Argonavis×GYROAXIA 富士急に両バ
ンドが響かせた「何処までも誠実に、
何者かになるためのメロディたち」

2021.5.30(Sun)『ARGONAVIS LIVE 2021 JUNCTION A-G』@富士急ハイランドコニファーフォレスト
ARGONAVIS from BanG Dream!からArgonavisとGYROAXIAが出演するライブ『ARGONAVIS LIVE 2021 JUNCTION A-G』が富士急ハイランドコニファーフォレストで開催された。
ARGONAVISプロジェクトとしては初となる野外ライブ。本公演は有料配信も行われていたのだが、初の野外に彼らの音楽がどう響いているのか体験しなければならない、と今回レポートのために富士急に向かった。
現地は晴天に恵まれ、暑いくらいの陽気。富士の裾野では遠く蝉の声も聞こえ、そよぐ風も気持ち良い最高のコンディションとなった。
少しずつ日が傾きだした17時、会場アナウンスと共に渾身のライブはスタートした。爆音のSEと共に登場したのはGYROAXIA。開幕、小笠原 仁が演じる旭 那由多が「かかってこい富士急!」と雄叫び、そして繰り出されたのは「MANIFESTO」。屋外ということもあって遠慮のない轟音だ。
GYROAXIA
続いて披露された「SCATTER」「GETTING HIGH」はラウドながらもメロディアスに展開される。発声禁止ながらも強く手を叩き、曲に合わせて飛び跳ねる観客も最初からトップギアだ。
今回のライブ全体の総括になるかもしれないが、兎に角演奏のレベルアップが著しかった。元々のレベルもこのプロジェクトのために動き出したバンドとは思えないものなのだが、今回は特に声優である真野拓実が演じる美園礼音と、俳優でもある橋本真一が演じる里塚賢汰のギターの安定感は驚きを感じるものだった。
では他のメンバーはどうなのか? 元々ドラマーとしての実績が高い宮内告典が演じる界川深幸と秋谷啓斗が演じる曙 涼の分厚いリズム隊無しではGYROAXIAのハードな楽曲たちは大前提として成り立たない。誰が劣っているのではない、全体のバンドとしてのレベルがぐんと上がっているのだ。
それは対するArgonavisもそうだ、GYROAXIA、Argonavis共に退場と入場のときに一人ずつ思いを語る演出をブリッジにしてのバンド交代。通常の対バンのように持ち曲をやりきって交代するのではなく、三曲でチェンジしていく演出には驚いた。音響も照明も昔と違ってプログラミング出来る時代とはいえ、頻繁にバンドチェンジするのは各セクションも大変なはず。それでもこの演出で行こう! という全スタッフからのコンテンツへの愛も感じることができた。
Argonavisのターンは、伊藤昌弘演じる七星 蓮の抜けるような歌声の「Stand by me!!」からスタート。GYROAXIAに比べてポップネスな楽曲の印象があるArgonavisだが、ドラムはその分とてもテクニカルに聞こえる。橋本祥平演じる白石万浬はそれを叩きこなす。日向大輔が演じる五稜結人のソロパートも、晴れ空に溶け合うように響き渡る。
Argonavis
メンバー紹介を挟んで「What-if Wonderland!!」「Steady Goes!」と立て続けに展開される楽曲たち、以前インタビューで伊藤と小笠原が「演じるキャラクターと自分の中に溶け出してきた」と語っていたが、この日のステージでは確かにそれを感じられた。
以前見たARGONAVIS 3rd LIVE『CROSSING』では演者にキャラクターが染み出してくるような感覚を感じながら観覧したが、今回はそのさらに先にあるものを感じられた。
モニターではなく肉眼で彼らを観ると、そこにいるのはキャラクターにしか見えないのだ。勿論衣装や髪型など、演者はキャラクターに近いものになっているのだろうが、魂がそのものでしかない、とでもいうのだろうか。
次のパートでのGYROAXIA「GET MYSELF」「IGNITION」「FAR AWAY」でもそれは強く感じられた。旭のシリアスな目線と歌声、里塚のクールな表情でのギターソロ、それらを余裕のような微笑みで支える美園、確かなバンドとしてのグルーヴがステージ上にあった。
ライブの内容の対比も見事だった、Argonavisの次のターンは「AGAIN」からスタート。Argonavisのメンバーは演奏中もコミュニケーションを多く取り、微笑み合うこともあるが、GYROAXIAは最低限のアイコンタクトのみで、演奏で背中を支えつづける形。交互に野外の大舞台に挑む姿勢をまさにジャンクション(立体交差)に見せてくる構成は見事だった。
七星が「みなさん楽しんでますか? ここで一緒に手拍子をお願いします!」とクラップを要求、客席が手を高く上げ手を叩くのを前奏曲として始まったのは「Starry Line」。曲が始まった瞬間に薄曇りの雲から暮れかけた太陽が姿を表す。まるで彼らの道行きを照らすような光の中で、七星 蓮でありながら伊藤昌弘でもあるその溶けあうような声は柔らかくも芯がある。
5月26日に発売されたばかりの新譜から披露された「Y」は優しくも少しだけ切なさを感じさせるロマンチックな楽曲。森嶋秀太演じる桔梗凛生の鍵盤の音も軽やかだ。
前田誠二演じる的場航海から、GYROAXIAのリーダーである兄、里塚賢汰への強い思いを込めたMCから、その里塚から最強のバンドである決意の言葉「俺たちはさらなる高みへ向かう」の決意表明。新曲である「BREAK IT DOWN」でのダークでヘビーなサウンドにはそれを言うだけの強さを感じる。あそこにいるのはGYROAXIAのボーカル、旭那由多なのだ。
演者にキャラが溶け出していると言うより、そこにいるのはキャラクターそのもので、その隙間に演者のパーソナルがにじみ出ているような感覚。キャラクターを背負うライブのある意味での完成形に近づいているモノを見た気がする。
どんなインディーズバンドでも、海外の大物でも、ステージには全てがさらけ出される。ここに至るまでの道程も思いを、喜びも悲しみも悔しさも栄光も全てがステージに立つ足を支えるものだ。彼らの言葉を聞かなくても、ARGONAVISプロジェクトのステージは彼らの努力と試行錯誤が見える、だから次が見たくなる。進化を感じられるのは観客に与えられた喜びだ。
続く「LIAR」ではソリッドに歌い上げ、美園が「お前らーっ!拳上げろ!!!」と叫び、「WORLD IS MINE」へと、息を切らせた旭がMCで語ったのはほんの一言。
「次で最後だ、この曲をお前らの人生に刻みつける」
GYROAXIAの最後のターンは先述の「BREAK IT DOWN」と共に7月に発売される「WITHOUT ME」。壮大なメロディと共にメロディは観客の心にどう突き刺さったのだろうか。
歌い終わり、天に指を突き上げた旭は「こいよ七星、お前の音楽聴かせてみろ」と一言だけ残しステージを去る。
挑戦を受けたArgonavisは、七星はどんな言葉で返すのだろうか? 期待の先で彼らが選んだのはアカペラからの「ゴールライン」だ。
Argonavisの始まりであるこの曲は「いつか見た希望にはたどり着いたかい?」という言葉から始まる。自分に、そして見ているファンたちに、この曲を耳にする全ての人に届けようとする歌は今の彼らが奏でるからこその説得力がある。
「今がゴールじゃない、終わりはまだ見えない」と天の向こうにまで響かせるような七星の声がコニファーフォレストの隅々まで届く。確かに積み上げてきた、でもまだここからという意思表示のようだ。
TVアニメ『アルゴナビス from BanG Dream!』の主題歌である「星がはじまる」はアニメOP映像を背負っての演奏、見比べても本当に存在が同じように見えてくるのが不思議でもあり、必然でもあるように思う。「VOICE」では5人の声がリレーのように繋がっていく。
「GYROAXIAのライブ、凄かった……那由多くんは本当に凄いな……何度も彼らとぶつかって、僕らはここまで成長できました、でも憧れてばかりじゃだめだ…これは僕たちの覚悟です!」
シンガーとしてのキャリアは伊藤のほうが小笠原よりも長いのだが、七星 蓮としてそれを語る言葉には嘘偽りは感じられない。最後の曲「JUNCTION」はArgonavisの楽曲としてはハードなメロディの一曲。まさにGYROAXIAに挑むという思いを感じるパフォーマンスはパワフルで新たな一面を見るようだった。
アンコール響く中プロジェクトの新情報の発表をはさみ、登場したのはキャラではなく「演者」たち。伊藤と小笠原が仲良く肩を組みながらにこやかに登場すると、ほんの少しだけホッとするような気持ちになる。
リハーサル時はどしゃぶりでレインコートを着て熱唱したというエピソードを楽しげに語ったり、本当に全員が仲が良いのも伝わってくる。全員がお礼を述べる中で、印象的だったのが小笠原が語った「誠実にステージに立ちたい」という言葉。二次元で生まれたキャラクターたちを三次元に落とし込むという部分に対して、誰しもが思うことを大事な初野外の最後で表明したことは真摯な態度だと思った。そしてこれはプロジェクトに関わる全ての人間の思いの代弁なのだろう。
最後に挨拶を担った伊藤が感慨深そうに語った「何者かになりたいとずっと思っていた」というのは偽らない本当の言葉だったのだろう。「何者かになる」というのはとても抽象的で、とても遠いもののような気がする。何をすれば何者かなのか? その答えは多分それぞれの中にしかないのだろう。最後に両バンドが一緒に奏でた「STARTING OVER」には一つの大きなライブをやりきった男たちの喜びが満ち溢れていた。
さっきまでの両バンドの緊張感は太陽とともにこの地を去り、音楽を奏でる楽しさをまっすぐに伝えてくる姿があった。最後打ち上げられた花火はその祝福の号砲のように見えた。そうして緊張と熱狂と興奮の中二組の交差点は終幕を迎えた。観客は皆満ち足りた表情だったことが印象深い。
キャラクターと共に、何処までも誠実に、何者かになるために、コンテンツを高みに運ぶために歌う。
ARGONAVISプロジェクトはとても難しいことをして、とても難しい場所を目指しているのかもしれない。でも、いつだって人を動かすのは誰かの本気と、情熱と、今を越えていきたいという欲求だ。それが確かに富士急のステージ上にはあった。それだけは間違いないリアルだ。
レポート・文=加東岳史

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