モダンスイマーズが人形劇ムービー『
しがらみ紋次郎』を制作。蓬莱竜太「
クリエイターが今どうやったら遊べる
かが何よりも重要で、表現する側こそ
が楽しまなければいけない」

モダンスイマーズが人形劇ムービー『しがらみ紋次郎〜恋する荒野路編〜』を制作すると聞いて、これは面白そうだと思った。ウェルメイドなコメディを経て、人間のサガをえぐり出すようなヒリヒリとした物語を紡ぐようになってから、劇団としてのメンバーのつながりが深化していると聞いていたから。新たな挑戦に向かう姿勢からもそれが伝わってきたし、話を聞いていて、その現場がいかに豊かで楽しいものだったかがうかがえる。人形を手がけたITOプロジェクトでも活躍する関西の人形劇団「ココン」の山田俊彦、人形操作を担当した劇団員の小椋毅、そして言い出しっぺで監督・脚本・絵コンテなどを担当した蓬莱竜太による座談会を行った。巷でうわさの「木枯らし紋次郎」の名を騙る男・紋次郎と、一夜を過ごした夜鷹オウメの、二カ月にわたる止むに止まれぬ道行を描いた『しがらみ紋次郎』。その出来がすごい。
モダンスイマーズが創る人形劇ムービー『しがらみ紋次郎〜恋する荒野路編〜』より

――蓬莱さんに伺います。どういう経緯で人形劇をやることになったのでしょう?
蓬莱 昨年末に東京芸術劇場プレイハウスで新作公演を予定していたんです。小劇場の劇団としては初の試みだったそうで、僕らとしても挑戦的な企画、そのための一年になると思っていました。年間を通したプレゼンやPRをしようと考えていたところにコロナがやってきた。うちはチケットの価格を押さえ、たくさんのお客様に来ていただくことで成立しているので、満員にならないと厳しいんです。もう一つ、濃厚接触せずに稽古をすることは僕らの表現において、思い切って遊べない気持ち悪さもありました。挑戦しなければいけない時にこの条件はあまりに厳しいからと早い段階で中止を決めたんです。とは言え自粛するうち、クリエイティブなことを思い切り楽しむ場所が自分でも欲しかったし、劇団員を含め自粛している人たちにもそういう時間を提供したいという思いが湧いてきて。じゃあどんなことで遊べるか考えた時に、人形劇や映像制作について何も知らない僕たちがすべてをやる、それを配信するのは普通の演劇より楽しいと思ったんです。生で見られなくて残念だという演劇を提供するよりはまったく違うことで、面白いものを出したかった。クリエイターが今どうやったら遊べるかが何よりも重要であり、表現する側こそ楽しんでいかないと暗い時代になってしまうと思い、無茶を承知で提案しました。実は、大人が楽しめる人形劇を、自分のテイストに寄せたものをつくってみたいというのは夢でもあったんですけどね。
蓬莱竜太
――提案された時はどう思われましたか?
小椋 いや、記憶にないんですよ。
一同 笑い
小椋 最初はぴんとこなかったんです。何をやるのか、どういう立場で関わるのかわからなかったから。
蓬莱 人形劇と漠然と言ってもどんなクオリティで、どんなものをつくろうとしているのか伝わりにくいですもんね。
小椋 何日かした後に、絵コンテをもらって、すごいことをやろうとしているんだと驚いたのは覚えています。
蓬莱 僕からすれば、自粛している劇団員をリングに引き上げなければいけない。そのために僕が考えていることをわかってもらうには絵コンテが一番だと思い、1カ月ほどかけて100ページくらいのものを描いて、渡したんです。普段の台本さえ遅い人間が絵コンテを書いて出すわけですから本気だということは伝わったんでしょう。僕も久しぶりに仕事ではない面白さ、机に向かう喜びを感じました。絵コンテを見てもらったことで、自分たちで人形操作をするんだとか、スイッチングを変えてきてくれたのがわかりました。
小椋 あの絵コンテはものすごくクオリティが高いので、お客様にも見ていただきたいですよ。今思い出したんですけど、撮影は僕が担当するみたいなことを言ったのを思い出しました。そのくらい人形を動かしたこともない自分が何をしたらいいかわからなかったんです。
『しがらみ紋次郎』絵コンテ
『しがらみ紋次郎』絵コンテより
――蓬莱さん、山田さんに人形制作を依頼したのは? とてもいいセンスだと思ったんです。
蓬莱 どういうサイズがいいのか、どういう仕掛けがありうるのか、とにかく一から十までわからない。制作さんに相談したら山田さんを紹介してくださったんです。
――蓬莱さんたちからお話があったときはいかがでしたか?
山田 喜びと戸惑いと不安でした。撮影までの時間があまりないのと、皆さんの技術に見合った人形がつくれるかどうかと。でも絵コンテでキャラクターも見せていただけたのでイメージはつかめました。
蓬莱 映像なので棒使いでやりたいということと、初めての僕たちでも使うことが可能なのかとかリモート会議をした後で、奈良にある山田さんのアトリエに伺いました。そこで山田さんが考える動かし方のアイデアを見せていただいたり、触らせていただいたりしたんです。でもめっちゃ難しいなと思いました。形になりそうな喜びと同時に、役者にかなり負担をかけるなと。山田さんにとっても僕らのようなオーダーは久しぶりとのことでしたし、僕たちも昨年はクリエイティブなことは何もしていなかったので、お互いにいい刺激になればいいなあと思いましたね。
人形師の山田俊彦
――山田さん、人形は何体くらいつくられたんですか?
山田 体は9ですが、頭を変えて15のキャラクターです。
――山田さんは普通の人物の人形もつくられますが、ちょっと変わった形や素材の、不思議な動きをするものも手がけられますよね。
蓬莱 そういうのも出てきます。紋次郎とオウメを中心にした物語ですが、中盤以降はいろんなキャラクターがいっぱい出てきて、山田さんの人形祭りですよ。
山田 蓬莱さんのデザインをベースに、顔などは好きにやらせていただいたところもあります。
――山賊の家来の顔がたぬきだったりしますね。
蓬莱 それは山田さんのアイデアです。人形劇でしかやれないこと、人形というフィクションが持つ幅があって、演劇とは全然違って面白かったですね。
西條義将
古山憲太郎
津村知与支
生越千晴
――人形劇をつくるために皆さんどういう役割を担っていらっしゃるんですか?
蓬莱 うちの劇団員は基本的に人形操作です。小椋さんは人形のメンテ、修理、あと可動域を広げるなどをやってもらっています。津村知与支は小道具、出番のスケジュールの管理です。古山憲太郎は基本的に座長の西條義将に怒られてばっかりです。撮影に入る前の2週間は試作品の人形を使ってどういう動きができるのか、どういう撮影の仕方ができるのかずっと稽古をしていたんです。それがすごく良かった。動きや演出に関して、みんないろんなアイデアを持ち寄った時間が一番楽しかったです。
――人形の背景のつくり込みがすごかったですね。映像ならではの面白さを感じました。
蓬莱 背景は大変でしたね。例えばススキの野原も、本物をそのまま持ってきても大きくて使えないので、自然のものを使ってつくり直すのが大変でした。
山田 照明と背景はよくつくられましたね。その中で人形が動くのはうれしかったです。私たちは映像はほとんどやらないので、新しい可能性を見せていただいた気持ちになりました。また操作をするところを映してませんよね。人形劇の場合は操作している人形師が見えるのは仕方がないというところがありますが、徹底して、どうやったら映らないかを考えられたんだろうなって。操作としては映った方が楽なんですよね。
蓬莱 いえ、逆に映っていいという発想がなかったんですよ。
一同 笑い
モダンスイマーズが創る人形劇ムービー『しがらみ紋次郎〜恋する荒野路編〜』制作風景より
モダンスイマーズが創る人形劇ムービー『しがらみ紋次郎〜恋する荒野路編〜』制作風景より
――小椋さん、苦労したところを教えてください。
小椋 俳優として関わっているという意識はまったくありません。蓬莱が言ったように稽古期間があったことで、操作のテクニックを学べたのは有意義でした。途中の過程を山田さんに見ていただきたかったくらい、みんな上手くなりました。
山田 もっと時間があれば良かった思うのは、人形をつくって送っただけで、メンテを小椋さんがやっていらっしゃるというのも初めて伺いました。大変だったろうなと思います。本当は私も関わって改良しながらやっていきたかった。でもかえって自由にいろいろ試せた面もあったようですね。
小椋 僕、素材があれば、一から人形をつくれるようになりました。
山田 それがある意味では理想なんです、素晴らしいです!
――小椋さんはどの役を?
小椋 操作しているのはオウメちゃんです。
蓬莱 オーディションをしたんですけど、やっぱり向き不向きがあるんです。人形だから本当は誰が操作してもいいと思ったんですけど、稽古をやりながら一人に担当させた方がいいなと。芝居と一緒で、その方がいいものになる。オウメは消去法でもあるんですけど、女性をやれるのは小椋さんしかいないんです。歌舞伎俳優の中村七之助くんも言ってたんですけど、女形は、女心を理解する必要はないけれども、こうやったら女性っぽく見えるという仕草をどんどんやっていくらしいんです。そのカンがあるのは小椋さんなんです。
小椋 自分ではわからないですけどね。映像ということでいうと、どうしたら女性っぽく見える絵になるかはめちゃくちゃ意識しました。表情は変わらないけれど、顔の角度でどういう表現ができるかみたいなことはものすごく考えました。そしてキャラクターよりどういうリズムやスピードなのかが大事でもありました。絵コンテがしっかりできていたので、監督がどういう絵が欲しいのか、その絵のために何ができるのかを試した感じです。
小椋毅
――自信になったことはありますか?
小椋 いろいろ苦労はしましたからね。でもまたやりたいぞというわけではありません。
一同 苦笑
小椋 いや、操作が本当に難しいですから。メンテナンスしたり、小道具をつくったりは楽しかったですね。操作は演じるのとはまた別の作業なので、むしろ役者として自分がやりたくなってしまうんです。
――この映像はどのように公開されるのですか?
蓬莱 本編は2月28日、ドキュメンタリー映像は3月中旬の配信を目指して、両方とも無料でご覧いただけるようにと思っています。コロナの影響で動けなくなった方々に元気になってもらいたいので、利益度外しでお届けしたいです。
山田 本編もドキュメンタリーも無料ですか?
蓬莱 いわばボランティアです。
山田 ほー!
蓬莱 僕の中では広がらないと持続できないという思いがあるんです。今回、僕たちが初めてやったことなので、どういうクオリティでどういうものをやっているのかを多くの方に見ていただくことで、次からお金が取れる状況になっていくし、ビジネスチャンスが生まれると思うんです。
モダンスイマーズが創る人形劇ムービー『しがらみ紋次郎〜恋する荒野路編〜』より
――伺っていると、ますます皆さん人形師としての腕を磨いていくということですか?
蓬莱 僕ね、もう演劇ワンウエイじゃ無理だと思っているんです。やれるタイミングで演劇はやりたいけれど、それだけだと難しい時代が来るかもしれない。だからこそ表現の趣味を持ちたいということです。映像だって今まで見向きもしなかったんですけど、こういう時代になると無視できない。演劇に映像や配信の面白さを盛り込む余地はあるんじゃないかと思います。それも含めて、今回、人形劇ムービーをやらせていただいているんですけど、今後につながる方法を模索しているという実験ですね。人形も映像も自分たちでつくれるようになってくると、道はどんどん広がっていくと思います。
――作り手として小椋さんがいらっしゃいますね。
蓬莱 そうなんですよ。だから人形劇集団にどんどん移行していくかもしれません。もちろん参加は自由ですし、劇団のみならず、多くの人と一緒にいろんなことがやれるといいな思いますね。今、表現の場を自分たちで閉ざしていられないんで。
山田 ぜひぜひ第二弾があれば僕もご一緒したいです。
小椋 僕もオリジナルの人形をつくってみたいですね。
山田 もはやライバルです。それがうまくできないことを祈るばかり(笑)。
小椋 あはは! でもこの人形劇ムービーは、いい歳をしたおじさんたちが、初めてのことに一生懸命、夢中になってつくったもの。作品のクオリティはもちろんですけど、ドキュメンタリーも含めてやってきたその姿勢を受け取ってほしいです。
モダンスイマーズが創る人形劇ムービー『しがらみ紋次郎〜恋する荒野路編〜』より
取材・文:いまいこういち

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