若く貪欲な感受性が生み出した注目す
べきバンド・chilldspot 【『SONAR
×SPICE』特別コラムVol.3】

FMラジオ局J-WAVE(81.3FM)とSPICEがタッグを組み、3月15日(月)に配信する注目のニューカマー・アーティストのショーケースライブ『SONAR✕SPICE ~J-WAVE SONAR TRAX SHOWCASE LIVE with SPICE~』。本稿ではその注目のラインナップから、chilldspotのこれまでとその音楽性を紹介する。
一聴して「凄いなこれで高校生バンドか?」と驚嘆したすぐ後に、こういうバンドが出てきたことに驚くよりこういうバンドにメインストリームへの道が用意されている時代が来ていることに驚くべきだと改めて思う。chilldspotという4人組バンドは明らかに時代の申し子の一人であり、若く貪欲な感受性が生み出した注目すべきモデルの一つとも言える。まずは一聴してオルタナティヴR&Bの文脈に乗ったファンキーでセンスのいいバンドサウンドと、ボーカルの比喩根と名乗る女性のとんでもないスキルと天与の才能を併せ持つ歌声を確かめてみよう、話はそれからだ。
chilldspot(チルズポット)とはchill,child,spot,potを組み合わせた造語で、比喩根(G&Vo)、玲山(G)、小﨑(B)、ジャスティン(Dr)のメンバー全員が東京都出身、2002年生まれの現在高校3年生。2019年12月に結成して1年後にリリースしたファーストEP『the youth night』が注目を浴び、Spotifyが2021年に躍進を期待するアーティストをピックアップする「RADAR:Early Noise 2021」に選出され、AppleMusic等主要ストリーミングサービスのプレイリストにも次々取り上げられてその名が一気に知れ渡り、現在に至る。
chilldspot「夜の探検」
YouTubeに上げられているミュージックビデオは2021年3月現在で2本。そのうち「夜の探検」は美女モデルを被写体にした幻想的なイメージビデオのような作風で、高校生の視点から“幼い頃の純情な世界”に思いをはせる切ないノスタルジーに満ちた歌詞の世界を美しく映像化。もう1本の「ネオンを消して」はプラトニックからフィジカルなラヴの世界へと踏み込む若い男女の戸惑いと情熱を、サスペンスめいた演出とショッキングな色彩で描くストーリー仕立て。EP『the youth night』は夕刻から夜明けまでの12時間の中でドラマが展開してゆくコンセプチュアルな作品で、心地よいグルーヴの「夜の探検」とメロウな「ネオンを消して」はとりわけキャッチーな名刺代わりの2曲として、初めてchilldspotを聴く者の耳をとらえて離さないだろう。
個人的に未だ会ったことはなくライヴも未見なので想像するしかできないが、SpotifyやAppleMusic等ストリーミングサービスが若い世代の最初の音楽視聴の舞台へと取って代わった2010年代を通して、チャートを席巻していたR&B、ヒップホップ、ファンク、ダンスミュージック、インディーロック、あるいはその順列組み合わせなどを美味しい水のように飲みこんできた世代の中で、ポップで派手なメジャー志向というよりはもっと親密でクラシカルな、繊細な情緒を共有する音楽を好むリスナーが自ら音楽を作り始めるとごく自然にたどり着くのがchilldspotの音楽であるという気もする。外面はぶっきらぼうにも感じられるほどクールでストイックで人に媚びず、しかし内面に深く下りてゆくほどに温かい体温と豊かな感受性に触れて共感度がぐっと増す。EP『the youth night』に収められているのはそんな魅力的な曲ばかりで、いや中には「人間って。」みたいに世の中に対して本当に不機嫌に聴こえる曲もあるにはあるが、高校生として現代に生きていれば言いたいことは山ほどあることは当たり前で、それもまたchilldspotの欠かせない個性の一つである。
chilldspot「ネオンを消して」
そして3月19日、3作目となるデジタルシングル「Monster」の音源と映像がリリースされることが決まった。軽やかなエレクトリックギターのカッティングと、ファンクの変形のような前のめりのビートがちょっと変わっていて一度ハマると癖になる、派手に耳をつかむよりもじんわり染みてくるタイプの1曲だ。ひょっとして機材かミックスか何かを変えたのか、楽器の自然な配置とボーカルの伸びやかな響きは、EP『the youth night』からさらに一歩進化しているように聴こえる。
注目すべきはやはり歌詞で、自らの価値観を決して変えずに相手に強要してコミュニケーションを拒絶する、モンスターペアレントに代表される人々を「Monster」に例えた強烈な歌詞は、音で聴いているうちにはあまり気づかないが歌詞を読んだ者は戦慄することになるだろう。詳しくはあなたがぜひ歌を聴いて歌詞を読んでそして考えることに委ねたいが、一つだけ指摘しておきたいのは比喩根の書いた歌詞が「大人対子供」というステレオタイプに陥ることなく、“立場や威厳の前に1人の人として聞くわ/あなたは誰なの”と、同じ視点で戦いを挑んでいること。凛とした目で相手を見据えるその姿は、妥協なきストイックな音楽作りに没頭するバンドの姿にぴたりと重なり合う。
バンドの存在感としては未だ謎めいた部分を多く持ちつつ、歌詞や楽曲の世界観は揺るぎないと言ってもいいほどに確立済み。Chilldspotの世界がこれからどこまでメインストリームへと広がってゆくのか、期待を持って最大限の注目をしていきたい。そんなchillspotを含めた期待のニューカマーたちがパフォーマンスを繰り広げる配信プログラム『SONAR✕SPICE ~J-WAVE SONAR TRAX SHOWCASE LIVE with SPICE~』は現在配信チケットが発売中。是非新たな時代の波を感じていただきたい。
文=宮本英夫

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