古田新太と尾上右近がW主演を務める
異色ミュージカル『衛生』~リズム&
バキューム~の魅力を、企画の発案者
でもある古田が語る

W主演を務める古田新太と尾上右近(歌舞伎俳優で江戸浄瑠璃清元節の太夫)を筆頭に、六角精児、元宝塚の咲妃みゆ、NON STYLEの石田明、ともさかりえといった多彩な面々でぶっ飛んだ世界を届けるミュージカル『衛生』~リズム&バキューム~が、いよいよ2021年7月9日(金)に幕を開ける。注目の異才・福原充則が作・演出する、人間の業を音楽と笑いに包んでポップに描き出す異色ミュージカルだ。
都内某所で絶賛稽古中の古田を直撃し、稽古の様子や作品の魅力を語ってもらった。
ーー昭和30年代のある街で、し尿汲み取り業者「諸星衛生」を営む親子を軸に展開する本作品。稽古は順調ですか?
今のところ順調です。おいらは、もっと乱暴というか感覚的なのかなと思っていたんですけれど、福ちゃん(福原)の演出は思いのほか丁寧で、破綻がない。役の感情のことも言ってくれるから、みんなやりやすいんじゃないですか。面白いのは、出自が出るというんですかね。インディーズとメジャーの違いともいえるんですけど、猫背のおいらや六角(精児)さんと違って、梨園のけんけん(尾上右近)や元タカラジェンヌのゆうみちゃん(咲妃みゆ)は、背筋が伸びている(笑)。ゆうみちゃんが演じる麻子は、どん底の人生を送る役なのに、ヒドい目に遭っているシーンでも、なぜか高貴な匂いがしますから(笑)。おかげで、麻子に惚れる禎吉役のノンスタの石田くんが余計に可哀そうに見える。
古田新太
ーー麻子も禎吉も「諸星衛生」の従業員。一種の社内恋愛ですね。
そうそう。でも、麻子は人を信用できない人間になってしまっているから、うまい具合にはいかない。そこの2人のシーンがすごくチャーミングで、おいらやけんけん、六角さんのシーンが暴力的だけに、一服の清涼剤になってます。おいらは、石田くんの歌から始まるそのシーンが大好きで、稽古でそのシーンになると必ず拍手をするんですよ。石田くんには「ニヤニヤしながら拍手するのやめてください」って言われてますけど(笑)。
ーー古田さんが演じる「諸星衛生」の社長・良夫と、右近さんが演じるその息子の大(まさる)に対しては、どんな印象がありますか?
良夫のほうが大より打算的というか、理に適った悪党ですね。乱暴だけど、誰と付き合えば得、誰と付き合うと損、みたいな考え方ができて、手順も踏みたいタイプ。大はもっと感情的で、「ぶん殴った方が話が早いぜ」っていうタイプ。ただ、良夫に対するリスペクトはあるし、良夫も大のことを頼もしく思っている。2人は六角さん演じる地元の政治家と手を組んでのし上がっていくんですけれど、自分たち親子のことしか信用してない感じです。今は、けんけんに小劇場の演技パターンを教えているところです。「歌舞伎の見得じゃなくて“すしざんまいポーズ”でいいんだよ」とか、「セリフの語尾を収めなくていいんだよ」「破綻したままでいいんだよ」って。
ーー今回の企画は、2015年に舞台の仕事で一緒になった古田さんと福原さんが、「人間の業を描くものをやりたい」「人間の汚い部分を描きたい」と話したことから始まっているとか?
そう。2人でまた別パターンの芝居をやりたいねという話になって。その時やった、ありものの曲を使った音楽劇で脚本を担当していた福ちゃんが、次は僕が演出もやりたいですって言うから、だったら新しい戯曲を福ちゃんが書き下ろして、誰かに曲を作ってもらって、ミュージカルにしようぜ、と。そんな感じで始まりました。
ーー水野良樹さん(いきものがかり)と益田トッシュさんが手がける音楽は、どんな雰囲気なのでしょう?
福ちゃんが書くヒドい歌詞が「いきものがかり」みたいな音楽に乗っかったらいいなと思って、水野に諸星親子のテーマ曲を頼んだら、水野がこっちに寄ってきちゃって(笑)。おいらは(吉岡)聖恵が歌いそうな曲を歌いたかったのに、えっ!? と思うくらいブラックミュージックっぽい後ノリな感じの曲になってます。しかも、もう1曲は六角さんとのデュエット。福ちゃんは、それがぜひ見たかったらしくて大喜びしてますけど、なんで六角さんとおいらのデュエットやねん! っていう(笑)。 ほかにも、トッシュが書いたロック調の曲とか、スカっぽい曲とか、いろいろありますよ。
古田新太
ーー多彩なナンバーの中で、古田さんのお気に入りを1曲挙げるとしたら?
し尿の歴史を歌う、初っぱなの曲かな。昔は作物の肥料として役立っていたウンコが、戦後GHQに怒られて畑に撒けなくなって、単なるウンコとして処理しなきゃいけなくなり、汲み取り屋さんができて……っていう歌で、(新良)エツ子ちゃんの歌唱も含めて、非常に良い出来です。
ーーそういうことを音楽に乗せて一気にポップに説明できるのは、ミュージカルならではですよね。そもそも、どういった経緯で糞尿の話をやろうと?
簡単にいうと、下ネタがやりたかったんです。性欲の話はリーダー(河原雅彦)とか宮藤(官九郎)とかと結構やっているんですけど、糞尿モノはやってないから、やりたいなって。そこから「バキュームカーの世界って面白いらしいですよ」という話になって、それにおいらと福ちゃんが食いついた。ちょっと調べてみたら、昭和30年代って面白いんです。まだ下水道は発達していないし、田舎へ行けば普通に夜這いの風習が残っていたり。敗戦のショックから立ち上ろうと、田舎の人も都会の人もむちゃくちゃ頑張っていた時代なんだけれど、機能としては発展途上国で、先進国になるぞというマンパワーをすごく感じる。「先進国に俺はなる!」みたいな(笑)。
ーーなるほど。諸星親子は、そういう時代のダークサイドを凝縮した存在ともいえそうですね。脚本を読むと、今に通じることも色々あって、それこそ、変わりようのない人間の業を感じます。
これは前からよく言っていることなんですけど、おいらは、そういう人間の業とか汚い部分を隠す必要はないと思っていて。そこも込みで人間で、切り離せるもんじゃないですから。そもそもみんな、ウンコするでしょ?(笑) そこを羞恥する気持ちもわからなくもないですが、基本的に子どもはみんな、ウンコの話が大好きだし。みんな教科書にウンコの絵を描いたことがあるでしょ? そういう無邪気な気持ちを忘れないでね、って言いたいですね。ファンタジーとか、サイエンスフィクションが好きな人もいらっしゃるでしょうが、バキュームカーに馬乗りになって走るほうが面白いんじゃないかなとおいらは思うし、基本的には楽しい芝居にしたいと思ってますから。
古田新太
ーー福原さんによると、古田さんは企画段階では「観客を嫌な気持ちにさせたい」と話していたとか。それが「楽しい芝居に」になったのは、どういった心境の変化から?
去年があったからでしょうね。KERAさんと企んでいた芝居がコロナで中止になって、無観客で映像配信をしたんですけれども、打ちひしがれましたから。客がいないオモシロ演劇はなんと無意味なんだろうと思い知って。その後、「ねずみの三銃士」と「劇団☆新感線」で対面公演をやって、改めてお客さんの笑い声はいいなと思いました。そうなってくると、このご時世、ある意味命がけで来てくれるお客さんをどよーんとした気持ちで帰すのは忍びない。本当に嫌な気持ちにさせている場合じゃないなという気持ちになるんですよ。糞尿が嫌な人もいるだろうけど、せめて「くっだらねえなあ」「露悪的だね」って、笑って元気になってもらいたい。そういう心境です、今は。
ーー舞台はまさに、お客さんと一緒に作るものなのだなあと感じます。
ラストシーンにはぜひ期待してもらいたくて、今、作戦を練ってるところです。昭和30年代のノスタルジックな空気も味わってもらいつつ、このご時世だけに、元気出して行こう! よし頑張るぞ! みたいな気持ちになれる作品にしたいですから。とりあえず最後まで観たお客さんには、スカッとした気分で帰って欲しいなと思ってます。
ーー公演が楽しみです。ちなみに、古田さんのいちばんの業は何ですか?
やっぱり酒を飲むことかな。このコロナ禍で、おいらは街に出なくなったんです。なぜなら緊急事態宣言で、店で酒が飲めないから。ということは、おいらにとって、街に出る=酒を飲みに行くことなんだなと最近気がつきました(笑)。たぶん、この『衛生』が上演される頃には、店でお酒が飲めるようになっていて、赤坂の飲み屋さんも復活していると思うんですよね。そんな赤坂で、皆さんをお待ちしています!
古田新太
ヘアメイク:大宝みゆき
取材・文=岡﨑 香  撮影=池上夢貢

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