嘘と毒と狂気が混ざり合う名作に松下
洸平、生駒里奈らが挑む! 舞台『カ
メレオンズ・リップ』が開幕

松下洸平が主演を務める舞台『カメレオンズ・リップ』が2021年4月2日(金)、東京・シアター1010にて開幕した。本作は、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の数々の戯曲の中から、選りすぐりの名作を、才気溢れる演出家たちが新たに創り上げるシリーズ、「KERA CROSS」の第三弾となる。
『カメレオンズ・リップ』は、2004年に堤真一、深津絵里などのキャストでBunkamura シアターコクーンにて初演され、話題となった作品。20世紀初頭あたり、ヨーロッパの古びた山の邸宅を舞台に、謎の死を遂げた姉に瓜二つの使用人エレンデイラと暮らす男ルーファス、そこに集ってくる亡き姉の夫ナイフ、元使用人ガラ、医師モーガン、姉の友人シャンプー、さらに女社長ビビ、軍人ハッケンブッシュが加わり、様々な人々がそれぞれに嘘をつき、騙し合い、事態を混乱させ、破綻してゆく……予測不可能のクライム・コメディだ。本作の演出を務めるのは河原雅彦、音楽に伊澤一葉東京事変the HIATUS)、キャストには、松下のほか、生駒里奈、ファーストサマーウイカ、坪倉由幸(我が家)、野口かおる、森 準人、シルビア・グラブ、そして岡本健一という強烈な個性と実力溢れる顔ぶれが一堂に会した。
初日直前に同劇場にてゲネプロ(通し稽古)が公開された。ネタバレに細心の注意を払いつつ、その模様を紹介する。
晴れた冬の日の午後。
ルーファス(松下)、エレンデイラ(生駒)がひっそり暮らす豪華な邸宅に望まれる客が次々と現れる。 今日は かつてここに住んでいたルーファスの姉ドナ(生駒<2役>)の命日なのだ。ドナの学生時代の友人シャンプー(野口)、ドナの夫ナイフ(岡本)と元はこの家の使用人ガラ(ウイカ)、そしてニ人を案内してきた地元の眼科医モーガン(森)。
ドナを知る人々は、 エレンデイラが彼女とそっくりであることに驚き、 恐怖する。
……生前、息をするように嘘をついたというドナ。そしてこの日、この家にやって来る人々もまた、それぞれに秘密を抱え、嘘をつき、何かしらの役割を演じていた。
さらに女社長ビビ(シルビア)、そして軍人ハッケンブッシュ(坪倉)が登場してから奇妙な現象が次々と起こり、何が真実で何が嘘なのか、どんどん分からなくなっていく。
ステージは、邸宅の室内と外庭、さらに邸宅に続く坂道がすべて目の前に露出しており、照明や役者の演技力でそれぞれの場面に切り替わる、上手な作り込みとなっていた。
その環境下で芝居を見せるキャスト陣だが、まず松下と生駒の姉弟の回想パートで見せる生駒に舌を巻いた。本人は至ってナチュラルに存在するのだが、目の奥が笑っていない狂気のようなものをにじませ、口からこぼれる言葉の数々に松下のみならずゾクっとしたものを感じさせていた。
同じく松下と生駒の現代パートでは、逆に姉に嘘の話術を仕込まれたルーファスが爽やかな笑顔で周りを手玉に取る……が、岡本&ウイカはじめ、次々を登場するキャラクターが皆それぞれに様々な秘密を抱え、嘘をついているので、誰の嘘から真実のほころびが生まれるのか、観ていてドキドキさせられた。
また、皆実力派だが、なかでもウイカの演技力に目を奪われた。最今の露出ぶりからバラエティタレントというイメージを勝手に持っていたが、実は劇団出身で堅実にキャリアを重ねてきた人物と知り、驚きと反省と共に今後もっと舞台での活躍を追いかけたいと思わせるパワーと魅力に包まれていた。

そして何より松下が魅せる存在感だ。松下は姉の嘘に翻弄されつつもむしろ翻弄されている状態をどこか楽しんでいるような複雑な弟心を垣間見せ、長じて自分が嘘をつく側になった時に姉のように自然かつ強気で立ち振る舞おうとする一方、嘘を突き通せるかと動揺する弱さも見せ、ルーファスという人物の様々な心情を丁寧に描いていた。

この日は一幕までの見学だったが、休憩に入ってからも一幕終盤に次々と起きる出来事に身震いが止まらなかった。最後まで観たいと思わせる毒と狂気を感じさせる作品だった。

キャスト コメント
(左から)生駒里奈、松下洸平、岡本健一
■松下洸平
稽古期間は、あっという間の1ヶ月でした。演出の河原さんが丁寧に演出して下さいました。
僕らは濃密な良い稽古の時間を過ごさせて頂いたので、あとはお客様がどんな反応をして下さるかを気にしながら、稽古通りにやるだけだなと思います。
今回、すごく多種多様なジャンルの方々が揃いまして、特に我が家の坪倉さんには癒されました。飄々とされていながら、稽古で凝り固まっていたところも、坪倉さんがいて下さると稽古場が明るくなってとても助けて頂きました。
ルーファスという役を演じるにあたり、初演の印象をどう払拭していくかが課題でしたが、日々稽古を重ね自分のルーファスを作っていくにあたり、生駒さんや岡本さんのお芝居を見ながら、だんだん自分でも思っていなかったルーファスが出来上がっていきました。ルーファスの人間らしさを引き出して頂いたのは、本当に共演の皆さんのお陰だなと思います。嘘が得意と豪語していながら一番嘘が下手というルーファスという存在を、どうやったら愛していただけるか、それをこの1ヶ月考えながら稽古をしていました。
KERA CROSSという企画はKERAさんが書かれた過去作品を、演出家とキャストを一新してお届けしていく企画ですが、
全く新しい『カメレオンズ・リップ』が完成したと思っています。
本当に個性あふれるキャストの皆さんと御一緒できて、僕も本当に幸せですし楽しいです。
■生駒里奈
日々のニュースを見ながら、公演ができるのかという不安を心のどこかに抱えつつ、
自分は新しいことへの挑戦で稽古場でも苦戦していたので、今こうして本番を迎えられたことを、本当に嬉しく、ありがたく思います。これからも感染対策をしっかりして、お客様にもご協力頂きつつ、作品を楽しむということを実践できたら良いなと思っています。
私が今まで演じさせて頂いてきた中でも一番と言っていいほど難しい役を、まだ未経験のことも多い私が演じさせて頂けることになり、そこは正直大変でした。今までは自分の持っているものを放出することで形になる役が多かったのですが、今回に関しては全くそうではありませんでした。それを発見することができ、自分自身と結びつけなくて良いんだ、と個人的に思えた瞬間から、今回の役を演じることができるようになりました。この役を通して、役の作り方や向き合い方の種類が広がったと感じています。
“嘘の中に隠れている本心”というものの微妙なバランスが難しかったのですが、そこは自分の中で解釈できたのではないかと思っています。
お客様の前に立って、その嘘がみなさまにどう伝わるか、しっかり表現していきたいと思います。
■岡本健一
濃密で濃厚な稽古期間でした。稽古場では、皆本当に面白くて、想定外の笑いが沢山あるのですが、果たしてこれがお客様の前で伝わるか伝わらないか、どんな印象を受けるのか、楽しみでしょうがないです。
KERAさんがシアターコクーンという劇場で初めて公演した時、大衆に向けて、大きな劇場に向けて書いた作品で、気合も入っていたんだろうし、舞台ならではの演出、舞台でなければ表現できない事などがいっぱい散りばめられています。それが稽古場ではできなかったりすることがいっぱいあって、劇場に入ってみて、初めてそれを目の当たりにして、ちょっとワクワクする感じがあります。
なかなか人と会うことができない時期に、稽古場は、唯一会える人間達ということで、色んな想いで救われる、助けられる部分がありました。腑に落ちないところなどは、皆それぞれが解消するように話し合ったり、凄くオープンで良い時間だったと思います。
松下さん生駒さんたちの、若いからこそのエネルギーをオープンマインドで出す姿は、見ていて面白いし気持ち良いですし、この『カメレオンズ・リップ』という作品の中に込められている気がします。
作品自体とも繋がる部分があり、トラウマを抱え合う人物が、山奥の谷のお屋敷で、唯一ここにいる同士触れ合うことで、本質を見つけてくるような、素敵なテーマだなと思っています。
取材・文・撮影(舞台写真)=こむらさき

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