ピカピカで穏やかな春になりますように、胸を弾ませる夜明けの5曲

ピカピカで穏やかな春になりますように、胸を弾ませる夜明けの5曲

ピカピカで穏やかな
春になりますように、
胸を弾ませる夜明けの5曲

足を棒にしてマスクとトイレットペーパーと消毒液を探し回り、涙を堪える気力も潰えそうだった昨冬。日頃の喧騒と目に痛いほどの明かりが嘘のように消え去った飲み屋街を後にして、持て余した時間という恐怖に耐える生活にもくたびれ果てた今冬。自分にはタバコを吸う唇も酒を飲み干す喉もギターを弾く指もないから、音楽を聴く耳と心を落とすための言葉を冷たいパソコンの中で動かすしかなかった毎夜毎夜毎夜。全て元通りにはならないかもしれないけれど、次に瞼を開けた時にはほんの少しだけマシな景色がありますように。あらゆる境目が光で吹き飛ぶ春がもうすぐ来ると信じて。
配信楽曲「創造」/星野源
「手のひらの中」収録アルバム『愛のひみつ』/ハンバート ハンバート
「夢の中」収録アルバム『BO&GUMBOS』/BO GUMBOS
「Peach, Plum, Pear」収録アルバム『The Milk-Eyed Mender』/Joanna Newsom

「創造」(’21)/星野 源

配信楽曲「創造」/星野源

配信楽曲「創造」/星野源

任天堂『スーパーマリオブラザーズ』35周年テーマソングとして制作された「創造」。ダンサブルなソウルミュージックの地平に散りばめられた無数のゲームの起動音や効果音のモザイクが想像力を無限に刺激する8ビットの世界を展開する鮮やかさ、ゲームと多様性とコロナ禍の社会のトリプルミーニングが織り込まれた歌詞の多面性から星野 源というポップスターが担うありとあらゆる大きなものが浮き彫りになる。ともすれば不要不急とカテゴライズされてしまいがちな娯楽を通して得た経験と記憶が新たな表現として生まれ変わり、不要不急の外出を禁じられた私たちの手の中に降りてくる奇跡が愛しい。

「手のひらの中」(’20)
/ハンバート ハンバート

「手のひらの中」収録アルバム『愛のひみつ』/ハンバート ハンバート

「手のひらの中」収録アルバム『愛のひみつ』/ハンバート ハンバート

ハンバート ハンバートが2020年にリリースしたアルバム『愛のひみつ』から。ピアノの和音の上で浮遊する佐藤良成の行き場のないひとりぼっちの自問自答に佐野遊穂のコーラスが輪郭と陰影を与え、ゆったりとフェードインするマンドリン、ドラム、ベースシンセなどの音色が胸の中の靄を溶かしていく。ぬるま湯の中で描線をなくし、天国も地獄もなく、雄も雌もない無色透明の世界で揺蕩う非日常へと離脱していく頭と心が、ゆるやかに現実に引き戻されるまでの狂おしいほどのそこはかとなさ。夢うつつ狭間のぼんやりとした視界の中にだけ存在する孤独と孤高があまりにも優しく表現されている。

「夢の中」(’89)/BO GUMBOS

「夢の中」収録アルバム『BO&GUMBOS』/BO GUMBOS

「夢の中」収録アルバム『BO&GUMBOS』/BO GUMBOS

多国籍ごった煮感の賑々しさと土着的な粘り気が共振するBO GUMBOSのアルバム『BO&GUMBOS』に収録されている「夢の中」は、早逝したどんとこと久富隆司が掻き鳴らすジミ・ヘンドリックスの如きギター、虚無と悲痛を泣き笑いと哀愁で包み込むヴォーカルが虹色の放物線を描くレゲエナンバー。《まちがえてまちがえて 手も足も出せなくて》《淋しいよって泣いてても 何ももとへはもうもどらない》という無力感を汗だくの諦めの悪さで縛り付けて吠える歌詞には、いつの間にか道を踏み外してしまった人間の弱さを救い上げる柔らかさにあふれ、胸が張り裂けそうな切なさと不思議な多幸感が押し寄せる。

「Peach, Plum, Pear」(’04)
/Joanna Newsom

「Peach, Plum, Pear」収録アルバム『The Milk-Eyed Mender』/Joanna Newsom

「Peach, Plum, Pear」収録アルバム『The Milk-Eyed Mender』/Joanna Newsom

アメリカのシンガーソングライターにしてハープ奏者のジョアンナ・ニューサムが2004年に発表したアルバム『The Milk-Eyed Mender』から。ささやかな日常風景を切り取った歌詞と繊細かつ牧歌的な旋律に、ニーナ・ハーゲンや戸川 純のようなジョアンナ・ニューサムの“幼女の無垢さ”と“老婆の純真”が混ぜ合わさったヴォーカリゼーション、跳ねる和音と子供たちの合唱が重なり、無数の波紋となって広がって不穏な魔法をかけていく。とてもキュートで煌めいて、陽だまりや木陰を想起させるあたたかさに満ちていると同時に仄かな毒を感じさせる、沈殿した果実酒のような一曲。

「プリンセスでんぱパワー!
シャインオン!」(’21)
/でんぱ組.inc

成瀬瑛美の卒業ライヴで、総勢10人の新体制で活動することをサプライズ発表したでんぱ組.inc。同公演で披露された「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」は、作詞作曲を手がけた前山田健一のお家芸であるつんのめりそうな転調のパッチワークで織り成されたキラキラのプログレポップソング。固有的な自己紹介要素は薄められ、王子様やお姫様への憧れから、果てのない夢に真っ向勝負で挑む闘争本能、肩を並べる仲間たちとのシスターフッド感、自身が主人公であると信じることに躊躇いもないひたむきさに至るまで、全方位を全肯定するパワーが蠢いている。ミュージカル調の歌とあてがきのような台詞、シャウトの狭間でファンタジーとリアリティーが融合して弾ける瞬間の眩さが未来への期待を膨らませてくれる。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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