吉田小夏×福寿奈央×大西玲子が語る
、吉祥寺ファミリーシアター新作演劇
公演『ぞうれっしゃがやってきた』

戦争のために、動物園の動物が殺されてしまった話はあちこちにある。猛獣が逃亡して被害を及ぼすことを事前に防ぐため、あるいは食料不足のため、多くの動物が悲しい運命をたどった。吉祥寺シアターでは、そんな時代に、4頭の象たちが動物園にやってきた日から、全国の子どもたちが「ぞうれっしゃ」に乗り、名古屋・東山動物園にやってくるまでの12年間を描いた絵本『ぞうれっしゃがやってきた』を舞台化する(吉祥寺ファミリーシアター新作演劇公演 2021年8月7日~11日)。原作にはなかった要素も交え、象たち、動物園のスタッフ、そしてある姉妹に起きた悲喜こもごもを描く。この作品の脚本・演出を担当する、劇団青☆組の吉田小夏と、出演者の福寿奈央・大西玲子(いずれも、青☆組に所属)の3人に話を聞いた。

――今回の企画の発端からお話していただけますか?
吉田 この絵本を演劇でやってほしいという依頼が吉祥寺シアターさんのもとに舞い込んで、私たちにお話を持ってきてくださったんです。もともとは市役所の方が平和事業の一環として提案されたものでした。物語をすべて4人の俳優で回していくミニマムなスタイルで、2年前に、図書館などで上演しました。この時に今回と同じ役をやっていたのが、福寿奈央さんと大西玲子さんでした。
吉田小夏
福寿 1937年に象が名古屋の動物園にやってくるところから、1949年に東京の姉妹が象を見るために列車で東山動物園に着くまでの物語を約30分で見せるんです。私たちは象や子ども、軍人などいろいろな役を演じて、子どもたちに語りかけるというものでした。
大西 その時は対象年齢が今回よりも低く、およそ原作に忠実に上演しました。出演者の中には4人の俳優のほかに小夏さんもいて、音楽隊としてピアノや鳴り物で活躍してくれたんです。
吉田 その作品を見てくださった吉祥寺シアターの方が、長編にして、吉祥寺ファミリーシアターという親子で楽しめるお芝居の枠で上演しませんかとお話をくださったのが、今回の作品です。原作の絵本は事実を叙事的に追っていて、象などの名前は出てくるんですけど、飼育員さんや子どもたちの名前は出てこないんです。今回の戯曲をつくるにあたり、まず登場する人たちの名前もつけ、象に会いにいく列車での道すがら、なぜお姉ちゃんが妹を象に会わせたかったのか、戦争の足音が近いてくるところから戦後までの描写を膨らませることにしました。姉を福寿さん、妹を大西さんが演じるのですが、二人にはエルド、マカニーという象も演じてもらっています。原作では、動物は一言もしゃべらないんです。でも戯曲では、象が自らしゃべることで、動物視点で世界を見ているような構造にもなっています。
2019年の短編版『ぞうれっしゃがやってきた』
2019年の短編版『ぞうれっしゃがやってきた』
――ある意味、贅沢な作り方をしているんですね。
吉田 そう思います。吉祥寺シアターさんがゼロから演劇のクリエイションにかかわるのも今回が初めてだそうです。
大西 前回は34分の中で12年を駆け抜けるお芝居でしたが、今回は、私が演じる幼い象がサーカスから動物園にやってきたところから、仲間が死んで、戦争が終わって、そこから生き抜くという時間をかなり丁寧に描いています。
福寿 姉妹のお父ちゃんは戦争で亡くなったという設定ですが、これは戯曲のオリジナルの設定で、原作では特にそこは書かれていないので、初演の短編版では自分の想像で演じました。でも今回の長編版では姉を動物園に連れていってくれたお父ちゃんが出てきてくれる。また列車に乗っているときも夢を見ているかのように現れてくれるんです。小夏さんが私が想像していた世界を描いてくれていて、そのことで姉妹の絆や時間が膨らんでいくので物語が豊かになっていると思います。戦中を生きていた家族の様子を描くシーンでは、青☆組ではおなじみのちゃぶ台も出てきて、また世界が広がるんです。
福寿奈央
――人間たちもしゃべる、動物たちもしゃべるという設定はユニークですね。
吉田 動物にしゃべらせることはもともとこだわっていたところで、動物の視点を通すことで描ける真っ直ぐな愛情や怒り、交流みたいなものにすごく興味があったんです。戦争の犠牲となって動物たちが亡くなるという物語の絵本はいろいろありますが、人間は動物の本当の心を想像することしかできません。でも演劇だったら象の口を借りることができる。原作で一番驚いた場面は、生き残った二頭の象のうち一頭を東京に貸し出すため引き離そうとしたら、ものすごく嫌がったと。血が出るまで壁にぶつかったりして抗議したそうです。群れで暮らす象ですから、象自身もすごく感じるものがあったに違いないと思い、そのときの感情をセリフにしてみたかったんです。また、これは短編をやったからこそ思いついたんですけど、一人の役者が人間と動物のどちらも演じることで、命の重さに優劣がないということをごく自然に感じてもらえるんじゃないかなと。人の代わりに動物が死んでくれて良かったなんてとても思えなくなる。そういう部分を演劇ならではの描き方で表現しようとしています。
――象を演じるのは大変では?
大西 私は動物園の動画を見たりするのが好きなんですけど、その中に子どもの象がビニールプールに入るという動画があるんです。足が短くて入れず、転んだりしながら何度も挑戦する。その象を見ていると私かもしれないと思えるんです。私は動物を演じることが得意というか好きなので、親近感が湧きました。
大西玲子
福寿 私自身もゆったりしているので、象のリズムはすごく気持ちがいい。千葉県にある市原ぞうの国に出かけたんですけど、二頭が亡くなってしまって、ほかの象も元気がないからとパレードがお休みだったんです。象の慈愛深さに感心しました。そういう意味で人間と象の違いは感じていなくて、もっと象の特徴を取り入れていきたいなって思います。
――作品を通して届けたいことを教えてください。
福寿 象が離れるのを嫌がったのを見て、「ぞうれっしゃ」を出して、東京の子どもたちに象を見せてあげようという行動を起こした大人たちはすごいと思うんです。動物同士の絆に動かされて人間が動いたという事実が非常に響いてきます。今の時代は誰もが窮屈に過ごしている中で、いつもなら目立たない物事でも、何か変わる瞬間があったり、動かされる人がいたり、大きな力になることがある。ですからこの作品を見てくださった方が、一歩踏み出せるようになったらいいなって思います。
大西 今は誰かと会うこと自体が難しいじゃないですか。その中で、規制はありつつ、街の中に「どうぞ来てください」という劇場があることはものすごく幸せな、尊いことだと思います。なくなるまで大切なことに気づかないとよく言われますが、今、開かれた場って本当に必要なんだなと感じています。その場所で、私たちが目の前で懸命に、例えば象やネズミを演じている姿が、客席の誰かに勇気を届けられることもあるんじゃないかなと思うんです。
――ところで吉田さん、中国で象の群れが何かに突き動かされるように移動した事件には何かヒントを得たりはしたんですか?
大西 生まれたばかりの小さな象までが一緒になって大移動したんですよね。
福寿 あれは不思議だったね。どうなったんだろう。
吉田 何それ?私、ちょうど必死に戯曲を書いていた時期じゃないかな?集中しようとして、すべての情報を遮断していたからそんな事件があったこと知らなかった……。大移動した象さん達が、幸せに暮らしていることを心から祈っています!
一同 (笑)
左から大西玲子、吉田小夏、福寿奈央
取材・文:いまいこういち

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