[Alexandros]川上洋平、イモージェン
・プーツ主演のラビリンス・スリラー
『ビバリウム』について語る【映画連
載:ポップコーン、バター多めで P
ART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、大ファンであるイモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグがマイホームを夢見るカップルを演じ、異世界のような住宅地から抜け出せなくなるラビリンス・スリラー『ビバリウム』について語ります。
『ビバリウム』
僕は大好きでしたね。まず、僕が主演のイモージェン・プーツの大ファンっていうのはあって。「Claw」の歌詞にも登場してますけど(笑)。イモージェン・プーツ扮するジェマとジェシー・アイゼンバーグ扮するトムのカップルがマイホームを探すために不動産屋を訪ねて、その不動産屋のマーティンの表情がCGかと思うくらい人形みたいなんですね。そこからして不気味ですぐに引き込まれました。ジェマとトムはマーティンに連れられて、ヨンダーっていう同じ家がたくさん並ぶ住宅地に見学に行く。そこで9番って書かれた家に案内されるんですけど、そこでマーティンがいなくなって、そこからジェマとトムはヨンダーから抜け出せなくなります。車で来た道を戻っても、他の家の柵を越えていくら先に進んでもいつの間にか9番に戻ってしまう。それで屋根に「HELP」って書いたり、家に火をつけたりするんだけど、何をしても抜け出せないっていう。かなりキツい状況ですよね。でもイモージェン・プーツとふたりきりになれるなら全然いいかも。「ジェシー・アイゼンバーグ羨ましいな」って思っちゃいました(笑)。
『ビバリウム』より
■子供の声がすごく低かったり、謎の映像をずっと観てるのも怖い
やがて段ボールに入った赤ん坊が届けられて、「育てれば解放される」って書いてあるから仕方なく育てるんですよね。その子供がすごいスピードで育っていくんですけど、声が遅回しになってるのか、すごく低くて不気味。テレビには謎の模様みたいな映像がひたすら流れてて、それを子供がずっと観てるのも怖かったです。
加工食品と生活必需品も段ボールで届けられ始めて、その中にあったいちごを食べた瞬間に「味がしない」って言うんですけど、そのシーンが好きでした。「どんな味なんだろう」って気になったし、味がしないごはんを食べるただ空腹を満たすための食事を延々と続けていく。それでもって気味の悪い子供と一緒に食べなきゃいけないのもおもしろい。
ロルカン・フィネガン監督のインタビューを読むと、「マーティンと子供は宇宙人かはわからないけど人間ではない」って話してて。映画の冒頭に、他の鳥の巣に卵を産んで代理親にそれを孵化させるカッコーの習性の映像が流れる。だから、謎の子供を育てる代理親がヨンダーっていう巣に閉じ込められたトムとジェマっていうことですよね。ぞっとしました。
『ビバリウム』より
■いろんな側面から掘り下げられるけど、単純なホラー映画としても楽しめる
だんだんジェマに子供に対する愛着が湧いてきて、そこからその異世界に慣れ始めた感じがした。でもトムはそんなことはなくて。あの描写には、夫婦間の育児に関する問題提起を感じました。あと、ローンを返済するために1日中働いて夢だったマイホームが結局寝に帰るだけの場所になってしまうっていうことや、ローン地獄に苦しむ若いカップルのことも風刺してるって書かれてるサイトもあって「なるほどな」と。
結婚して家を買って子供を産むっていう人生が必ずしも幸せなのか?っていうことも問うている気がして、独身貴族の僕としては「でしょ!?」って勢いよく言えるような(笑)。「幸せの価値観は人それぞれで良くない?」って言ってくれてるような映画でもあります。そうやっていろんな側面から掘り下げることはできるんだけど、単純なホラー映画としてもすごく楽しめました。
ヨンダーのビジュアルも良いですよね。ヨンダーって名前も、ミントグリーンの家もどこか北欧っぽいかわいさがあって。でもその不気味な異次元空間から逃げられない。監督は『トワイライト・ゾーン』やデヴィッド・リンチを意識したみたいですけど、日本でいうと『世にも奇妙な物語』って感じですよね。あと、ルネ・マグリットからインスピレーションを得たっていうのもすごくよくわかる。空とか家とか、人さえもシュールな絵に見えました。
『ビバリウム』より
■加工食品が定期的に届けられる恐怖を今まさに味わってる
加工食品が定期的に届けられるのは、便利だけど恐怖も感じますよね。僕は今まさにその気分を味わってます(笑)。コロナ禍になってから約一年、ほぼ毎日Uber Eatsを使って食事をしているんですけど、僕が帰宅する時間になると選択肢が結構少なくて、大体同じメンツなんですよね。「またおまえか」みたいな(笑)。だからもう飽きていて。あと、写真で見るとすごくおいしそうなんだけど、結局味気ない容器で運ばれてきて、若干冷めてるわけで、それを温め直すのも電子レンジだし。ドアの前にポンと置かれたものを一年間食べ続けていると、餌を食べてるような感覚になってきて。そのただ生きるために食べるっていう感覚は『ビバリウム』に近いなって思いました。だから、結婚っていいなって思っちゃってます(笑)。もし結婚したら家事は分担制にして、僕は料理するのが苦手なのでそれ以外の掃除とかを担当して、できれば相手には食事を担当してもらいたいんですよね。
『ビバリウム』を観て、子供を持つっていうことに対する恐怖は芽生えました(笑)。ジェマは最後まで正気だったし、いろんなものを守ろうとしたし、裏切ろうとはしなかった。だから自分が選んだパートナーは信頼できるなって思ったんだけど、『ビバリウム』の子供は本当に怖かった。
『ビバリウム』より
■こういうタイプのジェシー・アイゼンバーグの演技は好きです
主演ふたりのカップリングも良かったですね。イモージェン・プーツは最初、『フライトナイト/恐怖の夜』っていうコリン・ファレル主演のヴァンパイアの映画を観て知ったんですけど、めちゃくちゃかわいくてファンになりました。映画は全然おもしろくなかったんですけど(笑)。
ジェシー・アイゼンバーグは早口な喋り方が印象に残ることが多かったんだけど、今回は早口じゃないのも新鮮でした。ジェシーが出てる『嗤う分身』っていうブラックコメディの要素が入った映画があるんですけど、その作品のジェシーも狂気じみていて『ビバリウム』の役に近いなって。こういうタイプのジェシーの演技は好きですね。『嗤う分身』は僕の好きなミア・ワシコウスカも出てて良い雰囲気の映画なので、それもおすすめですね。

取材・文=小松香里

アーティスト

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着