SHE’S、地元大阪・吹田で10周年イヤ
ーをキックオフ 配信でも如実に感じ
られたその充実ぶりについて

SHE’ S 10th Anniversary「From 19」 2021.2.22 吹田市文化会館 メイシアター 大ホール
あ、これは現地で観たらもっとヤバいやつだ。こんなご時世なので東京から配信で観たのだけれど、頭から数曲で気付いてしまった。SHE’ Sが結成10周年のキックオフと位置付け、地元である大阪・吹田で開催したワンマンライブ『SHE’ S 10th Anniversary「From 19」』である。
何しろ一曲目「Voice」から、ピアノバッキングの中音域の鳴りが豊かで、他楽器とのバランスも取れている上、全体的に音がいい。会場がホールであることも関係しているだろうが、コロナ禍においても積極的に配信を行ったうえのノウハウや、リアルのライブの含めて着実に場数を踏んできたことも関係しているだろう。もちろん、バンドの成長も。きっと現地ではそれがより如実に感じられたのではないか。
新旧織り交ぜたセトリも良かった。「Unforgive」は、広瀬臣吾(Ba)の弾くシンセベースの音色と低く抑えた井上竜馬(Vo/Key)のボーカルが絡みながら淡々と進む立ち上がりから、サビではレーザーが飛ぶ派手な演出も盛り込む。木村雅人(Dr)によって刻まれるダンダンダンという勇壮なビートが導くのは「Un-science」。高音域までさらりと響かせる歌声を聴くに、ボーカルの調子も上々だろう。
というか、全体的に“上手く”なってないか? 単に演奏技術だけでなく空気の作り方も含めて、だ。細かいことを言えば、曲間のちょっとした“間”の作り方も、竜馬がところどころ崩した歌い方をするその頻度や度合いも、服部栞汰(Gt)や井上が中心となったMCの転がし方も、ライブ運びそのものがなんだか“上手い”。ライブの背景からしても意気込みは相当なものだろうが、浮き足立ったり過度に力んだりする様子は全くない堂々たる姿で、じっくりと自然にボルテージを上げていく。
「吹田の皆さん、ただいま! 今日ほど「ただいま」に相応しい日はないんじゃないでしょうか」(服部)
先にも述べたように、ここ吹田は4人にとって思いっきり地元。そのことによって随所に垣間見えるホーム感も、「現地で観たかった」と思わせる要因のひとつである。服部が、中学校の頃に同級生だった広瀬と合唱コンクールで立ったステージであり、成人式の時は4人揃って式典に参加した場所でもあると語れば、8歳の頃ピアノの発表会で立ったことがあるから自分の方が先輩だ、と謎に張り合う井上。木村がドラムを始めるキッカケとなったローカル番組がここで収録したものだった、というエピソードも語られるなどMCも大いに弾む。
ピアノ独奏から流れるようなイントロと柔らかな歌い出し、16分のシンバルの刻みとスクエアなビートなどSHE’ Sサウンドの魅力が詰まった「Night Owl」から、シンベとエレキベースを使い分けた低音で魅せる「Ugly」までのクールな中盤のブロックも素晴らしかった。「Clock」では打ち込みとバンドサウンドという質感の異なるリズムセクションを行き来する中、服部のギターがフレーズ面でも音色の面でも良いアクセントに。
また、この日のステージにはSHE’ Sのライブとしては初めてクラシックピアノが置かれ、「Tonight」と「Long Goodbye」では井上がそれを弾きながら披露。言うまでもないが、こういったバラードソングは特に、生のピアノのあたたかな音色によってより輝きを増す。いつものフォーメーションに戻ってからの「Your Song」「Letter」も含め、メロディメイカーとしてのSHE’ Sの魅力を堪能できる曲が続く。
「バンド、チームが一番良い状況」という現状についての木村の発言もあったが、その“今”が最も表現されているであろう最新曲「追い風」は、この日がライブ初披露となった。浮遊感のあるシークエンスに乗ってくる力強いピアノ、キャッチーなメロディ、コーラスワークもよく練られており、なんというか主人公感のある曲だ。それでいながら、洋楽好きな井上の嗜好やロックテイストの強い服部のギターソロなど、SHE’ Sの色や持ち味もちゃんと出せてる。
「Dance With Me」でMVの振り付けを模して盛り上がる場内に向け、ラスサビで金テープが放たれた頃には、もうライブは最終盤に差し掛かっている。自分は帰る場所があるから上京できたと実感する、リスナーにとってもSHE’ Sが、SHE’ Sの曲が“帰る場所”であったらいい、あったかい存在であってほしいという願いを口にした後、「20周年もまた吹田でできたらなと思いますので、引き続き、末長くよろしくお願いします」と井上。ラストナンバーは「Home」だ。ピアノ弾き語りで歌い出しから、スケールの感のあるエモーショナルなバンドサウンド、本来であれば盛大なシンガロングが起きるであろう多幸感に満ちたクライマックスへと至るまで、この特別なライブの締めくくりに相応しい光景が積み重ねられていった。
現地ではアンコールもあったそうだが、配信ではここまで。ちょっぴり物足りない気もするが、このライブの持つ意味合いを考えれば、このくらいがむしろちょうど良いのかもしれない。何かのリリースに紐付いたライブではなく(「追い風」のリリースがあったとはいえ)、10周年のキックオフであると位置付けたということはつまり、この先1年の活動に勢いをつけること、より期待感を抱かせることが、何よりのミッションであったはずだし。で、その企図は見事成し遂げられた。春の東西野音ワンマン、そしてその先の展開がこれだけ待ち遠しいのだから。

取材・文=風間大洋 撮影=HAYASHI MACO

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