NEEはいかにして「いままで誰も聴い
たことのない音楽」を生み出すのか 
メジャーデビューアルバム『NEE』を
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心踊る冒険心、終わらない文化祭、ピュアな実験精神ーーNEEが9月1日にリリースするメジャーデビューアルバム『NEE』には、そんな心踊る言葉がよく似合う。

2017年に結成され、「エキゾチック・ロックバンド」を自称する彼らが、16曲入りというフルボリュームで完成させた今作には、インディーズ時代に発表した「歩く花」「九鬼」「不革命前夜」などの人気曲をあますことなく収録。文字通り、バンドの名刺代わりの1枚になった。ロックを軸に雑多なジャンルを縦断する、たしかな演奏力に加えて、鋭利で歪なシンセサウンドを大胆かつユニークに取り入れたハイセンスな楽曲たちは、圧倒的なオリジナリティをもっている。
彼らはいかにして、この「いままで誰も聴いたことのない音楽」を生み出したのか。その成り立ちについて訊いた以下インタビューでは、今後、音楽シーンを席捲してゆくであろう底知れないポテンシャルを秘めながら、まさに「冒険」のようにバンドを全力で楽しむ4人の姿があった。
――昨年8月に公開された「不革命前夜」が、なんと1000万回再生を突破しましたね。昨年末の時点では約600万でしたけど、ぐんぐん伸びていって。
くぅ(Vo/Gt):勢いが止まらなかったですね。
――この現象はどう受け止めていますか?
夕日(Gt):ビビってます。500万ぐらいから、「もう伸びんでいいわ」ぐらいの感じでしたね(笑)。
――「伸びんでいいわ」(笑)。
夕日:めちゃめちゃうれしかったですけどね。
大樹(Dr):逆に不安が多いですね、ネガティブなので(笑)。
――「不革命前夜」は、作ったときから他の曲とは違う手応えがあったんですか?
くぅ:聴きやすさとかキャッチーさを狙った曲ではあるんです。まあ、曲を作るときは毎回そうなんですけど。それを全面に出した曲ではあるから、聴いてて楽しいなっていうのは思ってましたね。
かほ(Ba):最初サビが違ったんですけど、サビが変わってから、いきなりいい曲になったよね。
――他のメンバーはどうでしょう? 「スゴいのができた」っていうような感じはありましたか?
夕日:いや、「これは絶対に売れるわ」とかはなかったです。いつもどおりというか。「この曲、めっちゃいいじゃん」ってなるのは毎回なんですよ。これも、そのうちの1曲でしたね。
大樹:同じですね。その前に「万事思通」っていう曲があって。それも、(「不革命前夜」と同じような)ミドルめのテンポだったんですけど。それまで自分たちは速い曲しか出してなかったから、どうなるんだろう?っていう想いのほうが強かったんです。
夕日:「クソ畜生、よろこんで。」までが速すぎましたからね。
――いま話に出た「万事思通」とか「不革命前夜」が収録されていたシングルが「JINRUI」で。その頃から、音作りに対する意識がかなり変わったように感じたんですよ。
くぅ:曲を作る方向性を変えてみようかなっていうのはあって。そのあたりのデモはテンポも全部変えて作ったんです。
――より歌がしっかり届くように?
くぅ:そうですね。
――かつ、それまでの持ち味だったテクニカルなロックサウンドに加えて、鋭利なシンセサウンドを融合させることで、よりオリジナルなサウンドになっていきましたね。
くぅ:インディーズバンドでここまでがっつりシンセを使った曲って、あんまり聴いたことがないなと思ったんですよ。僕はボカロも好きで、バンドも好きっていうのもあって、「クソ畜生、よろこんで。」から、シンセサイザーを入れた曲を作りはじめたっていう感じです。
くぅ
――ただ、「クソ畜生、よろこんで。」の収録曲で、今回のアルバムにも入ってる「下僕な僕チン」だと、まだシンセが飛び道具なんですよね。「入れてみたよ」っていうか。
くぅ:ああ、本当そうなんですよね。まさに「下僕な僕チン」っていう曲が初めてシンセサイザーを入れた曲だったんですよ。そのときは、「とりあえず何でも入れてみよう」っていう感じで作ってたんですけど、その「何でも入れてみよう」がどんどん定着していって、いまに至るって感じで。
――その「何でも入れてみよう」精神が、あの圧倒的にオリジナルな「不革命前夜」を生んで、今回のアルバムにも通じてるんですね。
くぅ:冒険というか、遊びというか、そういう感じですよね。
――NEEの曲を聴くと、いままで人類が聴いたことのないような新しいものを生み出したいというような気概を感じるんですけど、そういう想いは強いですか?
くぅ:それはありますね。4thシングルの「JINRUI」っていうタイトルは、まさに「人類」に聴いてほしいなっていう意味合いだったんです。自分では新しいことに挑戦してるつもりはないんですけど、自分がやりたいことが新しい感じになってるのかなあっていうのは思ってます。
――ちなみに、「不革命前夜」のバズの理由って、自分たちではどう分析してますか?
くぅ:やっぱりJ-POPのキャッチーさじゃないかと思います。ベースにそれがないと聴いてもらえないし。万人に受け入れられる曲になったうえで、自分の世界観を出せたのかなって。
夕日:NEEの曲のなかではバランスがとれてるんですよ。キャッチーさとプログレッシブな感じ、実験的な部分のバランスがいちばんとれてるんです。
かほ:あとは、MVがアニメーションだったのも大きい。その力が7割ぐらいかなって(笑)。
大樹:でも、コメントを見ると、アニメーションがすべてって感じじゃなくてね。NEEの音楽も評価してくれてるんです。それも、いい塩梅だなと思ってますね。
――まさに、そのミュージックビデオも画期的だったんじゃないかなと思っていて。ライブハウス出身のバンドには珍しい手法というか。ネットカルチャー出身の人たちのような見せ方で。
夕日:ああ、たしかに。
――そこは戦略的にやったのかな?と思ったんですけど。
くぅ:ネット界隈に投げかけるっていうことですよね? たしかに、そういう意図もちょっとはあって。「不革命前夜」を出す前は、方向性に迷ってたんです。どうやったらNEEにファンがつくんだろう?って。その当時は、インディーズ界隈で浮いてたんですよ。受け入れられにくい感じというか。
かほ:ジャンル的にね。シンセとかも入ってたから。
くぅ:悩んだ結果、いま流行りになってるネット音楽の見せ方にしてみたんです。
夕日:僕は、それに対して反対の意志を見せてたんですよね。ずっとバンドシーンでやってきたから。でも、こういう結果になって、「ごめん」って感じですけど(笑)。
大樹:たしかに言ってたね。
くぅ:そこも、みんな好きなジャンルがバラバラで。俺の見えてる音楽の世界と、みんなが見えてる音楽の世界が違うから、逆におもしろいなって思います。
かほ
――かほさんはどうですか? もともとブルーハーツが好きで、ライブハウス育ちっていうタイプだったと思いますが。
かほ:NEEの音楽を聴いてもらえるんだったら、ジャンルはどこでもいいと思ってますね。結局、音楽が変わるわけじゃないから、見せる層が変わるだけなんですよ。その当時は、下北界隈のギターロックにいたんですけど、そこから抜けるっていう点では賛成でしたね。
――そういう意味で「不革命前夜」は、いまのネットカルチャーの潮流と、ライブハウスでの経験値をうまく融合させて、ファン層の垣根を鮮やかに突破した曲だったなと思います。
くぅ:ラッキーでしたね。
――バンド結成から5年目というタイミングでメジャーデビュー果たすわけですけど、ここまでメンバーチェンジなく4人でやってきたんですか?
かほ:ほぼないです。
夕日:最初の数ヵ月だけ、僕が正式ではなくて。
大樹:でもサポートでやってたからさ。
くぅ:うん。ちゃんと動き出したときにはもうこの4人でしたね。
――いつかメジャーデビューをしたい、というのは目標として見据えていたんですか?
大樹:僕はそうですね。地元が宮崎なんですけど、ぜってぇバンドで売れて、チヤホヤされてやるみたいな。
――野心がすごい(笑)。
大樹:いまは全然ないですよ(笑)。
夕日:最初は誰でもそうだよね。
大樹:もともとバンドをやることに家族は大反対で。「ふざけんな」と。それを押し切って、40万円ぐらい持って上京してきたんです。だから、いまこうやって、この場に立つと、がんばってよかったなって思いますね。よく、売れるのは出会いだとか、運だとか、いろいろな人に言われても、あんまり実感なかったんですけど。ここまでくると、これもいい出会いだったのかなと思いますね。
――くぅくんはどうですか?
くぅ:僕は、「売れたい」っていうのもあったんですけど、それが第一じゃなくて。上手い人たちとバンドをしたいっていう気持ちが強かったです。広島出身なんですけど。広島にいたときには周りに音楽をやってる人がいなくて。クラスで仲良くなった人に無理やりドラムを教えてて。
大樹:めっちゃわかるわぁ。
くぅ:そのあとも広島にいたときは4つぐらいバンドを組んだんですけど、そのうち3つは楽器を触ったことがない人に教えながらやってたので。それが嫌だったんですよ。
――まあ……なかなかやりたいことができないですもんね。
くぅ:だから、とりあえず東京に出て。本当に上手い人たちとやりたいっていうのがいちばんの気持ちだったんですね。それで、やっていくうちにメジャーデビューしたいっていう気持ちが沸々と出てきたっていう感じです。組んだときは、組めただけでうれしかった。
かほ:私は誘ってもらって、軽いノリでこのバンドに入ったんです。そのときはまだ大学生だったので、やっていくうちに、「このバンドで売れたらいいな」っていう気持ちになりましたね。
――そういう想いに傾いていったのは、どのぐらいの時期だったんですか?
かほ:「歩く花」を出したときぐらいですかね。2019年だったんですけど。ちょうど就活のタイミングだったんですよ。で、そのあたりからバンドが一気に動きだして。就職したい企業とかもなくて、「バンドでやっていきたいな」って思うようになって。
大樹:覚えてるわ、それ。「就職どうするの?」って聞いてた気がする。
かほ:うん、その時期は就活しながら企画を組んでたもんね。ブッキングとかをしながら。
――夕日くんは? メジャーデビューに関しては。
夕日:僕は、NEEをやる前に組んでたバンドを脱退したんですよ。でも、音楽をやめるのは嫌だったし、スタジオミュージシャンにいくのも考えたけど、それも違うなと思って。とにかくバンドをサポートしようと思って、声をかけてくれた依頼は全部受けて。いっぱいかけ持っていた中のひとつがNEEだったんです。僕のなかでNEEは数あるバンドのひとつだったけど、なんか他とは違ったんですよね。NEEだけ贔屓しまくっちゃって。
――他にもサポート現場と比べて。
夕日:はい。それで、最終的にNEEに加入することになったんです。音楽性とか人柄も気に入ってたし、一緒にやってて楽しいし。自分がいちばん自由に音楽をできる環境がNEEだったんです。他は厳しかったんですよ、「服はこういうのを着て」とか(笑)。
かほ:そっか、そういうのあるかぁ。
――それぞれのバンドのコンセプトもあるでしょうしね。
夕日:全部が全部そうじゃなかったけど。NEEは俺が何を弾いても、「お、いいやん」って言ってくれるから、「あ、このバンドがいいな」って思いました。
――くぅくんは、そういうメンバーを求めていたわけですもんね。演奏が上手くて、自由に、自分が作ったデモに色付けしてくれるようなメンバーを。
くぅ:そうですね。だから、みんな(いまのメンバー)と出会えたときは感動しました。
NEE
――この4人で歩いてきたインディーズ時代の4年間はどう振り返りますか?
くぅ:いろいろあったようで、あっと言う間の4年間でしたね。楽しい時間ってすぐ過ぎるっていう。そういうことかな。
かほ:私は文化祭みたいな感じでした。ライブをやるにしても、MVを撮るにしても、全部、この4人の狭い世界のなかでやってきたから。
くぅ:ああ、たしかに。MVも自分たちで撮ったりして。
かほ:百均でいろいろなものを買って。
夕日:DIYだったね。
かほ:井の頭公園に行ってね。なんにも使い方がわからないから、あれ、何だっけ……?
夕日:スタビライザー。
くぅ:そうそう。プロが使うような機械をレンタルして、がんばって使い方を覚えて。「これでいけるわ!」みたいな。知り合いのカメラマンより先にそれの使い方を覚えてました(笑)。
――(笑)。では、メジャーデビューに向けて、アルバムの制作にはいつ頃から着手したんですか?
くぅ:実はメジャーデビューに向けて作ったわけではなかったんですよ。去年の10月に
「JINRUI」を出したあとに、次にEPか何かを出そうと思ったんですけど。事務所が決まったり、いろいろあって。だったら、メジャーデビューのタイミングに出すのがいちばんいいなっていうので。
――フルアルバムに切り替えたんですね。
かほ:なので、去年の7月からレコーディングは始めてたんです。
――アルバムの制作は初めてだったと思いますけど、振り返ってみてどうでしたか?
くぅ:めちゃくちゃ大変でした。
夕日:もともとNEEって余るくらい曲数があったんですよ。でも、バイトでしか収入がなかったし、どんどんリリースをするのが現実的じゃなくて。ずっとアルバムを出したかったら、うれしくもありましたね。
――それでこのボリュームなんですね。16曲入りっていう。
くぅ:そう、お金がなくてレコーディングできなくてっていう曲もたくさんあったので。
――大変だったのは制作のなかでどの工程ですか? 原点になるくぅくんの詞曲作りなのか、アレンジなのか、レコーディングなのか。
くぅ:NEEのいちばん大変なところは、演奏もなんですけど、いちばんはミックスで。
夕日:同じこと思った!
くぅ:ミックスのときに、そこからもっとよくするにはどうするか……というところにいちばん時間をかけるんですよ。
かほ:エンジニアさんが編曲の域まで手伝ってくれるんです。録って音を揃えて終わり、じゃなくて。そこからどうイジるかっていうのがはじまるので。音色も変えるし。
くぅ:ボーカルの声をめっちゃ変えたり、重ねたりして。
夕日:プロデュースみたいな感じだよね。1個のメロディがまるまる消えたり。
――特に、激しく変わった曲というと?
くぅ:いや、もう全部ですよ。「本当は泣きそうです。」、「第一次世界」、「因果オウホウ」、あと「ぱくちー」も編曲をめちゃくちゃ変えたし、「こたる」は変えてないか。
――「こたる」は、NEEのなかではシンプルな曲ですもんね。
くぅ:そうなんですよね。「ビリビリのーん」も最初とまったく違う。だから全曲です。たとえば、「ボキは最強」っていう曲なんかも、頭の音がまったく違うんです。最初は、ギター、ベース、ドラムで、ジャジャンジャンってやってたんですけど。それが僕のなかで納得がいかなくて。
夕日:より複雑なイントロがついたよね。
くぅ:ぐちゃぐちゃな音質して、ドーンってスタートするっていう。そのレベルで変えてますね。
夕日
――オープニングSE「全校朝会」の次に収録されている「第一次世界」なんかも、ユニークですよね。ファンクをベースに賑やかにいろいろな音が重なりあって、すごくオープニング感がある。
くぅ:これも、レコーディングをしたやつからまったく変わりました。どちかと言うと、めっちゃオシャレな曲だったんですよ。で、サビをロックにするっていう。そういうシンプルな感じだったんですけど、いまはJ-POPっぽいし。「なんだこれは?」っていう新しいものになったんじゃないかなって。
夕日:スタジオの時点では、もともとタイトルも違ったよね。
かほ:最初は「愛情表現」っていう名前だったんです。
――この曲は、ステージに立つ人間の想いを書きたかった曲なのかなと思ったのですが。
くぅ:それも近いんですけど、権力者の話ですね。権力を選ぶのか、大切な人を選ぶのか。そういう究極の選択のことを歌ったんです。
――どうして、「第一次世界」というタイトルなんですか?
くぅ:第一次世界大戦を連想すると思うんですけど、そういうわけじゃなくて。第1回目の世界の物語っていうことですね。
かほ:へぇ、そうなんだ! 転生ってこと?
くぅ:まあ……ひとつ目の世界。だから、もしかしたら「第二次世界」とか「第三次世界」っていう曲ができるかもしれないし。そういうおもしろいことができたらなって思ってるんです。
――個人的に好きだったのは、「ビリビリのーん」でした。泥臭いロックンロールの雰囲気もあるけど、とにかくサビの中毒性が高い。<ビリビリビリノーン>のところ。
大樹:かっこいいですよね。
くぅ:これも曲名が違ったんですよ。
かほ:最初は「リーズン」だったんです。それだと王道のロックンロールすぎる、みたいな。
くぅ:最初の入りがギターロックすぎて、イメージがそれに定着しちゃうなっていうのがあって。曲名もかわいい感じに変えたんです。それで曲の展開も変えていって。
かほ:もともとのデモにはシンセがなかったよね。
夕日:「この曲は同期いらん」って言ってた。
くぅ:「絶対にバンドサウンドで攻めたい」ってね。なのに結局、入れるっていう(笑)。
かほ:めっちゃ変わった。
夕日:NEEあるあるですね、これは。
――「第一次世界」は権力の話だったけど、「ビリビリのーん」は格差の話ですよね。
くぅ:権力がまったくない、どうしようもなくなった人たちのことですね。
――権力者と、格差社会。そういうものをテーマにすることで、この生きづらい世の中で、いかに踏ん張っていくかっていうことを書きたかったのかなと思ったんですけど、どうでしょう。
くぅ:それ、自分で言いたかったな(笑)……まぁ、でも完全にたまたまです(笑)。歌詞は、自分のなかで世界観があるので、そこで成り立っているものが自然につながってくるのかなと思います。
――さっき、くぅくんが言ってた「上手いメンバーとバンドをやりたかった」という想いが実現したからこそ生まれたのが「因果オウホウ」ですよね。
夕日:レコーディングが地獄でした(笑)。
くぅ:ライブでできるか不安ですね。めっちゃ練習してるんですけど。
かほ:演奏に集中しすぎて棒立ちになっちゃうんですよ。1ミリも動けないっていう(笑)。
大樹:まったく笑わないかもね。見てる人たちは怖いと思います(笑)。
――デモの段階から、メンバーのテクニックの最大限を引き出すような曲にしたかったんですか?
くぅ:この曲を作るとき、ラテンとかにハマっていて。アフロ・キューバンっぽい曲を作ろうと思ってたんです。ただ、そのまま作るのもつまらないから、サビはJ-POPというか、キャッチーなメロディを入れたりして。このビートを大樹にやらせるのが楽しみだなって思ってましたね。
夕日:めっちゃ練習してたよね、ずっと。
大樹:うん、めちゃくちゃ練習しました、けど、いまだに……(小声で)怪しい。ラテンの人たちって本当にすごいんですよ。(手足が)バラバラなことをやってるっていうか。
くぅ:ベースも、そういうノリに合わせてかほちゃんはどう弾くのかな?と思ったり、ギターフレーズも、どんな感じで夕日にやらせたらおもしろいかな?とか、考えるのが楽しかったです。
夕日:僕は、ちょっとボサ(ノバ)っぽいのを、中学のときに練習してたときがあって。それがここで使えるじゃんってなって、ちょっとボサっぽいのを弾いてますね。
――くぅくんのデモには、たまにこういう無茶ぶりみたいなものがあったりするんですか?
大樹:いや、もうほぼ全部ですよ。明らかに無理なやつとかは、「こういうふうにアレンジするけど、大丈夫?」って下からお願いしたりして(笑)。バスドラがけっこうエゲつないやつがくるんですよ。ドゥルルルルルッみたいな。
夕日:ツーバスでね。
大樹:足が6本ぐらいないと絶対できないやつとか。
くぅ:腕が4本ぐらいないと、とか。
大樹:そうそうそう(笑)。
夕日:「歩く花」はめちゃドコドコだったよね。
大樹:そういうのは、たぶんくぅの「激しくしてね」っていう表現なのかなって。
くぅ:大体最初に聴かせたときに、みんなに失笑されますから(笑)。
――でも、それに応えくれるメンバーだから。
くぅ:うん、本当にありがたいです。
大樹:いつか完コピっていうかね。全部くぅが作ったデモどおりにやりたいですね。
大樹
――「因果オウホウ」みたいな激しい曲もあれば、「You are はっぴー」なんかは、心地好いミディアムテンポです。
くぅ:これはサビでバンドインするんですけど、そこで衝撃を覚えてほしいなと思って作った曲です。ずっと弾き語りでいくのかなと思わせて、サビでバーンってくるっていう。
――こういう歌をしっかり聴かせる曲調だと、プレイヤーとしての演奏の意識も変わりますか?
夕日:間(ま)を意識しますね。「You are はっぴー」はネオソウルっぽいギターというか。ふだんは使わないようなハモり方をして。溜めて溜めて、最後にノイジーにやるっていう感じです。
かほ:こういう曲では、あまりベースのラインに主張が出ないようにしてますね。J-POPのシンセベースっていう感じで、下でズーンってあればいいなと思ってたので、エンジニアさんに音をこもらせてもらってます。歌をいちばんに聴かせたいので。
大樹:僕も極端に使いわけてますね。速い曲では、オープンインでハイハットでビートを刻むんですけど。こういう曲調ではクラッシュシンバルで刻んで。わかりやすく変えるようにしてます。
――「You are はっぴー」の歌詞は、ラブソングっぽくも聴こえますし、リスナーにあてた歌のようにも聴こえました。
くぅ:いろいろな捉え方で聴いてほしいなと思いますね。聴いたときに、この人が思い浮かぶなとか、自分に向けてるのかな、とか。
――<この物語は 君次第なので 車の中で見守ったげるよ>がいいんですよね。
かほ:そこ、いいですよね! 私、めっちゃくぅの歌詞が好きなんですよ。「ゆあはぴ」(「You are はっぴー」)の歌詞は、比喩な感じがするんです。<車の中>って安全圏じゃないですか。だから、「あ、そばに来てはくれないんだ」って思ったんですけど、最後のほうで、<この物語は僕次第>って、<僕次第に>変わるんです。だったら、この<車>は何を示してるんだろう?って考察したくなる。
――私は、その<車>が、バンドとか、それぞれの人生なのかなと思ったんですよね。直接干渉できない場所にいるけど、ちゃんと見守ってるっていう。なんて優しい歌なんだろうって。
くぅ:なるほど、おもしろい。
――聴き手によって捉え方が変わりそうな曲で言うと、「本当は泣きそうです。」も、泣きそうなのは、誰なんだろう?って思うんですよ。<僕>なのか、<君>なのか。
くぅ:これも、どっちかは聴き手に任せてるんです。実は、歌詞の二人称が、<君>って歌ってるところと、<貴方>って歌ってるところがあって。サビを歌ってるのは、<君>なんですよ。
かほ:女の子?
くぅ:そうそう。そういうのも考えながら考察してほしいです。「ほんなき」(「本当は泣きそうです。」)は、自分でも歌詞が好きで。<携帯の寿命を気にしていた 貴方を見守る>とか、いいなと思ってるんです。
――ふたりで一緒にいるのに、<貴方>は心ここにあらずで携帯ばっかり見ている。
くぅ:自分のなかでもすごく情景が浮かぶんです。曲のなかにはわかりにくい歌詞もあったりするんですけど。「ほんなき」は、すべて情景がきれいに思い浮かぶ曲ですね。
――今回、アルバムのオープニングとエンディングにはSEが収録されています。「全校朝会」と「帰りの会」という曲ですけど、これを入れようと思った意図は何でしょう?
くぅ:「学校」を表現したかったんですよね。何かを教える場所っていうか、授業のような感じ。いろいろなジャンルの曲があるので、たとえば、「第一次世界」は体育だったり、「アウトバーン」は数学だったり。
――それぞれの楽曲が教科のイメージ?
くぅ:そうです。NEEは学校です、みたいな。
――学校がよかったのは、どうしてですか?
くぅ:それを考えたんですけど……単純にそれしかなかったんです。学校がピンときて。そういうものを表現したくて、曲の感じも「全校朝会」と「帰りの会」は真逆なんです。朝、学校がはじまるときってダルいじゃないですか。でも、「帰りの会」になると寂しいなって。
かほ:素直な子供だ。
くぅ:そんな感じで作りました。
NEE
――さっきインディーズ時代の活動について、かほさんが「文化祭みたい」って言ってましたけど、そうやって音楽に夢中になってのめり込んでる感じがNEEなんだろうし、それが学校とか、学生生活っぽいのかなって、いま話を聞いていて思いました。無理やりかもしれないけど。
くぅ:うん。それは自分も思いますね。僕、高校を辞めてるんですよ。そういう青春時代をいま取り返してるのかもしれない。そういう気がしますよね。
かほ:何歳になっても、青春はやりなおせるってことだよね。
――「帰りの会」のほうには、歌も入ってますけど、これは歌詞カードに記載がないんですね。
くぅ:そうです。これはSEって感じで、歌詞は見せなくていいかなと思って。
――これ、周りがガヤガヤしてるんですけど、実はすごくいい歌じゃないですか。
かほ:めっちゃいい歌ですよね。
くぅ:この歌は、先生が帰りのホームルームで喋ってるイメージなんです。ガヤガヤざわついた教室で先生がなにか喋ってる。そういうとき、俺内容を聞いてないんですよね。そういう意図もあって、あえて歌詞をのせてないんです。
かほ:エモいね、それ。先生いいこと言ってたかもしれないじゃん。
くぅ:そうそうそう。いま思えば、絶対にいいことしか言ってなかったはずなんですよね。
――なるほど。私、聴きながら歌詞を書き出したんだけど、まさにこの曲、本当にいいことを歌ってるんですよ。アルバムの核心って言ってもいいことなんじゃないかってぐらい。
くぅ:そうですね。
――孤独でがんばっても報われないことが多いの日々のなかで、それでも生きる意味は何なのか、夢とは何なのかっていう。
くぅ:うん。たとえ学校でひとりぼっちだったりしても、音楽は味方だと思うんですよね。いろいろなことを教えてくれるものなんですよね。音楽に救われるっていう人もいるし。このアルバムを通して、きっと同じ気持ちの人もいるよっていうようなことを言いたかったんですよね。
――最後に、それぞれ今回のアルバムはどんな作品になったと思いますか?
夕日:僕としては、昔の自分に聴かせてあげたい気持ちがあって。
くぅ:わかるわ、それ。
夕日:いま、こうやって音楽をできてるんだよって教えてあげたいっていうのもあるし。自分と同じような気持ちを持ってる人……たとえば、怠惰になってしまったり、本当はもっと楽しいことがしたい、とか。そういう自分と同じような想いをしてる人に聴かせたいなっていうはありますね。
――かほさんは?
かほ:「全校朝会」からはじまって、「帰りの会」で終わる流れがいいなって思いますね。曲もいろいろなジャンルがあるので、それが、多様性と……調和?なのかなって。
くぅ:それ、オリンピックや!(笑)
一同:あはははは!
かほ:16曲の多様性と調和を感じてほしいです(笑)。
――最後に大樹くん、どうでしょう?
大樹:いや、このあとか……(笑)。何でしょうね、地元にいたときは音楽が好きじゃないっていう友だちがいて、でもそういう人でもめっちゃ王道なやつは知ってるんですよ。で、このアルバムを聴くと、そういう人にも聴いてもらえる王道な曲もあるけど、逆に王道は好きじゃないっていう、変わった音楽が好きなんだっていう友だちにも届きそうだなっていう曲もあって。どの層でも楽しめるんじゃないかなって思うんですよね。そういう意味でも、多様性と調和ですよね(笑)。

取材・文=秦理絵 撮影=菊池貴裕 ヘアメイク=古賀達也(CALM)

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