今年の夏は部屋の中で、ひとりぼっちの夜に再生する5曲

今年の夏は部屋の中で、ひとりぼっちの夜に再生する5曲

今年の夏は部屋の中で、
ひとりぼっちの夜に再生する5曲

緊急事態宣言とまん延防止で雁字搦めの半年が生ぬるく通りすぎ、あれよあれよと言う間に「えっ、本当にやるの?」と戸惑ったまま東京五輪シーズンに突入してしまいそうな7月。人いきれでむせ返る極彩色の祭も夜空に穴を開ける花火も縁遠く、対策を徹底したフェスに足を運ぶか否かを悩む余力もなく、孤独を孤独と実感することも許されないほど孤独な夏。仄暗い枕元を照らすiPhoneの明かりと音楽を握りしめ、いつか、いつかはこの日々が終わると信じて。
「待ち空 feat. 折坂悠太」収録アルバム『あまい』/中納良恵
配信シングル「Neon Lightの夜 feat.一十三十一」/DÉ DÉ MOUSE & TANUKI
配信シングル「SMK~サンマは目黒にかぎる(feat.春風亭一之輔)」/hy4_4yh
「barbolla ばるぼら」収録アルバム『feu follet』/dip

「待ち空 feat. 折坂悠太」(’21)
/中納良恵

「待ち空 feat. 折坂悠太」収録アルバム『あまい』/中納良恵

「待ち空 feat. 折坂悠太」収録アルバム『あまい』/中納良恵

中納良恵の約6年振りとなるソロアルバム『あまい』から、シンプルで迷いのない折坂悠太とのコラボレーション作品を。ひとり分の重さを抱えた同士の朗々と羽ばたく自由な歌声が、詩情を表すのに十分な丁寧さと軽やかさ、押韻の心地良さが織り交ぜられた歌詞、ピアノの柔らかに泳動する音色を携え、幾万もの人々を包み込む雄大さを増し、澄み切ったアンサンブルの強さを漲らせる。つむじ風にも似た凄まじさと、そよ風を思わせるやさしさが響き合い、ミュージシャンズミュージシャンたるふたりの邂逅を祝福するかのような楽曲もさることながら、漁港の波音やカモメの鳴き声が混じるMVの素朴できめ細やかな美しさに心が洗われる。

「Neon Lightの夜 feat.一十三十一」
(’21)/DÉ DÉ MOUSE & TANUKI

配信シングル「Neon Lightの夜 feat.一十三十一」/DÉ DÉ MOUSE & TANUKI

配信シングル「Neon Lightの夜 feat.一十三十一」/DÉ DÉ MOUSE & TANUKI

DÉ DÉ MOUSETANUKIが「オリジナルのフューチャーファンクを作ること」を掲げて完成させた楽曲は、どこかの誰かに仮想敵に仕立て上げられ、今や朧げな記憶だけを残す“夜の街”を舞台に恋の駆け引きを描くナンバー。ドリーミーで物憂げな歌声、強炭酸の泡が弾け飛び、知らないはずの1980年代後半〜1990年代初頭へのノスタルジーを呼び覚ますレトロ感に満ち溢れたトラック、緻密な計算と音楽的文脈によって配置されたフェイクが甘やかな幻を一瞬で構築し、躍動させる快感には抗えない。YMCKがアートワークを8ビット化して制作したリリックビデオがローファイ感を増幅させる抜け目のなさまで完璧。

「SMK~サンマは目黒にかぎる
(feat.春風亭一之輔)」(’20)
/hy4_4yh

配信シングル「SMK~サンマは目黒にかぎる(feat.春風亭一之輔)」/hy4_4yh

配信シングル「SMK~サンマは目黒にかぎる(feat.春風亭一之輔)」/hy4_4yh

昨年たまたま聴いた一之輔師匠の『あくび指南』にブレイクビーツを感じたのはあながち間違いではなかったらしい。米津玄師の「死神」よりも早く古典落語を題材にし、末廣亭が舞台となるMVを制作した同曲。『目黒のさんま』のあらすじが伝わる親切なリリックを底抜けにポジディブなフロウで歌い上げるhy4_4yh、ヴィヴァルディの「季節」の「秋」が季節つながりでぶち込まれ、一之輔師匠の高座がサンプリングされた贅沢でポップなトラックのごた混ぜの賑やかさが体を縦ノリのフロアーに誘う。落語の究極のミニマリズムがラップミュージックと共鳴し、汗みどろのライブハウスの懐かしさを喚起する喜びがここにある。

「真景衰弱」(’20)/魚住英里奈

どうあっても体が千々になりそうな痛みを伴って歌うさまが、どれだけ離れていても鼻先に突きつけられるような切迫感とともに肌を突き刺すシンガーソングライターなのだろう。「歌舞伎町の女王」へのオマージュが織り交ぜられた歌詞、か細く震える儚いビブラート、弦の一本一本が重く、深く揺れるリフのループ、呼吸や瞬きすら躊躇う、血肉の混じった真摯さ。孤高を保ったまま誰かの孤独に寄り添う温かさ。“だろう”という推量形でしか綴れないのはライヴを観ることが叶わないうちに無期限の活動休止を発表したためなのだが、遠くない未来に世に出てくる人であることだけは確信している、確信できる人である。

「barbolla ばるぼら」(’07)/dip

「barbolla ばるぼら」収録アルバム『feu follet』/dip

「barbolla ばるぼら」収録アルバム『feu follet』/dip

アルバム『feu follet』の静謐な幕引きを担う「ばるぼら」。手塚治虫の同名漫画では表現のミューズに翻弄される作家の苦悩や恐怖、葛藤が歪んだ筆致で描かれたが、ギターそのものとの境目がしばしば融解するヤマジカズヒデ(Vo&Gu)の“ばるぼら”は果たして誰であったのだろうか? ワルツのリズムで弧を描きながら浮き沈みと消失を繰り返すメロディー、モラトリアムの少年を想起させる明度のヴォーカル、追憶の哀惜が滲む歌詞の詫びしさ、微睡と覚醒のあわいで重なり、揺蕩う巨大なギターの波がクライマックスからアウトロの無音によって結晶する寒色のカタルシスは、陽光できらめく水面を底から眺めるようにもの悲しく、清々しい。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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