熊川哲也『カルミナ・ブラーナ』202
1 特別収録版がオンライン限定で配信
!~完成披露4K試写会レポート

熊川哲也『カルミナ・ブラーナ』2021 特別収録版が、2021年3月29日(月)よりオンライン限定配信される。熊川が主宰するKバレエカンパニーは2018年、東急文化村のフランチャイズカンパニーとなり、2019年にBunkamura30周年を記念して大曲に挑んだ。2回限りの上演となった伝説の舞台がBunkamura初の本格映像作品としてよみがえる。コロナ禍において、総出演者250名超の大作を完全無観客、4K特別収録で制作。さらに初演には出演しなかった熊川が特別参加する。このほど完成披露4K試写会が行われ、熊川が同作への思いを語った。
■オルフ✕熊川哲也が生み出す、新たな物語の力!
カール・オルフが作曲した『カルミナ・ブラーナ』(1937年)は、中世の修道僧や神学生の喜怒哀楽を描いた詩歌集に取材した「楽器群と舞台場面によって補われる独唱と合唱の為の世俗的歌曲」である。これまでに数々の振付家が挑戦してきたが、熊川が演出・振付・台本を手がけた舞台が異彩を放ったのは、それまでにはない物語を生みだしたからだ。
熊川版初演時の物語はこうだ。女神フォルトゥーナは悪魔ルシファーと恋に落ち、子を授かる。その名はアドルフ。彼は母を追い落とし、悪魔の子として社会に紛れ込、悪の象徴となる。だが、最後に女神が復活し、アドルフを殺め、世界に恩寵をもたらす。しかし、『カルミナ・ブラーナ』2021 特別収録版では、さらに新たな物語が生まれた。テーマは「HUMANITY AGAINST COVID-19」。21世紀の今この時を覆うパンデミックと向き合ったのだ。
■熊川が特別参加として出演! 演じる役どころは?
今回の『カルミナ・ブラーナ』2021 特別収録版(2021年2月、Bunkamuraオーチャードホールにて収録)は、メイキング+本編65分から成る。メイキングでは、コロナ禍において熊川が本編を制作するに至った思いが語られる。続く本編は25の場面から構成される。先ほど「さらに新たな物語となった」と記したが、全体の構成・振付そのものは初演版に少し手を入れたくらいでイメージは変わらないという。では、何が違うのかー―。
大きく異なるのは、冒頭と最後の「おお、運命の女神よ(O Fortuna)」において、女神フォルトゥーナが登場しないこと。代わって、熊川がなんと約2年ぶりに舞台に立ち、半端ない存在感を発揮する。クレジットには「特別参加」とだけ記されているが、災厄の象徴たるアドルフを生み出し世界を恐怖と困難に陥れると同時に、最後は「人類の復活」の象徴でもある役どころだ。熊川は「ヘビーなメッセージ」を内包する物語を担う覚悟を身をもって示す。
アドルフを関野海斗が若々しくも妖しく踊り、太陽(髙橋裕哉)、ヴィーナス(小林美奈)、ダビデ(堀内將平)、サタン(遅沢佑介)、白鳥(成田紗弥)、神父(石橋奨也)には、一騎当千の主役級が揃う。ことに初役だった小林の、凛としたたたずまいから立ち現れる蠱惑的な表情に注目。花や鳥、天使などを踊るアンサンブルの迫力も見逃せない。

音楽面にも苦心した。音楽家だけ150名以上が別途集まり収録を実施。指揮は熊川の信頼厚い井田勝大。ソリスト歌手:今井実希(ソプラノ)、藤木大地(カウンターテナー)、与那城敬(バリトン)。合唱:新国立劇場合唱団。児童合唱:NHK東京児童合唱団。管弦楽:シアター オーケストラ トーキョー。踊りと一体化し、厚みのある音楽を生む。

■時代の申し子は、映像作品でも「完璧な領域」へ!
熊川は元来「生の舞台の感動」を重んじており、映像作品制作のゴーサインを出す際に求めたのは「劇場体験を知るお客様をも唸らせる映像プラン」だという(リリースより)。実際に観て、ドローンやクレーンを駆使し、4Kカメラも用いた撮影によって、観るもの自身が舞台上に身を置いているかのような感覚に襲われた。単なる舞台上演の配信でもないし、スタジオ撮りの映画でもない、新しい舞台映像表現足り得ている。熊川は「ライブには勝てないけど、負けない映像ができた」と意気軒高だ。
熊川哲也 (c)️大久保惠造 /Bunkamura
熊川は特別協力のNTT東日本を始めとする関係各社の協力・協賛に謝意を述べる。Kバレエカンパニーはコロナ禍において、昨年10月に『海賊』を、12月に『くるみ割り人形』を上演し活動再開した。しかし、感染症予防対策による制約もあり、熊川にとっては「惰性と妥協」の時期で、「どう活動していくのか自問自答を繰り返していた」。今回の映像制作の話を受けて、「妥協を打破して、もう一度やってやろうじゃないか」と奮い立ったと胸中を明かす。
映像制作のTBSとは20余年に及ぶ「信頼関係」がある。今のご時勢、舞台関連の配信は多々あるが、熊川は「圧倒的な差をつけることが大事」と語り、監督の安江圭ら撮影スタッフと方向性を共有し、綿密に打ち合わせた。メイキングからエンドロールまで「トータルな映像作品としては完璧の領域に近いんじゃないでしょうか」と自負する。
熊川哲也 (c)️大久保惠造 /Bunkamura
(左から)中野哲夫 (株)東急文化村 代表取締役社長、熊川哲也 (c)️大久保惠造 /Bunkamura
熊川の振付はオルフの「音楽を見抜いていて可視化していく」ことを命にしている。それは映像を通してもしかと伝わる。ユーザーによって配信環境は異なるが、熊川は「作品力が強いので」飽きさせないと自信満々。管弦楽、独唱、合唱それに踊りを伴う破格の舞台芸術『カルミナ・ブラーナ』を、新たに本格映像作品として追求し、今の時代の物語として世に問う。熊川哲也は、時代の申し子であり続ける。百聞は一見に如かず、ぜひ体験してほしい。

【オンライン限定配信】熊川哲也 『カルミナ・ブラーナ』 2021 特別収録版 ティザー映像
取材・文=高橋森彦

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着