声優・日野聡にインタビュー 音声ガ
イドを担当する『イサム・ノグチ 発
見の道』の見どころとは

2021年4月24日(土)から8月29日(日)まで、東京都美術館にて『イサム・ノグチ 発見の道』が開催される。本展の音声ガイドナビゲーターを担当するのは、『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎や『愛の不時着』のヒョンビン(リ・ジョンヒョク役)の吹き替えなどで活躍する、声優・日野聡だ。

イサム・ノグチ(1904-1988)は、彫刻や家具・照明デザインなど、様々な分野で活躍した芸術家。形態を単純化した作風は抽象彫刻の分野に大きなインパクトを残しており、20世紀の芸術を語る上で欠かすことのできない存在である。また、代表作のひとつである和紙を使った《あかり》シリーズなど、今なお多くのファンを魅了しており、本展は、彼が生み出した作品を国内外から集め、その魅力に迫るものだ。
イサム・ノグチという人物、そして展覧会への思いを尋ねるべく、音声ガイドのレコーディングを終えたばかりの日野に話を訊いた。
『イサム・ノグチ 発見の道』
一歩を踏み出すきっかけになれたら
——日野さんは、音声ガイドへの出演は今回が初めてでしょうか?
美術館での音声ガイドは初めて担当させていただきました。ゲームやアニメーションのガイドはキャラクターを通してやらせていただいたことはありますが、日野聡個人としては初めてですね。
——普段は美術館へはよく行かれますか?
普段はですねえ……行きたいなあとは思うのですが、行けてないんですよ。展覧会のテレビCMを見たときなど「あ、なんだかちょっと高尚なものに触れたいな」と思う瞬間はあるんですけど、なかなか敷居が高いなと思ってしまう自分もいて、一歩踏み出せないことも多いんですよね。
——日野さんのように、美術館に対して「敷居が高い」と感じる方もいらっしゃると思います。
僕自身も同じように思っていた一人です(笑)。だからこそ、皆さまと分かり合える部分もあると思います。今回の音声ガイドでは、緊張せずリラックスしていただけるように、自然体で楽しむことのできる空間が作れるように、収録に取り組みましたので、ぜひまったりとした気持ちで、会場の空気を楽しんでいただけたらと思っています。
——これまでに展覧会の音声ガイドを利用したことはありますか?
ええ、あります! 上野で開催されていた『モネ展』へ行ったときに。展覧会では作品にキャプションが付いていますが、そこに書かれている文字だけでは分からない背景や、そこに込められた意図が音声ガイドを通してより明確に分かったので、倍楽しむことができましたね。
イサム・ノグチ 《プレイスカルプチュア》 1965-80年頃、鋼鉄 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)での展示風景。本展では新規制作して展示(茨城放送蔵)。 Photo:Nicholas Knight (c)2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
“存在の力”へのリスペクト
——イサム・ノグチについて、どのような人物だと感じられますか?
イサム・ノグチさんは芸術と向き合うなかで、作り込んだものではなく、物質そのものが持つエネルギーや存在の輝きというものを、一番に考えているように思います。そしてそれをどう新たに見せられるのか? という模索を続けていた。芸術家として強い信念を持つ格好良さと探究心の強い方だなと、今回のナレーションを通して強く心に残りましたね。
——収録を経て、作家に対する思いに変化があれば、お聞かせください。
イサム・ノグチさんに限らず、芸術家の方々は高尚なイメージがあるので、初めは遠い存在のように思っていたんです。だけどイサム・ノグチさんの生い立ちや人柄などを追っていくにつれて、やっぱりある部分で人はみんな一緒で、感じるものも一緒なんだなと……。「身近」とはまた違うのですが、彼の人柄や芸術家としての生き様に共感しましたし、すごく距離が縮まった気がします。こういう貴重な経験をさせていただいたことに感謝しています。
——共感する部分とは、具体的にどんなところでしょう?
素材の持つエネルギー、存在の力を大切にしているところには、ものすごく共感します。僕自身の仕事も、アニメなら原作、海外ドラマの吹き替えなら元の演者さんの存在があり、そこへ「日本語の音声」という色を足していくことで、一つの作品が形作られていきます。アニメーションの場合はアニメーターさんほか多くの方々の力が集結して出来上がっていますし、実写では俳優さんだけでなくカメラマンさん、シナリオライターさん、現地での撮影協力など多くの方々の力をお借りして作られていきます。そういう意味では元の素材をどう活かすか、そしてその素材を多くの方々の力をお借りしてどのように作り込んでいくかという行程も、近しいものを感じましたね。
——イサム・ノグチの作品には、どんな魅力を感じますか?
イサム・ノグチさんの作り出したものには、温かみのある作品が多いなと感じました。あと、和の持つ繊細な要素も強く取り入れられているので、日本人はより一層彼の世界に入っていきやすいのではないでしょうか。
「AKARI CLOUD」インスタレーション イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)での展示風景(2018-19年) Photo:Nicholas Knight (c)The Noguchi Museum /ARS
ゆるりと回遊する空気感を楽しんで
——いよいよ開幕を目前に控えた『イサム・ノグチ 発見の道』ですが、見どころは? 日野さん自身が気になる作品も教えてください。
この展覧会は順路が決まっていないんですよね。ルートがなく、自分の見たいところから自由に楽しめるというのが特徴で、そこがまた見どころの一つだと思います。僕個人としては《あかり》という作品が非常に気になっていて、今回はその展示の間を歩けるというのも大きなポイントなのかなと思いますね。写真や映像ではなく直接鑑賞することで印象ってものすごく変わるので、ぜひ会場でその空気感を味わっていただけたらいいなと思っています。
——音声ガイドを通じて、さらにどんな楽しさや魅力を伝えたいですか?
イサム・ノグチさん自身の生き様や作品はもちろんですが、今回はイサム・ノグチさんと関わった方たちが彼のことをどう見ていたかなどもお話ししてくださっており、僕はそれを音声ガイドで代読させていただいています。そういったところも楽しんでいただけるポイントではないでしょうか。
——最後に、本展を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
僕なりに、この音声ガイドを通してイサム・ノグチさんの芸術家としてのあり方・生き方、作品の魅力というものを多くの方へ届けられるように収録に臨みました。イサム・ノグチさんのファンの方はもちろん、今回初めてこういう展覧会に足を運んでいただく方にも楽しんでもらえるような、そんな内容となっています。緊張せず、ゆったり楽しむ気持ちで足を運んでいただけたら嬉しいです。
芸術家イサム・ノグチの足跡を辿る、注目の展覧会『イサム・ノグチ 発見の道』。耳元で日野のリードを受けながら会場を巡ることができる音声ガイドは、1台600円(税込)で利用可能。2021年4月24日(土)から8月29日(日)までの会期中に、ぜひ体験してほしい。

文=小杉美香 写真=オフィシャル提供

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