ない時に、俺らは元々ふたりだから、ふたりで出来たのは有利だったよ。
ハンバート ハンバート
ーーそして、今回のアルバムにも初回限定盤で収録されていますが、去年の夏に閉園間近のとしまえんで配信ライブをされましたよね。ふたりきりのライブでしたから、庭からの続きを観れているようで嬉しかったです。
佐野:緊張したね。
佐藤:『庭Tube』(庭でのYouTube配信)で鍛えられているとはいえね。お客さんが帰られてから、準備したんだけど、スタッフみんな目血走って駆けずり回っていたな。夜のとしまえんは綺麗だったけどね。
佐野:『庭Tube』とは全然違ったよね。
佐藤:尺も違うし。
佐野:ライブは聴いてくれる人が反応してくれて成立するから。『庭Tube』は配信とはいえ、家だからね。
佐藤:話が弾まなくて困るとかはないから、家だと。
ーーなるほど、そういう細かい違いがあるんですね。今回のアルバムはふたりきりで演奏する『FOLK』シリーズなので、この1年半くらいの集大成を聴けた感じがしました。このシリーズはカバー曲も聴きどころのひとつですが、どうやって選曲は決められましたか?
佐藤:スタッフも含めて案を出し合って、トライしてみて絞っていく感じかな。
佐野:「今夜はブギー・バック」は早くから決まっていたよね。前からライブでやっていたし。
佐藤:「どうにかなるさ」は俺で、「愛のさざなみ」のバンジョーのアイデアはマネージャーかな。『FOLK』と『FOLK2』で、いわゆるフォークのカバーは出し尽くしていて。元々、フォークカバーと90年代J‐POPカバーを入れるというのは、当時の社長が考えたフォーマットですね。今回はコロナ禍でライブが出来なかったので、どんどん曲が出来ちゃって、新曲が2曲も入っている。いっぱい新曲を作っちゃったんだよね。
佐野:どれを選ぶかという感じだったよね。
ハンバート ハンバート
ーーコロナ禍で煮詰まる人もいる中、庭でのYouTube配信も含め、軽やかに乗り越えている感じがします。
佐藤:全く煮詰まらない。
佐野:元々、出不精だからね。
佐藤:それはあるかも。外に出かけられなくても、そんなに生活スタイルは変わらないから。
佐野:ただ、ライブがないとスタッフには会えなかった。
佐藤:外に出かけなくても生きてはいけるけど、人に会わないというのはね……。人とダラダラ喋ってるとアイデアが出てくるから。
佐野:人と会えないというのはどうしようもないけど、その中でも無駄を作っていかないとね。人と喋ったりして、削ぎ落すの逆をいかないとね。
佐藤:贅肉をつけていかないと。
佐野:コミュニケーションは必要だから。
佐藤:無駄話をずっとしてるから、MCのスキルが上がる(笑)。
ーーいやぁ、やはり、この煮詰まり無さ加減が凄いんですよね。
佐野:「歌詞なんて書けない!」にもなってないよね?
佐藤:何年かおきになるやつね。なってないなぁ。
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ーー歌詞が書けなくて、人に頼む方もいますからね。
佐藤:人に頼むより、自分でやった方がはやいから。遊穂に頼んでも一向に出来上がってこないから!
佐野:そうだね(笑)。
佐藤:言葉と抑揚が合わないと気持ち悪いから、自分で作っちゃう。この間、宮崎美子さんの歌詞に曲をつけたんだけど、ああいうのは良かったね。先に歌詞があるのは良かったね。俺は先に曲を作っちゃうから。
佐野:曲と語数が合えば一致すりゃ良いというもんじゃないしね。
佐藤:「先に曲からなの?」と驚かれる事もあるけど、言葉が先には出てこない。何のメッセージも別にないから。
佐野:でも、曲があると(歌詞が)開くんだよね?
佐藤:俺はメロディーを作るのは、何の苦にもならないから。俺はメロディーなんでしょうね。高校の時に曲を作り始めたんだけど、自分の歌が下手だと思っていて。でも、(世の中には)歌が下手でも良い曲はあるから、それくらいの曲を作れば、俺の歌でもいけるのかなと。むっちゃポップな曲を作ったら、俺の歌でもいけると思って、バンドを始めて1回合わせてみたら、当時のメンバーみんなに「遊穂が歌った方が良い」と言われて。当時のベースにも「お前は曲だけ作っていればいい!」と言われたし(笑)。
ーー良成さんがメロディーを強くしたら自分の歌でもいけるかもと思っていたのは、遊穂さんは知っておられたんですか?
佐野:初めて聞いたかも。今は歌詞も短い時間でも作るもんね。
佐藤:今はメロディーから歌詞を書くのもスムーズになってきたね。ある時から歌詞が早くなっている。20年前は人生経験もないし、こんな事が歌になるなんていう逆転の発想もないから。フラれて辛いしかなくて、ずーっと、そんな歌しかないから、すぐネタが尽きていました。でも、子供が生まれたり、震災があったり、スタッフが亡くなったり、コロナで苦しかったり……、人の事を想像が出来るようになったら、自分以外の主人公の事を想像が出来るようになった。俺が苦しいしか無かったのが、今は色んな主人公を書いてみて成長させている。だから、どんどん苦労しなくなる………いや、それは嘘だ! まだ、歌詞を考えている時にヤバい目してるでしょ?!
佐野:してる! してる!
佐藤:ハハハ(笑)。歌詞作りもライブも無我夢中だからね。
ーー未だにヤバい目をして無我夢中にされているのに、僕らには軽やかに見えるというのが素敵ですし、だからこそ信頼が出来るんだなと改めて想いました。本当に今日はゆっくりじっくり話が聴けて嬉しかったです。ありがとうございました。
ハンバート ハンバート
取材・文=鈴木淳史 撮影=渡邊一生

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