林原めぐみ

林原めぐみ

“ふと降りてきた”と言っても
練っている時間はある

ナレーションのお仕事をしながら、歌やステージ上での見せ方について考えることがあるのも今までの林原さんのご活動があるからこそですよね。今のお話のように声優業と音楽業、最初は違うものだったことに向き合う中で、ご自身にどんな影響を与えていると思いますか?

何よりも大きいのは人との出会いですね。アルバム『Perfume』(1992年8月発表)のジャケット撮影の時に白いリボンをつけるように言われて、私は“嫌だ”って言ったんですけど、“要求に正確に答えていくのもひとつの役作りだし、仕事じゃないのか?”と言われて、“確かに”と納得したり。撮影がなければ出会えなかったメイクさんやスタイリストさん、カメラマンさんの仕事っぷりを見ながら、結局は何を作るにしても大事なのは人間力だと思うんです。だから、異業種の人とのかかわりはすごく力になりました。こんなに頑張って写真を撮ってくれているのに、こんなに頑張って音楽を作ってくれているのに、私が台無しにしちゃいけないっていう想いが強くなりましたね。

林原さんの幅広い活動によって“声優アーティスト”というひとつのジャンルが生まれ、今はアニメと声優はセットで広まりますし、声優アーティストを夢とする人もたくさんいますが、林原さんにはこの現状がどう映っていますか?

声優アーティストに限らず、今後いろんなものが細分化されていくと思ってます。ひとつひとつの文化がものすごい濁流の中にあって、最終的に残るのはジャンルではなく、人なんだろうなと。声優アーティストが100人いたところで、それはジャンルでしかなくて、ジャンルが確立されたのはまごうことなき事実だけど、その濁流の中でどうなっていくのかは自分次第というか。

“個々の力でいかに埋もれずにやっていくか”が重要になるのでしょうか?

私は“埋もれないように”とは思ってなくて、目の前のことで手がいっぱいだったから、とにかく与えられたものにちゃんと応える…自分で“ちゃんと”って思ってるうちは、まだ結構浅かったりもするんですけど。何十年も前に、次の日がレコーディングって時に友達が家に泊まりに来たことがあって、鍵盤を叩きながら“この音が外れちゃうんだよな”とずっと鍵盤をいじっていたら、その子に“わざわざそんなこともしてたの!?”って言われて。私がもらったものをパッと見て歌っていると思っていたみたいなんです。でも、実際はデモテープがきたら100回以上、自分の身体に叩き込むくらい聴くし、歌詞をつけるのに“ふと降りてきた”とは言っても、本当に降りてくるわけではなくて、それまでに日常生活の中でもいろいろ見て、経験して、考察して、練っている時間はあるわけで。その時間をなかったことにして華々しく出てくる声優アーティストだけを見て“自分もなりたい”って思っちゃうと、溺れちゃうかもしれないですね。白い粘土を渡されて“何かを作れ”って言われても、一日でコロッセウムみたいなものを作れるわけではないでしょ?(笑) “何を作ろう?”から始まって、煉って、水入れて、色づけをしていって、たぶんその工程を楽しめる人が残るんだと思います。“なんでこんなことしなきゃいけないの?”“売れたい!”とか“生き残りたい”って気持ちじゃなく、“どうしたらこの作品に寄り添えるか?”と。寄り添えば寄り添うほど、聴いている人にも共鳴するだろうし、売れることを目指して、アニメの展開を置き去りになってしまったら、お客さんは引いちゃうしね。“ちゃんと真剣に、大切に味わって、苦労も楽しんで取り組んでさえいれば”と言いたいです。

OKMusic編集部

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