広瀬大地

広瀬大地

【広瀬大地 インタビュー】
儚くもあり、幸せな“今”を
『Embarking』に収めておきたかった

2019年8月より活動を開始した広瀬大地の2ndアルバム『Embarking』が完成した。前作アルバム『One and Only』(2020年4月発表)では、ひとりでの制作に向き合った孤独も詰め込まれていたが、今作では制作をともにする仲間との出会いによって、身軽でポジティブなパワーが放たれている。新たなフェーズに向かっていく期待感と、先が見えないコロナ禍で感じるジレンマ、アルバムとして聴いた時のドラマチックなストーリー性や、サウンド面での挑戦など、多角的に“今の広瀬大地”を感じられる渾身の一作だ。

たくさんの仲間と出会い
自分の好きな音楽を追求できた

前作アルバム『One and Only』のリリース時に“単独で全てを制作するというチャレンジと、それに付随して発生する孤独と徹底的に向き合いました”とコメントされていましたが、今作『Embarking』はサウンド含め、身軽で開けている印象を受けました。

『One and Only』は本当に何もないところから始まったので、“なんとか世の中にパンチを与えないと”という想いが強く、音圧もギリギリまで突っ込んで派手に作り込んでいて、とにかくギラついたアルバムでした。毎月配信リリースを掲げて曲作りをし続けていたので、プレッシャーも感じていたと思います。

今作ではどんな変化がありましたか?

結果的には今回もほぼ全て単独で制作することになったのですが、『One and Only』を通して、サポートをしていただけるたくさんの仲間と出会ったことがサウンドにもかなり影響していると思います。今までよりさらに楽に音楽を楽しむことができる状況になり、自分の好きな音楽を追求できたんです。その肩の力の抜けがサウンドの身軽さにもつながっているんじゃないかなと。

先ほど述べた“身軽で開けている”という印象は、M1「Embarking」から受けた部分が大きいです。《恐怖なんて考えらんないような 力強い風が吹いている》というフレーズもあり、期待に胸を膨らませる様子が描かれていて。

「Embarking」はアルバム制作のきっかけになった曲なんです。前作を作り終え、次のアルバムをどのようにするか考えていた時に、ふと浮かんだものがベースになっています。この曲の制作中に上京プランが立ち上がり、制作終了直後に上京することになるのですが、生活の変化や周りの環境の変化に胸が膨らむばかりだった僕の心情を表現しました。僕の人生はいつも音楽に導かれていると感じていて、「Embarking」もまた新たな人生のひと幕を開いてくれたので、背中を押される感じを盛り込みました。

ポップなサウンドも相まって、よりいっそう新しい場所へ連れ出してくれるように感じます。

これはアルバム全体を通して80’sリバイバル的な懐かしいディスコサウンドを軸にしながら、今の時代の新たな表現を模索しています。例えば、リズムマシンやシンセサイザーは当時のサウンドでよく使われているものを利用しながら、ミックスやマスタリングで現代のサウンドを目指し、そのかけ合わせで今の僕にしか出せない音を狙いました。作曲からマスタリングまで一貫して自分で手がけているからこそできた技だとも思っています。

広瀬さんは“ブルースやファンクを日本語ポップスとしてどこまで表現できるか?”という挑戦も掲げていますが、ご自身が思うポップスの魅力とは?

“ポピュラー音楽”という言葉から来ている通り、ポップスジャンルではアートとポピュラリティー…つまり、芸術性と大衆性のバランスが極めて大切であり、そのバランスの取り方にさまざまな個性が表れることがとても魅力的だと思ってます。言ってしまえば、どんなジャンルでも大衆性を取り入れ、大衆に受け入れられるものとして仕上げれば、ポップスだと思うんです。その中で、ブルースやファンクをポップスとしてどのように大衆性を帯びさせ、たくさんの人へ届けるかということを強く意識しています。

サウンドや歌声然り、広瀬さんの音楽はハネ感や弾みも大切にされている印象がありますが、ご自身ではいかがですか?

ハネ感はとても大切にしていますね。高低・強弱・長さと3つの音の要素がある中で、いわゆる“歌がうまい”という表現は高低の要素が強いと思うんですけど、僕の中ではリズムこそが全てだと思っているくらい、音の長さを大切に考えています。コンマ数秒の入り際や、切り際のタイミングで印象が大きく変わるので、この研究はやめられないです。

例えばM6「Scared To Leave」のような葛藤を歌っている歌詞でも、サウンドと歌声に弾みがあることで、自然と励まされるような気持ちになるのが魅力的でした。

どんな楽曲でも必ず“この楽曲を聴いた人に少しでも元気をあげられるか?”ということを意識しています。「Scared To Leave」は確かに葛藤を歌っており、もっと言えば“怖くて一歩を踏み出せない”という一聴してネガティブにもとらえられる内容かもしれません。でも、僕はこの楽曲を通して“踏み出せない時もあっていい”という肯定を伝えたかったんです。言葉の裏にある複雑な感情を伝えられることが音楽の魅力だと思っています。

曲順が前後しますが、M2「Stand By Me」はさわやかで、バラードのやわらかさも感じられるメロディーが素敵でした。《君がいる限り》と歌う歌詞には今までの楽曲にはない確信めいた気持ちが表れていますが、どんな想いで作った楽曲なのでしょうか?

先程のポップスの魅力の話で言うと、「Stand By Me」はこのアルバムの中で一番大衆性にこだわった曲でもあります。アルバムにはたくさんの人に愛してもらえるような美しい楽曲を一曲は入れなければいけないと思っていて、そういう想いから“どれだけ美しいメロディーを歌えるか?”“前向きなメッセージを書けるか?”ということは強く意識していました。

この曲で“君”と表現しているのは、身近な人のことかもしれないし、もしかしたら広瀬さんにとっての音楽のことを歌っている楽曲なのかなと感じたりもしました。

“君”は僕にとって大切な身近の人でもあり、おっしゃる通り僕にとっての音楽でもあります。抽象性を帯びているからこそ、聴く人によってさまざまな対象を浮かべることができるのが音楽の好きなところのひとつだと思っていて、歌詞を書く時も五感を感じさせながら余白を残すことを意識しています。そこはまだまだチャレンジしていきたい部分ですね。
広瀬大地
広瀬大地
アルバム『Embarking』

OKMusic編集部

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