Cymbalsの傑作
『Mr.Noone Special』から考えた、
ポスト渋谷系とは
(あるいはロックとは)何か?
さまざまな音楽へのオマージュ
お次はシャッフルのポップチューン、M10「River Deep,Mountain High」。M9もそうだったし、言い忘れていたけれどM5もそうだったのだが、これもそうで、洋楽の名曲、名盤からのタイトルの拝借だ。13曲中3曲(M3「Intermission 1」、M8「Intermission 2」、そしてこの次のM12「(inside of me)」を除いても10曲中3曲)と決して多くはないので、意図的にタイトルを持って来たわけでもないだろう。意図的なら全曲でそれをやっていたような気もするし、もっと整合性があったようにも思う(M5がThe Lovin' Spoonful、M9がDeep Purple、M9がIke & Tina Turnerと、ジャンルがバラバラだ)。意識することなくこれらのタイトルが出てきたということで、それだけ彼らの周りには洋楽の名曲、名盤が普通にあったということなのだろう。そこは当時どこかのインタビューで沖井も認めていた。
で、さわやかさすら漂うM10のあと、スペイシーなシンセの音が鳴る短いインストM12「(inside of me)」を挟み、M13「Mr.Noone Special(リプライズ)」を迎える。M12「(inside of me)」はどうして「Intermission 3」とならなかったのだろうか…いうのも気になるところだが、やはり注目はM1の“リプライズ”で締め括られるという、アルバムの構成だろう。“リプライズ”そのものはポピュラーミュージックにおいては珍しいものではなく、そこだけを指して『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を引き合いに出すこともない事例であるかもしれないが、初回限定盤ではこれに続いて「Good-night」が始まるとなると、やはりThe Beatlesを意識したのでは、と思わざると得ない。『Sgt. Pepper's~』では「(Reprise)」の前が「Good Morning Good Morning」である。“考えすぎでしょ?”と笑われるかもしれないけれど、ここまで説明してきた、本作に散りばめられたオマージュからすると、あながち的外れでもないかも…という思いが拭えない。
さて、落ちや結論めいたものを見据えずに書き連ねてきたため、後半はサウンドや歌詞のことよりも、その容姿、スタイルにフォーカスが寄った感は否めないものの、強引に結び付けるならば、『Mr.Noone Special』はそうした“これはこうではないか?”や“これにはどういう意味があるのだろう?”といったことを考えさせるアルバムであるような気がする。本作収録曲は総じて歌メロがキャッチーであるし、土岐のヴォーカルには変な癖がないため、あまり聴き手を選ばない印象もあり、ポップで親しみやすいアルバムとは言える。決して特定の層にしか届かないような代物などではない。リズム隊が発散するグルーブ感は尋常ではなく、バンドサウンドが醸し出すものは十二分にロックだ。それも間違いない。ただ、だからと言って、ポップなロックなのかと言ったら、そこだけに留まらない奥行きが本作には備わっている。“Mr.Noone”なるコンセプトがそうであろう。親しみやすくポップだが、単純なそれではないと言ったらいいだろうか。 “ロックミュージックとは本来そういうものだろう?”と問われているような気もする。
TEXT:帆苅智之