東京オルタナティヴ・ポップスを発信
する4s4kiの先鋭とヒューマンパワー

4s4ki 1st Oneman Live“4444年”

2021.3.11 東京 LIQUIDROOM
いきなり毒を吐いてしまうが、大人がアイドルにビリー・アイリッシュ風の楽曲をあてがっても、きっとZ世代には響かないし、まずイケてるトラックにもならないだろう。別に4s4ki(アサキ)が日本のビリーだとか言いたい訳じゃない。彼女は自分と時代に向き合って一人で音楽を作り続けてきたことで、2021年、春の東京で地殻変動を起こしうるポップ・アイコンとして浮上した。
この日のオンラインライブですっかり興奮してしまい、初見の新参者でありながら大きな口を叩いてしまった。まず4s4kiとは何者か。作詞作曲、アレンジはもとよりトラックメイキングも行い、エレクトロニックなトラックとピアノ弾き語りというスタイルとしては両極の表現手法をもち、ボーカルもエフェクトを多用することもあれば、素の声で歌うこともある。2018年3月に「ぼくはバカだよ。」でササクレクトからデビュー。音楽とアートのレーベル“術ノ穴”が立ち上げた会社で、アーティストマネージメントや音楽制作以外にデザイン、ウェブ、映像制作も行っているクリエイティブカンパニーだ。2019年3月には同社内のプライベートレーベル“SAD15mg”を設立。作家としては『けものフレンズ』『SHOW BY ROCK!!』の舞台音楽制作や、声優ユニット“サンドリオン”へ楽曲提供するなど、多才ぶりを発揮。2020年12月に1stアルバム『超怒猫仔/Hyper Angry Cat』をリリースした頃には一定のファンが付いており、今回、初のワンマンライブも本作のリリースライブで、会場は即完売。加えて、なんと一週間で最新デジタルEP『UNDEAD CYBORG』を完成し、3月3日にリリースした。
4s4ki
今回、会場のチケットが即完売したことで、急遽無料でYouTube配信が決定した。筆者はモニター越しにこの才能に正面衝突してしまった。ゲームミュージック風のSEが流れる中、幕が開くとすでに4s4kiとDJのGigandectがスタンバイ。サンプラーなどの機材とともに人形や小物が置かれたスタンドに目を奪われる。ブロンドにピンクのポイントカラー、ピンクのチュニック、夥しい指輪をつけた4s4kiの部屋のようだ。スウィートなメロディのEDMチューン「SUCK MY LIFE」でスタートし、テンポよくシティポップをトラップテイストに昇華した「おまえのドリームランド」、感情を込め頭を押さえながら歌い始めた「ラベンダー」、素の声に近いバースがじわじわ染みる「gekkou」。驚いたのがオートチューンを微調整しながら歌ってはいるのだが、そもそものボーカルがかなりスキルフルなこと。舌足らずなアニメ声っぽい声や歌唱も、言葉数の多いメロラップも、一切作為を感じさせない程スムーズだ。そんな滑らかなメロディやフロウの中に、刺し傷のような痛みを感じるリリックが聴き取れるたびにハッとしてしまう。
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明るかったり切なかったりした最初のブロックから一転、ハードでインダストリアルなトラップ調の「I LOVE ME」では挑発的なアクションを交えて小気味いいフロウを聴かせる。高音のメロディにかけるボーカルエフェクトも綿密に計算されていて、生声にはないカタルシスを生む。映像も効果的でウイルスと思しきグラフィックが映し出された「monmon」はエキゾチックかつゲームっぽいトラックと言いたいことが言えずに悶々とする主人公の闇が呼応するかのようだ。体温を連呼する「35.5」、エレクトロなラガマフィンといったニュアンスの「プラトニック」、ここまで8曲をほぼ一気に披露。2分前後の曲が大半で、コロコロと曲の表情が変わっていくが、生身の彼女が歌う表情や、不意に飛び込んでくるリリック、何よりメロディの良さもあって、存外、シンガーソングライターのライブを見ているのと大きく変わらない感情が芽生えていた。
「みんな調子はどうですか? 声が出せないのはアレだけど、その分、波動を送ってくれたら」というMCの後は、最新作『UNDEAD CYBORG』のナンバーが続く。超ショートチューンの「☆メガジョッキ☆」も「REIMEN」も思いつきのひらめきなのか?と思いつつ、オケに対するメロの勘の良さが快感だ。<幸せと思え>とリフレインされる「幸福論」に滲む、諦めの押し付けに対するサラッとした嫌悪には大きく頷いてしまったし、女性につきもののストレスから来る甘いものを貪る様を描く「Sugar Junky」も首肯!という感じ。だが、テーマだけなら誰でも思いつきそうだが、メロディに乗る日本語詞としてこんなに洗練されたスタイルを持っている自作自演家は稀有だ。起こること全てが小気味良い流れの中、一息入れ、「18歳でデビューして今日で23歳になりました。一人で作ってきた曲をみんなが見つけてくれて。友達や恋人や家族が支えてくれて、みんなが頑張ってくれて、(ステージセットを指し)リキッドルームに見えないもんね。まだまだ頑張ります」と、涙声で感謝しながら、即興からピアノ弾き語りの「ずっとお前を殺したかった」へ。自分で許せない自分の中の“お前”を殺す。今のままでも生きては行ける、でも狡猾な部分は自分自身が最も許せない。自己耽溺してしまうギリギリのところで、そのダサさやズルさを曲にして浮上させているように感じた。初見にも関わらず自分にも思い当たるフシがありすぎて、大いに感情を揺さぶられてしまった。逃げたけど戻ってきたという印象が続く「escape from」で強まり、吹っ切れたように「愛してるよ、みんな」と一言放った後は再びエフェクトボイスと打ち込みのナンバー「クロニクル」へ。
4s4ki
後半はフィーチャリング・ボーカルを迎えてのコラボコーナーがスピーディーに展開。和音階とチップチューン、トラップを掛け合わせた「超怒猫仔」にはパンチの効いたラップのなかむらみなみとフリースタイルが冴えるMega Shinnosuke。本物の不良が今、どこにいるのかわからないが、バーチャルなストリートの中で彼らはキング&クイーンで、主戦場がネットの世界であることを実感するリリックを披露してくれた。とはいえ、3人ともセンス、スキルともに痛快だ。ロマンチックなメロディの「風俗嬢のiPhone拾った」ではフィーチャリングのGokou Kuytもオートチューンで歌い、もともとの歌のうまさが際立つ「moniko」では男性目線が明快なAnatomiaがメロディとラップで登場。肉声を楽器のようにエフェクトでコントロールする「Liar」ではワイルドなラップが特徴的なCVLTEのAvielが、コラボコーナーの中でも抜きんでたパッションをぶち込んできた。このコーナーもシームレスに続々とゲストが入れ替わるスピーディさ。4s4kiの閃きの連続にフィットしていた。
「時間ってのは早いものですね」と告げると、ドリーミーかつブライトな「SAD night boi」で本編を締めくくった。この段階で日本独特のカルチャーである2.5次元的なものや、USのトップヒットにも並ぶようなオントレンドなサウンドに通ずる両極に振り切った価値観と、うちに籠もって世界を敵視するような世界のZ世代に共通するメンタリティといったシナプスがバチバチ音を立てて繋がっていた。彼女の視野の広さと現実の活動範囲のリアリティ。そういったものに圧倒されていたのだ。
4s4ki
8ビットのゲーム画面風の背景へ“CONTINUE”に続きライブタイトルの“4444”が映し出され、時間が巻き戻り“2021”になると、アンコールで再登場。最前列のファンとハイタッチしながら「超破滅的思考」を歌った後、時報が鳴り、スクリーン上で4月にビクター/スピードスターレコーズからのメジャーデビュー、加えて4・5・6月の連続配信シングルのリリース、夏にはニューアルバムをリリースという怒涛のインフォメーションが。MCでは感極まった様子で、「メジャーデビューします。もう泣きそう。みんなで4s4kiだから。みんなマジ、イケてる!」とお互いを称賛し、新曲「gemstone feat. Puppet」を披露。ラストは活動初期からの人気曲「Gender(Remix ver)」で締めくくった。
「愛してる、ありがとう!」と何度も投げキッスを送ってステージを後にした彼女。決して自己肯定感の高いスタート地点じゃなかったことを想像させる歌詞世界、でもその中で輝く瞬間をしっかりピン留めするようにブレずに描き、感情の発露もまた正確にメロディとトラックへ妥協なく落とし込んできた4s4ki。イメージはトリッキーだが、実態は紛れもなく誠実なアーティスト、それがこの90分の答えだった。

文=石角友香 撮影=西槇太一

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