ハートウォーミングだけでなく
攻めのプレイが光る
アール・クルーの
『リヴィング・インサイド
・ユア・ラブ』
本作『リヴィング・インサイド
・ユア・ラブ』について
収録曲は全部で7曲。注目すべきはグルーシンの代表曲のひとつ「キャプテン・カリブ」で、この後さまざまなアーティストによってカバーされるが、本作が初演となる。ウィル・リーとスティーブ・ガッドの重厚かつ攻撃的なリズム・セクションをバックに、クルーのギターが暴れまくるジャズファンク・ナンバーとなっている。これだけ弾きまくるクルーは珍しく、ライヴを除いて彼のリリースした30枚ほどのアルバムの中でも最もアグレッシブな演奏であろう。
ジョージ・ベンソンものちに取り上げるタイトルトラックの「リヴィング・インサイド・ユア・ラブ」はクルーとグルーシンの共作で、パティ・オースティンやラニ・グローブスの女性ヴォーカルも参加し、“メロウ”(当時よく使われた言葉)な雰囲気を持つナンバーで、チェット譲りのゴージャスなクルーのギターソロが聴ける。
7分以上におよぶマーヴィン・ゲイの「悲しいうわさ(原題:I Heard It Through The Grapevine)」では、これまた珍しくブルージーな粘っこさをもつギタープレイが聴ける。ミュートロンのかかった重量感あるリーの挑発するようなベースも文句なしに良い。
クルー自身の作「フェリシア」は彼の長いキャリアの中でも上位に位置する名曲だ。覚えやすいリフとメロディアスで流れるようなギタープレイは、クルーの最も得意とするスタイルである。下手をするとイージーリスニングになってしまうところを、ガッドのゴツゴツしたドラミングとクルーのアグレッシブなギターソロが防いでいる。
凡庸なプロデュースなら本作は単なるBGMのような作品になってしまうところであるが、グルーシンの緻密なアレンジや参加メンバーの熱い演奏で、とてもテンションの高いアルバムとなった。本作はビルボードのジャズチャートで8位となり、R&Bチャートでも58位という結果を残している。本作と続く3rdアルバム『フィンガー・ペインティング』(’77)の成功で、日本でも多くのファンを獲得することになる。
僕にとってアール・クルーは、やっぱり初期の3枚に尽きる。
TEXT:河崎直人