【Hakubi インタビュー】
ロックだの、J-POPだの、
ジャンル分けされない音楽でありたい
考え方の移り変わりが
歌詞によく表われている
その心境の変化が「悲しいほどに毎日は」にもつながっている感じで。
片桐
そうですね。この曲はコロナ禍の序盤に作り始めました。自分が何もできずに部屋で腐ってしまっている一方、ライヴができない状況だろうが動き続けているミュージシャンがいることに焦っていたり、無力感が背景にあったりしたので、もっと暗いトーンの曲だったんですよ。でも、一年くらいかけてバンドで練っていく中で、シンガロングを入れるアイディアが生まれて。最終的にそんな歌詞に対し、アレンジは明るいポップ要素が際立つような不思議なバランスの曲になりました。心は泣いているけど、立ち止まりたくないから笑っているような。いつかライヴでシンガロングができたとしても、そこで歌ってくれるそれぞれの人はひとりだし、人は完全には分かり合えないと思うんですけど、《悲しいほどに毎日はあっけなく終わってく》という孤独なサビをみんなで一緒に歌えたら、なんだか心が強くなれそうな気がするんです。
ヤスカワ
僕らは5月に『VIVA LA ROCK 2021』へ出演させてもらったんですけど、そこで他のバンドのライヴを観た時に、フェスでドン!と輝くような曲の必要性を感じたし、来年以降はコロナ禍が収束していくことを祈りつつ、その未来のための曲をしっかり作っておきたかったんです。だから、「悲しいほどに毎日は」はポップスと呼べるクオリティーの曲にしたくて。シンガロングパートを入れたのも声が出せない今の時代の逆張り思考で、これから先の大きな舞台に向けて、一体感が生まれる未来を信じてこういうアレンジにしました。
マツイ
自分が学生の頃に行ったライヴやフェスで知らなくても口ずさめた曲って、「悲しいほどに毎日は」みたいに分かりやすい歌やったと思うんですよね。同じ歌詞が気持ち良くリフレインするとか、誰でもコピーできるようなフレーズで一体感を生み出すとか、やっていることは案外すごくシンプルだったりして。ドラムも複雑なアプローチをせずに4つ打ちのビートを踏んでいるだけですけど、身体がもっとも自然にノリやすいリズムはきっとこれやし、分かりやすさを何より意識した上でのアレンジなんです。
片桐
フェスで映えるとかノリやすいとか、私はまったく頭が行かない人間なので、そこはマツイくんとアルくんが意識してくれる感じです(笑)。自分としてはただ単純に、同じ空の下で生きている人たちはそれぞれみんな考え方が違うだろうけど、どこかでつながれる部分がきっとある…そう信じたかったんだと思いますね。
Hakubiがひとつの目標にしていて、実際に出演する予定だった『京都大作戦2021~中止はもう勘弁してくだ祭(マジで)~』(以下、『京都大作戦2021』)の2週目が開催延期になってしまったじゃないですか。それがアナウンスされた日に、奇しくも「悲しいほどに毎日は」が配信スタートし、MVも公開となりましたけど、自分たちで作ったこの曲に心が救われたりもしたのかなって。
片桐
『京都大作戦2021』の一報とたまたま重なったのもあって、リスナーさんから“今、この曲を聴けて良かった”みたいな反応をたくさんいただけたのが励みになりました。本当にどうしようもないことばっかりで、私もまいっちゃうんですけどね。とはいえ、痛みや悔しさを原動力に変えて前に進むしかないわけで。「悲しいほどに毎日は」では、そういう想いを、声明を出すように歌ってますから。
マツイ
僕は『京都大作戦2021』へ出るはずやった日に、「悲しいほどに毎日は」のMVを10回くらい観ましたよ。“めっちゃええ曲やな”と思いながら、自分を鼓舞する感じで。
ヤスカワ
悔しいけど、また次に向けて頑張るだけですね。『京都大作戦』に出演するという夢が見続けられると思って。
話を聞いていて開けたムードが伝わってきますが、歌詞も変わってきましたよね。
マツイ
「栞」で《数えきれない光をくれたあなたに/私は今何を返せるのだろう》という歌詞があったりするので、昔と比べたらかなり明るくなったと思いますね。光の種類が変わったというか。以前は夜から朝に変わる時のちょっと日が出てきたくらいの明るさやったけど、もっと光量が増した感じがします。
片桐
私の考え方の移り変わりが歌詞によく表われていると思います。自分のテーマとしてぼんやりあったのが、メンバーやスタッフをはじめ、家族、友達、リスナーのみなさんだったりにとても支えられてきたので、いろんな感謝を返したいということで。どうすればそれができるのかを考えながらアルバム制作を始めていって、コロナ禍の窮地によってその想いがさらに強くなったんですよね。聴いてくれる人たちをHakubiの音楽で守れるものなら守りたいし、救えるものなら救いたいなって。だけど、有観客のライヴを再開させたあたりで、また気持ちが変わりました。
というと?
片桐
結局、コロナ禍でも救われてきたのは自分のほうで、想像よりも守られていたことに改めて気づいたんです。“守ってあげたい”なんてのは上から目線だったなと。そうじゃなくて、きっと私はこれからもメンバーとスタッフ、そしてリスナーのみなさんとともに歩いていくんだろうし、横並びで対等に歩きたいと思ったんです。その気づきは収録曲の中で最後に作った「誰かの神様になりたかった」に入っていますね。
制作中にいろいろ気付きがあったと。
片桐
Hakubiを始めて一年目に作った「午前4時、SNS」(2019年11月発表のEP『追憶』収録曲)という曲で、メジャーデビューの怖さを自分なりに歌ったことがあるんですよ。その時は何かにならなきゃいけないと強く思っていたんですけど、今はたくさんの人たちに支えられていると気づけたので、そういう意味では「午前4時、SNS」に返答をするようなアルバムができた感じもしていますね。
最後に、それぞれが思うアルバムの聴きどころを教えてください。
マツイ
「誰かの神様になりたかった」を推したいですね。「在る日々」や「アカツキ」がきっかけで僕らを観に来てくださったお客さんに、新たな衝撃をもたらしてくれる曲やろうし、よりライヴで化けそうな曲やと思うんで。「栞」を聴いて“Hakubiのヴォーカル、めっちゃ声がきれいやん!”となってる人には、真逆の泥臭いパフォーマンスでギョッとさせたいみたいな(笑)。そういう気持ちがすごく強いバンドなんですよね。
ヤスカワ
繰り返しになっちゃいますけど、振り幅を意識して一曲ごとにチャレンジができて、それをいいバランスでまとめられたのがポイントじゃないかなと思います。2020年の9月にリリースしたEP『結 ep』で鍵盤やシーケンスを入れたりと実験的な試みをしていたんですが、そのフィードバックを今作に反映させられた感覚もあるので、『結 ep』からの変化を辿ると、『era』は一段と深く楽しめるはずです。シンプルに言えば、現状のベストアルバムですし、たくさんの人に聴いてほしいなと。
片桐
自分の曲をあまり愛してあげられない性格だったんですけど、今作は映画やドラマ、アニメなどに使っていただいた曲も多くて、いろんな人との関わりの中で完成させられたので、これまでよりも愛着があるんですよね。ポップスを意識したような曲とライヴバンドらしい曲、どっちかの要素に偏るんじゃなくて、両軸がちゃんと感じられる点も気に入っています。私たちはロックだの、J-POPだの、ジャンル分けされない音楽でありたくて。Hakubiがそうなっていくための先駆けと言えるアルバムが、この『era』だと思っているんです。
取材:田山雄士
【OKMusic特別企画】
■ソロインタビューで紐解くHakubiのメジャーデビューまでの軌跡<vol.1> 片桐(Vo&Gu)
https://okmusic.jp/news/433966
■ソロインタビューで紐解くHakubiのメジャーデビューまでの軌跡<vol.2>ヤスカワアル(Ba)
https://okmusic.jp/news/435071
■ソロインタビューで紐解くHakubiのメジャーデビューまでの軌跡<vol.3>マツイユウキ(Dr)
https://okmusic.jp/news/435761
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「栞」MV
「mirror」LIVE MV
「悲しいほどに毎日は」MV
「color」MV
「道化師にはなれない」MV
「在る日々」MV
「アカツキ」MV
アルバム『era』初回盤収録
LIVE DVD【Teaser】
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