坂東巳之助に聞く『二月大歌舞伎』~
『泥棒と若殿』に重なる今日性

歌舞伎俳優の坂東巳之助が、東京・歌舞伎座で上演中の『二月大歌舞伎』第一部『泥棒と若殿』に出演している(~2/27千穐楽)。主な登場人物は、尾上松緑が演じる泥棒の伝九郎(以下、伝九)と、巳之助が演じる若殿の松平成信(以下、信さん)。立場も性格も異なる2人の人生が、偶然交わるひと時の物語だ。山本周五郎の短編小説を原作とし、演出は大場正昭(新派文芸部)が担当する。巳之助にリモート取材で話を聞いた。
■『泥棒と若殿』に重なる今日性

令和3年2月歌舞伎座『泥棒と若殿』(左から)伝九郎=尾上松緑、松平成信=坂東巳之助 /(C)松竹

『泥棒と若殿』は、1968年初演の新しいお芝居だ。最近では2007年5月の歌舞伎座、2010年11月の巡業公演以来の上演となる。両年ともに松緑が伝九を、巳之助の父である十世坂東三津五郎が信さんを勤めた。
「脚本は前回と同じですが、松緑さんは『お父さんの通りにやる必要はないからね』とおっしゃってくださいました。だからといって意識的に何かを変えるつもりもありませんが、この作品は台詞の間合いや座り方、手の位置まで型のある古典とは違いますから、その辺りは自由にさせていただいています」
登場人物や場面は厳選されている。ストーリーを動かすのは、伝九と信さんの心の変化だ。公演中の取材だったため、具体的な役作りについては「まだ言葉にするのは……」と言いつつも、見どころについて次のように語った。
令和3年2月歌舞伎座『泥棒と若殿』(左から)松平成信=坂東巳之助、伝九郎=尾上松緑 /(C)松竹
「お芝居の始まりで信さんは、自分の意思と関係なく屋敷に幽閉されています。刺客に狙われ命の危険を感じながら、人との関わりを断絶された状況。見かたによっては、ウイルスの危険を感じ、人と会うのも憚られる今の世の中と似たものがあります。時代設定のある話ですが、台詞や内容に難しいところはありません。人と人の温かいつながりに心がとけていく姿、人同士が触れ合う大切さを通し、自分がおかれた状況の中で自分に何ができるのか、考える物語です。今の人たちに伝わるものがあればうれしいです」
■コロナ禍でも落ち込まなかった
新型コロナウイルスの影響により2020年3月から7月の5か月間は、すべての歌舞伎の舞台が中止となった。巳之助はSTAY HOMEを徹底し、自宅で過ごしていたという。
「料理を作ったり、子どもと遊んだり。子どもが今2歳半で、言葉を喋り出す時期でした。その成長を一緒におもしろく過ごすことができたことは良かったです」
家族と充実した時間を過ごすことができたとはいえ、興行再開の見通しが立つまでは、気持ちが沈む日もあっただろう。しかし、そんなことはなかったと巳之助はいう。
「舞台をやるとなれば人が集まりますし、歌舞伎のお客様は年齢層も高い。お客様のことを考えたら、未知の感染症ですし、対策が見えない状態での公演は難しいだろうなと思いました。これは歌舞伎に限った話ではありません。それに、歌舞伎の舞台でもし何か起きてしまった時には、この先、歌舞伎ができなくなることだってあり得ます。何年何十年と歌舞伎を続けるためだと思えば、舞台に立ちたいという個人的欲求で落ち込むことはありませんでした」
焦ることもなかったのだろうか。
「なかったです。たとえば自分の不注意で怪我をして、半年間舞台に立てない状況ならば、焦ることもあったかもしれませんが」
令和2年8月歌舞伎座『棒しばり』太郎冠者=坂東巳之助  /(C)松竹
8月1日、歌舞伎座で5か月ぶりの興行『八月花形歌舞伎』がはじまった。巳之助は中村勘九郎と『棒しばり』に出演した。互いに手を縛られた自由のない状態で、どうにかして酒を飲もうとする二人の様子がコミカルに描かれる舞踊劇だ。楽屋では人の行き来が制限され、劇中では出演者同士の距離をとり、同じ盃に口をつけないなどの対策のもと上演された。
「劇場ではさまざまな対策がとられていました。自分自身も日頃から気を付けていましたが、いざ幕が開き舞台に出てしまえば、その間は感染症がどうと思うことはありませんでした。コロナ禍前と何ら変わらず、舞台に集中していました」
■楽しくなかった役なんてない
11月は博多座『市川海老蔵特別公演』で『流星』、『茶壺』、『お祭り』に出演した。1月は浅草歌舞伎のメンバーで、歌舞伎座『壽初春大歌舞伎』の『壽浅草柱建』に出演し、小林朝比奈を勤めた。そして今月の『泥棒と若殿』に至る。
令和3年1月歌舞伎座『壽浅草柱建』小林朝比奈=坂東巳之助  /(C)松竹
過去には話題の新作歌舞伎にも多数出演している。新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』ではタイトルロールを、スーパー歌舞伎II『ワンピース』ではゾロ、ボン・クレー、スクアードの3役を勤めた。新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』のミラルパにナムリス、『野田版 桜の森の満開の下』のハンニャも記憶に残るキャラクターだった。
平成30年8月新橋演舞場・新作歌舞伎『NARUTO-ナルト-』うずまきナルト=坂東巳之助 /(C)松竹

シネマ歌舞伎『スーパー歌舞伎II ワンピース』ロロノア・ゾロ役=坂東巳之助

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』ミラルパ=坂東巳之助  /(C)松竹
今後はどのような役に挑戦したいと考えているのだろうか。
「新作は新しいお客様に歌舞伎に興味を持っていただき、古典を観ていただくきっかけを作りたいと思ってやっています。もちろん、古典でやりたい役もいくらでもありますが、具体的には答えないようにしています。というのも、今までやりたい役だけをやってきたわけではありません。でもふり返ってみて、やって楽しくなかった役はひとつもないんです。自分から言わないことで、面白いことが転がってくる可能性もある。その方がより面白い人生をおくれる気がしています」
坂東巳之助
巳之助が出演する『泥棒と若殿』は、歌舞伎座『二月大歌舞伎』の第一部(午前10時30分開演)で27日までの上演。

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