【INNOSENT in FORMAL
ライヴレポート】
『INNOSENT One man Live
How to spend the live』
2021年2月20日 at 渋谷 WWW
“もともと映画館だったと聞いて、まさにイノセンと思い、縁を感じました”と終盤、この日の会場が渋谷WWWに決まった経緯を語ったぽおるすみす(Vo)も満足そうだった。17年11月に架空のカートゥーン・バンドとして、この世界に出現してから3年3カ月。イノセンがついに開催した初めてのワンマンライヴはそんな遊び心に加え、VJによる映像を全曲で映し出したり、機材を飾る小道具にもこだわったりと、架空のカートゥーンバンドらしいギミックも楽しませる一方で、結局のところ生身のロックバンドならではと言える熱演と楽曲が持つユニークさをアピールするものとなった。
“渋谷、調子はどうだ⁉”
ぽおるのかけ声を合図にお揃いのパーカーをはじめ、アー写通りのキャラになりきった4人は1曲目の「Riff」からアップテンポのラップロック・ナンバーをたたみかける。新型コロナウイルス感染防止のため、声を出すことができないならと1曲目から立ち上がって、身振り手振りで反応を返した観客の熱意にぽおるは“いい調子にトンでるぜ。ありがとう!”と破顔一笑。チュッパチャップスを咥えたCANDY MAN(Gu)がかき鳴らしたリフにTOY BOY(Dr)とKuni the ripper(Ba)が応え、演奏がグッと加速していった「No.1」は改めてのバンドの所信表明。メンバー全員で歌う《OUTSIDEただOUTSIDEただ》というコーラスにメモを取る右手に思わず力が入る。
いわゆるミクスチャーロックを身上としながらイノセンの場合、例えぽおるがラップしても曲そのものからJ-POPとしても十二分に勝負できるメロディーが感じられるところがいい。また、そのバンドサウンドからはメタルを含めたラウドロックではなく、ガレージロックやポストパンクの影響が窺えるところが面白い。そんなユニークさを印象づけながら、一気に駆け抜けた序盤から一転、中盤ではゲストに女性キーボード奏者・MIHO.Oを迎え、アーバンなダンスナンバーの「Night cruising」、ラテンポップなんて言いたい魅力もある「fragrance」、ぽおる曰く“しめっぽい”「Glass」を披露。イノセンが持つメロウな一面もアピールした。
“挑戦です、これは。1時間以上のライヴをやったことがないイノセンの挑戦です。(声を出したり、モッシュしたりできないので)お互いに挑戦って感じで音楽を楽しんでいきましょう”とぽおるは言ったが、その挑戦の中にはイノセンの多面的な魅力をこの機会に知ってもらうことも含まれていたに違いない。
そんな中盤を、ぽおるの心情吐露が胸を抉る「思うまま」で締め括ると、そこからさらに一転。“自分以外の3人をフィーチャーしたい”と楽器隊の3人に任せた「Ficus umbellate」から雪崩れ込んだ後半戦はThe White Stripesの「Seven nation Army」をはじめ、ロック史に残る数々の必殺リフを散りばめた「Jackin’ Rock Beats」、ぽおるのスクリームに興奮せずにいられなかった「Junkie’s never enough」、そしてダンサブルな「Highway」とつなげ、今一度、客席を盛り上げていった。ちなみに「Jackin’ Rock Beats」では、MC4人組のquon6が乱入。ライヴのクライマックスに相応しい熱狂を作り出すことにひと役買ったことをつけ加えておきたい。
そして、そこからまたさらに一転。“もっとたくさんの人に知ってほしい。いろいろな曲をやりたいし、いろいろな場所でライヴをしたい。もっとでかいステージにも立ちたい。それを実現するために言霊をトバして生きていこうと思います。一緒に挑戦していきましょう!”とぽおるが今後の抱負を語ってから、演奏した2曲――「TRAIN」「after song」は本編最後を締め括るには、ややメロウでメンラコリックだったかもしれない。しかし、その2曲に込めた感謝と決意の思いを考えると、最後はこの2曲以外考えられなかったのかもしれない。同じことがこの日の本当のラストナンバーだった「One for you」にも言えると思う。
ロックバンドのライヴの大団円を飾るには、やはりちょっとメロウすぎるとは思うが、そこに筆者はバカ騒ぎでは終わらないイノセン一流の美学というか、詩情を感じずにいられない。この曲に込めた自分たちが音楽に向かう信条を、あえてメロウな曲調ともに観客の胸に落とし込む。最後の最後、グッと熱を込めた4人のラップと演奏からは、そんな想いが確かに感じられたのだった。
撮影:白石達也/取材:山口智男