海外から里帰りした名品や珠玉のコレ
クションが勢揃い 特別展『大江戸の
華』でかつての江戸の賑わいを実感

2021年7月10日(土)から9月20日(月・祝)まで、江戸東京博物館にて特別展『大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―』が開催されている。本展は、江戸時代における江戸の町のお祭りや婚礼などの“ハレ”の場面を紹介、海外から来日した名品と江戸東京博物館の珠玉のコレクションを合わせた80点近い作品で構成される、きらびやかな展示である。以下、明るく活気に満ちた江戸の空気を今に伝える展示を紹介しよう。
展示風景 第一章 式正ー武器と儀礼ー
鎧に始まり鎧に終わる展示
海外から里帰りした豪奢な甲冑を堪能
会場に足を踏み入れると、最初に迫力ある《色々威胴丸具足》(具足とは道具一揃いのことで、本記事では主に鎧と兜からなる甲冑を指す)に圧倒される。この鎧は徳川秀忠からイギリス国王ジェームズ一世に贈られた品で、国内では初公開だ。イギリス王立武具博物館の所持品で、普段はロンドン塔のホワイトタワーに展示されているが、本展に合わせて日本に里帰りする運びとなった。戦乱の時期を経て平和になると、鎧も戦うためではなく国際親善のために使われたと思うと感慨深い。
中央:《色々威胴丸具足》岩井与左衛門/作 1613年/贈 王立武具博物館(イギリス)
出口でも、見事な鎧が二領展示されている。前立て部分に大きな蟷螂(かまきり)の彫刻を据える《金小札変り袖紺糸妻紅威丸胴具足》はアメリカのミネアポリス美術館の所蔵品だ。並んで展示されている《銀小札変り袖白糸威丸胴具足》は《金小札変り袖紺糸妻紅威丸胴具足》と仕立てなどがよく似ており、同時期の同じ工房にて製作されたものと推測されている。これらの鎧の持ち主は近しい関係、あるいは兄弟だった可能性もあり、現代に至って再会を果たしたのだと思うと胸が熱くなる。
左:《金小札変り袖紺糸妻紅威丸胴具足》江戸時代 ミネアポリス美術館蔵 エセル・モリソン・ヴァン・ダーリップ基金 右:《銀小札変り袖白糸威丸胴具足》江戸時代 東京都江戸東京博物館
他にも十一代将軍徳川家斉の七男が所持した具足や、松平家で当主が代々所有した具足など、ゆかりのある名品が勢揃い。贅と技巧を凝らした鎧は今にも動き出しそうな存在感があり、所有者の権力や美意識を今に伝える。
展示風景 第一章 式正ー武器と儀礼ー
江戸幕府最後の将軍である慶喜の所用した《白羅紗葵紋付陣羽織》や、ユニークな形の《黒塗銀立湧葵紋散陣笠》も見逃せない。西洋文化の影響を受けたとされている《黒塗銀立湧葵紋散陣笠》は独創的なかたちで、伝統的な陣笠とは逸脱したデザインが目を引く。なお、《白羅紗葵紋付陣羽織》と《黒塗銀立湧葵紋散陣笠》は7月10日(土)から8月9日(月)までの展示予定だ。
左より:《白羅紗葵紋付陣羽織》徳川慶喜/所用 江戸時代末期~明治時代初期 東京都江戸東京博物館、 《黒塗銀立湧葵紋散陣笠》徳川慶喜/所用 江戸時代末期~明治時代初期 東京都江戸東京博物館、《徳川慶喜上書》徳川慶喜/発給 慶応3年(1867) 東京都江戸東京博物館
商家の暮らしと賑わいを伝える調度品
江戸の町を彩る祭道具が登場
幕府による都市計画が進められた江戸の町は、18世紀初頭には人口百万人を越える世界有数の大都市となった。江戸の発展は、大規模な商業活動を行う大店(おおだな)と呼ばれる大商人を生み出す。彼らは豊かな生活を享受し、大名にも劣らない調度品を揃えた。当時の大店の一つが鹿嶋屋東店(かじまやひかしだな)で、本展では鹿嶋屋東店の屋敷神である富永稲荷の祭りや雛祭りの道具を展示、当時の繁栄を感じることができるだろう。
展示風景 第二章 年中行事ーお稲荷さまと雛祭りー
東西南北の四方を司る神を掲げる《四神旗》は、富永稲荷の二月の初午の祭礼で用いられたとされる旗だ。台座に青龍、朱雀、白虎、玄武の四神の木像が載り、旗の色も四神に配された色に沿う。《四神旗》の由来ははっきりしており、箱書(名や所有者などを箱に記して残したもの)に鹿嶋屋と記載されている。なお北方を守る玄武に関しては、像を納める木箱に「玄亀」と記載されている。
展示風景 第二章 年中行事―お稲荷さまと雛祭り―
塗りが鮮やかな二体の獅子頭は、富永稲荷の神前に奉納する獅子舞で使用されたもの。雌雄一体で、宝珠がついている方が雌である。木箱の墨書によれば、1858年の安政5年3月につくられたとのことである。獅子頭の奉納者は雌雄で異なり、多くの人が関わったであろう獅子舞の活気を今に伝えるようだ。
獅子頭一式:世話人家主熊吉・鳶吉五郎・植木屋市兵衛他/造 安政5年(1858)3月 東京都江戸東京博物館
繊細で優美な道具の数々
武家の女性の生活を偲ばせる展示内容
江戸時代、武家の女性が表に出ることはほとんどなかった。彼女たちの役割は家を守り、次の世代へと繋ぐことである。本展では女性たちの繊細で優美な道具もふんだんに紹介している。
展示風景 第三章 憧憬ー彩りの道具と装いー
梨子地(漆塗りの面に梨子地粉を蒔き、梨子地漆を塗って粉を覆い、漆を透かして見せる蒔絵)が目にまばゆいのは《梨子地葵紋散松菱梅花唐草文様蒔絵女乗物》(乗物とは人力の乗り物である駕籠(かご)の中でも高級なもの)で、五代将軍の徳川綱吉の養女、八重姫が所用したものとされる。
婚礼道具において、当時の女乗物のほとんどは黒塗りで、梨子地は贅沢禁止令で禁じられており、また内装画の多くは花鳥画だった。しかし本作は、外装が梨子地で、内装画には源氏絵が描かれており、徳川家は別格だったことを示す。豪華だが品のある乗物を観ると、持ち主の威光と当時の文化的発展を実感できよう。
※《梨子地葵紋散松菱梅花唐草文様蒔絵女乗物》は7月10日(土)から8月9日(月)までの展示。後期は十三代将軍徳川家定の生母、本寿院の所用とされる《黒塗梅唐草丸に三階菱紋散蒔絵女乗物》が公開予定。
右:《梨子地葵紋散松菱梅花唐草文様蒔絵女乗物》元禄11年(1698) 東京都江戸東京博物館
打掛や帷子などの衣装も見どころが多い。白地に吉祥モチーフを施した《白綸子地青海波花束模様打掛》は、牡丹や藤、菊の草花に青海波を掛け合わせており、上品ながらも艶やかな色や文様に目を奪われる。
《白麻地御殿模様茶屋染帷子》は、武家女性の夏の正装として着用された着物。茶屋染は、四季折々の草花に、楼閣などを組み合わせた文様を藍で染めだしたもので、技術力と手間が必要な方法である。当時の高度な手わざの粋を実感させる逸品だ。
※《白麻地御殿模様茶屋染帷子》と《白綸子地青海波花束模様打掛》は7月10日(土)から8月9日(月)までの展示。後期は《黒紅練緯地宝尽模様腰巻》《白綸子地七宝繋松竹梅鶴亀丸模様打掛》などが公開予定。
左:《白綸子地青海波花束模様打掛》19世紀 東京都江戸東京博物館 右:《白麻地御殿模様茶屋染帷子》18世紀後半~19世紀前半 東京都江戸東京博物館
戦乱の時代を経て泰平の世となった江戸時代。江戸の町は全国から人や情報が集まり、流通や経済の中心地として大いに栄えた。本展では当時の江戸の賑わいと文化的・技術的な粋を実感でき、明るい気持ちになれるだろう。華やかな雰囲気を味わえる『大江戸の華―武家の儀礼と商家の祭―』、是非見逃さず堪能いただきたい。
文・写真=中野昭子

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