不朽の名作、新たに輝く! 熊川哲也
Kバレエカンパニー Spring 2021『白
鳥の湖』公開ゲネプロレポート

熊川哲也 Kバレエカンパニー Spring 2021『白鳥の湖』が、2021年3月24日(水)~28日(日)、Bunkamuraオーチャードホールにて上演される。また3月28日(日)13:00公演のみオンラインライブ配信され、国内のみならず海外へのグローバル配信も行われる。開幕に先立ち、3月23日(水)夜、公開ゲネプロが行われた。
■新世代が盛り上げる清新な舞台に期待!
Kバレエカンパニーが『白鳥の湖』を上演するのは、2020年1月~2月以来1年2か月ぶり。昨年は感染症拡大の影響を受けて一時公演活動を中止したが、10月に『海賊』で再開し、年末には『くるみ割り人形』を上演した。そして、いよいよ古典バレエの代名詞のお目見えである。
折しも2021年1月~3月に放映されたNHK BSプレミアムドラマ「カンパニー~逆転のスワン~」において熊川哲也・Kバレエカンパニーが監修を務め、メンバーが出演も果たしたことは記憶に新しい。まさにグッドタイミングでの上演となり期待が高まる。
Kバレエカンパニー『白鳥の湖』 (c)Hidemi Seto
数ある『白鳥の湖』の中でも、熊川哲也が2003年に演出・再振付し以後練り上げてきたバージョンは、スケールの大きさ、劇的な展開、古典の様式美いずれとっても優れている。このバレエの今日の土台を生んだプティパ/イワーノフ以来の伝統と独自の美意識が溶け合い、チャイコフスキーの名曲を最大限生かした振付も充実している。
Kバレエカンパニー『白鳥の湖』成田紗弥&堀内將平&栗山廉 (c)Hidemi Seto
今回の『白鳥の湖』全7公演では、新加入も含めた新世代のダンサーたちが活躍する(各回交替出演)。公開ゲネプロの配役は、オデット/オディール:成田紗弥、ジークフリード:堀内將平、ロットバルト:栗山廉だった。成田は2018年に入団し、数々の主役を踊り飛躍中の気鋭バレリーナ。堀内は2020年10月、『海賊』のコンラッド役を踊りプリンシパル(最高位)に任命された実力者。栗山は「カンパニー~逆転のスワン~」に出演しその演技も注目されたが、このところ王子役だけでない役柄にも挑み芸域を広げているホープである。

Kバレエカンパニー『白鳥の湖』 (c)Hidemi Seto

■大胆かつ繊細に立ち上げられるドラマの深み
プロローグから一気に舞踊劇の世界へと誘う。マエストロ井田勝大が指揮するシアターオーケストラトーキョーが序奏を奏で幕が開くと、紗幕の向こうでオデット姫が花を摘んでいる。そこへロットバルトが登場し、巨大な翼で姫を包み込む。そして翼を開くと、彼女はなんと白鳥に!
第1幕は王宮の前庭が舞台。光の反射を浴びて輝く美麗なセット(舞台美術・衣裳デザイン:ヨランダ・ソナベンド、レズリー・トラヴァース)は眼福の極みだ。ここでは、王子ジークフリードの内面を丁寧に描出。彼は王妃から翌日の舞踏会で花嫁を選ぶように命令され、気分が晴れない。堀内のナイーブな感性が上手く出ていて、「王子のドラマ」として説得力がある。暮れなずむ光景とジークフリードの心情が重なるような繊細な照明(足立恒)も素晴らしい。
Kバレエカンパニー『白鳥の湖』 (c)Hidemi Seto
■透徹した美、洗練された白鳥たちの踊りは絶品!
第2幕はジークフリードとオデットが出会う湖畔の場面。まずは「情景」の音楽と共にロットバルトが現れ、堂々と踊る。フクロウの姿をした、いかめしい衣裳をまとうが、長身で踊れる栗山だけに颯爽として小気味いい。オデットの成田は楚々としており、定番の身の上を語るマイムからも情感を物語る。堀内の立ち姿も様になっており、役者がそろった。

Kバレエカンパニー『白鳥の湖』 (c)Hidemi Seto

ジークフリードとオデットのグラン・アダージョ、オデットのソロ、白鳥たちの踊りは、「これぞクラシック・バレエ!」と称したい透徹した美にあふれている。オデットを除いて長めのチュチュ姿なのがポイントで、その柔らかな質感が得も言われぬ洗練を生む。
Kバレエカンパニー『白鳥の湖』 (c)Hidemi Seto
■踊りに次ぐ踊りが、ドラマを動かす
第3幕、王宮での舞踏会はドラマティック。通常余興的に繰り広げられるキャラクター・ダンスに意味を持たせる。最初のナポリは、家庭教師が呼び水となって登場。ジークフリードが花嫁候補を前に思案する時間をあたえるための機転である。チャルダッシュ、マズルカに続いてのスペインは、オデットとそっくりの黒鳥オディールを伴ったロットバルトの手下たちだ。踊りの洪水に終わらず、ドラマとしてしっかりと組み立てられていることを実感できる。

Kバレエカンパニー『白鳥の湖』 (c)Hidemi Seto

最大の見せ場は、オディール、ジークフリード、ロットバルトのパ・ド・トロワ。まずアダージョを成田と堀内がしっとりと踊る。続いてジークフリードのソロ。音楽はバランシンの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」の男性ヴァリエーションの曲としてバレエ・ファンにはおなじみだ。堀内はしなやかな跳躍も光るが、プレザンスを感じさせる踊りで、新プリンシパルとしての輝きと誇りが全身から伝わる。栗山の悠々たる舞い、成田の艶のある踊りを経て、迫力満点のコーダへ。この3曲は原曲の「パ・ド・シス」から転用し、ぴったりとはまっている。

Kバレエカンパニー『白鳥の湖』成田紗弥&堀内將平 (c)Hidemi Seto

■すべてが収斂するクライマックスは圧倒的
最後の第4幕、湖畔の場面は感動的だ。ジークフリードはオデットに不義を詫びる。だが、そこにもロットバルトの魔の手が迫る。やがて、最後はー―。全幕を通してつむいできたドラマ、チャイコフスキーの音楽のパワーが極点に達し、観る者の心の中で起爆する。そこはご自身で確かめていただきたい。『白鳥の湖』が古典中の古典であるゆえん、熊川哲也 Kバレエカンパニーの芸術と魅せる舞台創りの真価を目の当たりにできることは確かである。

Kバレエカンパニー『白鳥の湖』成田紗弥&堀内將平  (c)Hidemi Seto

取材・文=高橋森彦

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